
濱田さんは、日本初の私立音楽大学である東洋音楽学校(現東京音楽大)の創立者・鈴木米次郎氏のひ孫にあたる。音楽一家の四代目として育ち、スイス政府給費留学生として、同地の音楽大学に留学した。
今回のコンサートはバロックハープ奏者の伊藤美恵さんとのデュオで、プログラムはルネサンス、初期バロック時代の楽曲が中心。スペイン、オランダ、英国、イタリアの作曲家の名前が並ぶ。濱田さんの説明がロマンをかき立てる。
「日本で言えば江戸時代の曲。当時は長崎の出島に、オランダやスペインの船が来ていた。私たちの先祖も、これらの楽曲を耳にしたかもしれない」
ということで、およそ400年前の欧州の曲を次から次に聴いたわけだが、濱田さんのダイナミックかつ技巧的な演奏は、「古色蒼然」という言葉からはるか遠く、みずみずしさに満ちていた。
リコーダーを両手で持ち、肩幅に足を広げて膝の関節をやわらかく使いながら前後、上下に体を揺らしながら演奏。音程の異なる3本を自在に操りながら吹き上げる音には、叙情、熱情、歓喜、哀感が確かに感じられ、その起伏の大きさにも驚いた。

ヤコブ・ファン・エイクの「イギリスのナイチンゲール」は鳥の鋭いさえずりを、濁った低音やうなりのような音も交えて表現。ジョン・ダウランの「蛙のガイヤール」では、伊藤さんのハープとの静謐な対話を繰り広げた。ふくよかなハープの和音が何もない空間に音領域を押し広げ、そこにリコーダーが細かいステップで切り込んでいく。波打つ水面にトビウオが飛び跳ねるような、そんな躍動感を受け取った。
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