オープンから6カ月 「副業」すし職人の現在は?
キンメダイ・ムツ・イカなど海産物が豊富で、特にキンメダイは日本一の水揚げ量を誇り年間1,000トン以上が揚がる下田市。ペリーを乗せた黒船が来航し、日米和親条約の細かい規定を定めた日米下田条約が了仙寺で締結されたことでも知られています。
了仙寺(下田市七軒町3-12-12)に向かうためペリー提督一行が行進した「ペリーロード」
開港から170周年を迎えた2024年、そんな了仙寺の敷地内にすし店「寿しらぼ三◯二」がオープンしました。
全席カウンター席 立食形式
この日も客足が絶えずカウンターは満席。下田港で水揚げされたばかりのキンメダイやマグロ、美しいサーモンピンクの身と深い甘みが特徴の富士山サーモン、魚の旨味を引き出す「津本式究極の血抜き」で丁寧に仕立てられた伸東ヒラメなど、全国から取り寄せたこだわりの旬のネタが並びます。なんとお値段は全品1貫300円!
下田名物のキンメダイ

下田港で水揚げされたマグロ
手頃なお値段ですしを提供できる秘密は板場に立つ職人さんの働き方にありました。慣れた手つきで次々と握っていく職人の濱口さんの本業は、なんとコテージのオーナ。「副業」としてすしを握っています。

「寿しらぼ三◯二」をきっかけに寿司を握り始めた濱口さん
「飯炊き3年、握り8年」と言われ、一人前になるには10年以上の修行が必要とされるすし職人。そんな常識を覆したのは下田の老舗すし店「美松」4代目の植松隆二さんでした。
下田市で約90年続くすし店「美松」の4代目 東京のすし店で10年修行後、下田市に戻る
「寿しらぼ三◯二」をオープンさせ、本業をしながらもすしを握ってみたい、という人に植松さんが握り方や心構えを指導し、一定のレベルに達したと認められれば職人として客前でデビュー。植松さんは仕入れや仕込み、接客などのサポートを行い、裏方に徹します。「副業」としてすしを握る理由は人により様々。
慣れた手つきですしを握っていく
コテージのオーナーの濱口さん:「すしを握る技術を覚え、自分の経営するコテージに宿泊した方にケータリングとしてすしを提供していきたい」

東京から下田に移住した齋藤さん
齋藤さん:「握る体験をして、楽しさに引かれて副業すし職人を始めた。お客さんの前で握ることで自分の本業にも活かせる。女性が握っているほうがお店に入りやすい、と言ってくれる方もいてお客さんにとっても気軽に立ち寄れる場所になってきている」ほかにも大手飲料メーカーの営業担当者、コーヒーショップの経営者、など異なるバックグラウンドを持つ人々が植松さんのもとを訪れ、副業すし職人として働いています。すし職人として挑戦してみたい、という人に機会を提供し後押しする植松さんの原動力は生まれ故郷である下田市を盛り上げたい、という思いでした。

営業後 シャリの握り方を教える植松さん
「寿しらぼ三〇二」店主 植松隆ニさん:「下田市内のすし店は年々減少している一方で、インバウンドを中心に観光客は年々増加。海の幸を気軽に食べられるすし店は混雑してしまい、店に入れずに帰ってしまう方もいる。何年先も賑わいを絶やさないためにも、自慢の海産物を味わっていただくことで下田のリピーターになってもらいたい。そのためには握り手を育成し、食べてもらう機会を増やしていく必要があると考え、店をオープンさせた」オープンから6カ月が経ちリピーターも増え、お客さんからの評判も上々です。ゲストハウスやコワーキングスペースなどの機能を持つコミュニティスペース「Kazemachi SHIMODA(風まち下田)」を運営するオーナーの津留崎さんもお店のファンの1人です。

津留崎さんも植松さんのもとで修業を積んでいる
風まち下田オーナー津留崎さん:「オープン当初から通っている。はじめは緊張して握っていた職人さんも今では積極的にお客さんと会話をするなど慣れてきているのが分かる。店に足を運んでいるうちにゲストハウスで開くパーティーで自分の握ったすしを出せたらいいなと思い、副業すし職人としての修行を植松さんのもとで積んでいる。お客さんに握る経験ができるのは本当にありがたい」
職人さんとの会話も楽しみのひとつ
旅行の途中で立ち寄ったという神奈川県から来たご家族も舌鼓を打ちます。
神奈川県から訪れたご家族
神奈川県から訪れたご家族:「手頃な値段で高級魚のキンメダイのすしを味わうことができた。副業と聞いて驚いた。生まれたばかりの子どもと一緒だとすし店に入りにくかったりする。こちらのお店は女性が握っていたり、立ち食いのカウンター席だったりと気軽に入りやすく助かった。」植松さんの取り組みは下田市にとどまらず、さらなる広がりを見せています。西伊豆町を中心に地域課題の解決に取り組む西伊豆プロジェクトの矢岸代表はこの日、植松さんのもとへ相談に訪れました。

西伊豆プロジェクト矢岸代表
西伊豆プロジェクト矢岸代表:「かつて西伊豆町に数軒あったすし屋も残っているのは1軒のみ。このままでは西伊豆町からすし店が消えてしまう。副業すし職人という新たな働き方を提示する植松さんに感銘を受け、西伊豆町でも同様の取り組みができないか相談に来た。いつか西伊豆町でもこうしたお店をオープンさせ、担い手を増やしていければと思う」
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■寿しらぼ三〇二
住所:下田市七軒町3-12-12(了仙寺 敷地内)
定員:10人程度
価格:1貫一律300円。職人おまかせ3貫セット(800円)や5貫セット(1,300円)もあり。
飲み物(ソフトドリンク300円~、アルコール500円~)も提供する。
営業:金~日曜の11:30~14:30
※お休みの日もあるので詳細はお店のインスタグラム(sushilabo302)をご確認ください。