
石川県立歴史博物館の展示風景
石川県立歴史博物館学芸主任の林亮太さんに、能登半島地震での同館のレスキュー活動をまとめた企画展が7月26日から8月31日まで開かれていたと聞いた。9月27日に静岡市葵区の静岡市歴史博物館で開かれたシンポジウム「能登の文化財レスキューと静岡県」(静岡県博物館協会主催)でのことだ。林さんは講師として招かれていた。
会期が終了していたので残念に思っていたところ、「ミニ展示をやっていますよ」とのこと。28日から金沢市周辺で取材の予定があった筆者は、新幹線の時間を早めて歴史博物館に立ち寄ることにした。

石川県立歴史博物館の外観
れんが造りの瀟洒な建築に入ると、1階の一部に企画展の出品物の一部と、同館のレスキュー活動のあらましを説明したパネルが置かれていた。同館独自の活動は、過去の企画展で文化財を貸し出してくれた県内の所有者に、被災状況を確認することから始まったという。
文化財レスキューの活動のプロセス、文化庁を頂点としたレスキュー事業の仕組みを説明したパネルを読む。「文化財レスキュー」という概念は、やはり2011年の東日本大震災が契機になったようだ。今回の地震の被災規模は「先例と比較しても甚大」だそうで、胸が痛んだ。

志賀町の「シオオケ」(潮桶)。昭和10年代まで海水の運搬に使用していた
驚いたのは、救出されたふすまの文化財的価値に関する説明だった。下張りとして貼り重ねられた紙は、その地域で不要になった古文書が使われることがあり、それを読み解くことで地域の歴史を知ることができる。
珠洲市の蔵元「宗玄酒造」創業者宅から運び出されたふすまを見ると、確かに筆文字で何か書いてある。読み解くと漁村の暮らしを垣間見られるという。

旧宗玄家襖下張り文書(骨組み)。江戸時代後期
文化財とは何か。国宝や重要文化財といった公的な「お墨付き」が付いたものだけでなく、過去にこの地に生きた人の暮らしを伝えるもの全てが文化財である。自分の周囲にも目を向ける習慣を付けようと思いを新たにした。
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