【庭園アーカイヴ・プロジェクトのトークイベント「日本庭園とウェブメディア『おにわさん』と『終らない庭のアーカイヴ』」】 日本庭園は「動いている」。庭園の情報を蓄積し、一つ一つをアーカイブ化する意義とは

静岡新聞論説委員がお届けする、アートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の料亭「浮月楼」内の「浮月花寮」で8月2日に開かれた庭園アーカイヴ・プロジェクト(リーダー・原瑠璃彦静岡大人文社会科学部准教授)のトークイベントを題材に。7月25日から同じ会場で展示が始まった「終らない庭のアーカイヴ Incomplete Niwa Archives 004:Fugetsu Four Seasons Version」の関連イベント。

(左から)原瑠璃彦さん、津田和俊さん、イトウマサトシさん、山澤清一郎さん


日本各地の日本庭園の姿を動的にアーカイブ化する活動「庭園アーカイヴ・プロジェクト(GAP)」の展示会では、四つのモニターを活用して春夏秋冬の「浮月楼」の庭園の姿と点群データによる映像を映し出している。最先端技術で庭園の魅力を再発見する、ユニークな試みである。

トークイベントでは、GAPのメンバーと、全国の日本庭園を約2000カ所紹介しているウェブサイト「おにわさん」の関係者が語り合った。

まずは「おにわさん」の創設者で編集者/Webディレクターのイトウマサトシさん(浜松市出身)が、「庭園ファン」の実相と、「おにわさん」立ち上げ(2016年)の意図について語った。「コンセプトは『お庭をゆるく愛でる』。評論的でなく、気軽に庭をもらってもらうための情報を提供している」という。

イトウさんによると日本三名園(茨城県の偕楽園、石川県の兼六園、岡山県の岡山後楽園)と都立9庭園(浜離宮恩賜庭園、小石川後楽園など)の年間来場者数は合算で約1000万人いる。これが潜在的な「庭園ファン」の概数と言えそうだ。

「おにわさん」の運営パートナーでもある造園家、京都芸術大学非常勤講師の山澤清一郎さん(富士市)は、庭園と庭園を鑑賞する座敷の間にある「靴(沓)を脱ぐ」という行為に着目した。大学での博士号の論文テーマという。山澤さんはこの日本的な現象のルーツを8世紀ごろと見定める。

「天皇に面会する時に靴(沓)を履いて昇殿するのは失礼だという考えがあった。貴族の行動様式が武士に、そして庶民に伝わった」。建築と庭をつなぐ中間領域としての「沓脱(くつぬぎ)の役割についても言及した。

「庭園アーカイヴ」のメンバーでもある京都工芸繊維大学准教授の津田和俊さんは、今回展示されている浮月楼の庭園の、3Dデータ取得の作業内容を説明した。庭園内に三脚を設置して3Dスキャンのカメラを置き、レーザーによって周囲の構造物や樹木、植物の位置や色の情報を収集するという。

「レーザーは300メートルほど先まで届くが、(届かない場所や、物体の裏側など)どうしても死角ができる。今回は死角をなくすために、庭園内の90カ所ぐらいでデータを取り、一つにまとめた」

庭の池のDNA解析も行い、そこに「いる」あるいは「いた」生物の痕跡も探った。われわれは庭園を散策する限りではコイぐらいしか思いつかないが、リストにはアメリカザリガニ、フトミミズ、マミズクラゲなどのほか、微生物や真菌類の名前もずらりと並ぶ。ヒトのDNAも検出されている。

津田さんは「見えない動物を可視化したい」と話した。人の手による自然としての庭園に、確かに生態系が生まれていることが、はっきり分かった。

静岡大人文社会学部准教授の原瑠璃彦さんは「庭は動植物や水の流れといった動くものでできている。つまり庭は『生きている』」と語った。かつては写真や絵画など二次元的な記録にとどまったが、「今ならさまざまな技術を生かして、日本庭園を動的に残しておくことができる」とし、プロジェクトの意義を強調した。

(は)

<DATA>
■庭園アーカイヴ・プロジェクト「終らない庭のアーカイヴ Incomplete Niwa Archives 004:Fugetsu Four Seasons Version」
会場:静岡市葵区紺屋町11-1 浮月楼内「浮月花寮」 
開館:午前10時~午後6時  ※入場無料
休館日:月、火曜日
会期:8月31日(日)まで

▼関連イベント
映画「動いている庭」上映とトーク「『動いている庭』から『終らない庭』へ」
登壇者:澤崎賢一(アーティスト/映像作家、 総合地球環境学研究所特任助教)、マレス・エマニュエル(京都産業大学准教授)、城一裕(九州大学准教授)、原瑠璃彦(静岡大学准教授)
会場:静岡市葵区紺屋町11-1 浮月楼内「浮月花寮」 
開催日時:8月22日(金)午後3時~午後5時半  ※入場無料
参加申し込み:企画展ウェブサイト(https://karyo.fugetsuro.co.jp/exhibition/)のフォームから

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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