【アートカゲヤマ画廊の第8回「K展」】 もともとは追悼展。故人のイニシャルに県内画家が集い、ユニークな定期展に発展/藤枝市

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は藤枝市のアートカゲヤマ画廊で6月15日まで開催中の、県内の画家6人による第8回「K展」を題材に。

これはユニークな展覧会だ。とある故人の追悼展が、毎年1回の定期展として定着している。その間、メンバーを緩やかに入れ替わっている。個展でも、グループ展でも、公募展でもない。故人のイニシャルのもとに、腕に覚えのある画家が作品を持ち寄っている。樹木葬の後、大木の根元にいくつもの花が咲いた光景を思い浮かべる。

もともとは2011年に亡くなった画家大石勝広さん(藤枝市)をしのんで、生前の大石さんと親しかった画家グループが2017年に始めた。「K展」の「K」は、大石さんのファーストネームから取っている。

かつて静岡新聞の月1回の連載「鎌倉だより」(三木卓さん執筆)の挿絵を担当していた松井正之さん(静岡市清水区)が中心となり、回を重ねた。新型コロナウイルス禍で中止した2020年以外はだいたいこの時期に。油彩画や水彩画の新作を複数持ち寄る。

興味深いのは立ち上げメンバーの中にも複数亡くなった方がいて、入れ替わるようにして新しいメンバーが加わっていることだ。展覧会自体、根無し草のような存在だったはずだが、フェードアウトしていない。定期開催を続けている。
今回名を連ねる6人の中にも、松井さんや、初期からのメンバー藤ケ森勉さん(富士宮市)の推薦を受けて出品している人がいる。筆者が足を運んだ日に会場にいた吉田均さん(島田市)、池谷富美子さん(焼津市)がそうだ。

吉田さんはオレンジ色を基調にした画面に古代のイメージを託した。池谷さんはそれぞれを右手、左手で仕上げた二つの抽象画をものにした。2人は「力のある方ばかりだから緊張する」と声をそろえる。

会場正面には、いかにも松井さんらしい抑えた色調の動物画が3点。黒の下地に色を重ね、ウサギ、カラスの側面を描く。「松井構図」とも言いたくなる静的な画面構成。生きるものへの慈しみがにじみ出る。

藤ケ谷さん、大石節雄さん、大畑達郎さんの作品も含め、奥行きのある展示会場が「絵を描く喜び」に満ちている。

(は)

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■第8回「K展」
会場:アートカゲヤマ画廊
住所:藤枝市小石川町4-10-28  
開廊:午前10時~午後7時
会期:6月15日(日)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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