
小藩ながら城郭風の陣屋を築いた小島藩。
NHK大河ドラマ「べらぼう」に登場する黄表紙作家「恋川春町」をきっかけに知った人もいるのでは?
恋川春町こと倉橋格は小島藩士。小島藩はどんな藩だったのか…。

小島藩 瀧脇松平家
静岡市清水区の小島地域にある小島陣屋跡。小島藩の政治拠点、藩主の居所となった場所だ。小島藩を立藩した瀧脇松平家は、徳川家の源流となる松平家の一家。三河国瀧脇郷(現・愛知県豊田市瀧脇町)を拠点に徳川家に仕えた。
松平信治が、1704年に小島に陣屋を構え初代藩主となった。明治維新によって廃藩になるまで164年間藩政を展開した。

領地は安倍郡、庵原郡、有度郡の30ヵ村。興津川の流域の山方、駿府周辺(有永、瀬名川、上足洗など)、安倍川河口地域と、小島藩の藩領は分散していた。領地が広いため葵区の宮ケ崎や清水湊にも役所を構えて、年貢などの管理を行った。
なぜ小島に藩を置いた?

小島陣屋跡からは小島の町並みが一望できる。
小島陣屋は甲州街道を見下ろす高台に築かれている。甲州街道は戦国時代には甲斐へ塩を運ぶ「塩の道」として甲州塩関が置かれた場所。古くから駿河と甲斐を結ぶ主要交通路だった。また、甲州街道は日蓮総本山身延山久遠寺への参詣道でもある。小島藩は駿府と甲斐を結ぶ主要交通路と身延山久遠寺の動静を見張る目的を持っていたと考えられている。
財政に苦しんだ小島藩
江戸時代、幕府将軍から1万石以上の領土を与えられた直属の家臣を「大名」と呼んだ。小島藩は大名になる最低基準の石高数1万石の小藩だった。立藩当初から、小島藩は財政難に苦しんでいた。1万石の大名の場合、本来は200人ほどの家臣を抱えるのが決まりだ。しかし、1856年の記録によると小島藩の藩士は計102人。家臣の不足分を補うために「譜代足軽制」を採用。領地の農民を雇い、武士を雇う人件費を抑えて、家臣の数を増やした。
小島藩は領民から借金し、その金額は1750~1754年の間に利息を含め7188両余りにも及んだ。小島藩が実施した財政改革による増税は農民を困窮させた。

当時の藩主はどんな気持ちで石垣を築いたのだろうか?
3代藩主松平昌信の時には惣百姓一揆が勃発した。小島藩が財政難で苦しむ中、臨済宗中興の祖と称される白隠禅師が小島の龍津寺を訪れている。龍津寺は松平瀧脇家の香華寺。白隠は1754年に龍津寺で「維摩経」を講じ、昌信は熱心に聴講したという。白隠に深く帰依した昌信は小島藩主の中で唯一、龍津寺に墓がある。陣屋なのに城郭風!?
江戸時代、城を持つことが許されたのは3万石以上の大名。城を所有できない大名は陣屋を構えた。陣屋は一般的に城のような軍事的な機能を持たない。ところが小島陣屋は城郭風の作りとなっている。外敵が侵入しにくい構造の「桝形虎口」、石垣を多用した3段の曲輪があるのが特徴だ。
桝形虎口。敵を升のような四角い空間に誘い込み、直進できないようになっている。
3段の曲輪。
石垣もいろいろ!
正門にあたる大手には4mの高さの石垣が築かれている。小島陣屋にある石垣は、石の加工方法や積み方から3つの時代に分かれる。1. 陣屋が作られた時代
2. 安政の大地震後
3. 明治時代以降
石垣の石材は別当沢という近くの川で採れる砂岩を主に使用している。小島陣屋跡は、江戸時代中期の大名陣屋の在り方と構造を知る上で貴重なことから2006年に国の史跡に指定された。

打込接ぎ。石の接合部を加工し、隙間を少なくする加工法。石材と石材の隙間には間詰石(まづめいし)と呼ばれる小さな石を打ち込む。

切込接ぎ。石の接合部を加工し隙間をほとんどなくしたもの。
約100年振りに元の場所に戻った御殿書院

1868年に小島藩が千葉県に転封後、小島陣屋は小学校として利用され書院は校長室として活用された。その後、小学校移転に伴い書院は国道沿いの場所に移築され、公会堂として地域の人々に利用された。「NPO法人小島文化財を守る会」によると、同会の婦人部が定期的に掃除をし、大切に引き継がれてきたという。陣屋の御殿建物が現存するのは珍しく、2001年に静岡市指定有形文化財となった。静岡市は史跡整備事業の一環として書院を2024年、元の位置に約100年振りに戻し移築復原した。

居間・上の間

二葉葵を透かし彫りした欄間。

書院の南側と西側の屋根の一部には江戸時代の瓦を使用し、小島藩主の家紋「丸に桔梗」紋がある。静岡市立清水小島小学校の校章は桔梗をかたどり、現在に引き継がれている。
江戸時代から残存していた部材を使用し、当時の姿に近づけた。市は小島陣屋跡の整備を現在も進めており、今後、大手の階段なども復元予定。同会は「小さい藩だったが、こんなにすごいものが残っていることを多くの人に知ってほしい」と小島陣屋の魅力が広がることを期待する。
<取材協力>静岡市観光交流文化局歴史文化課 ・NPO法人小島文化財を守る会
<参照文献>『わが郷土』清水市小島青年団/『清見潟第24号』清水郷土史研究会/『小藩大名の家臣団と陣屋町3-南関東・中部地方-』著者:米田藤博 出版社:クレス出版
<利用案内>
所在地:静岡市清水区小島本町・小島町地内
書院公開日時:土日祝(平日・年末年始は休館)
9時30分~15時30分(3月から10月)
9時30分~15時(11月から2月)
史跡小島陣屋跡公開日時:常時見学可
※見学は無料
問合先: 静岡市観光交流文化局歴史文化課 054-221-1069(平日)
※この記事はシミズ毎日2025年8月24日号を一部再編集し、掲載しています。