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(川内)えっ、偶然。私も一昨年4月に長男の結婚式で福岡に行った時に徴収され、初めて「こういうものがあるんだ」と知りました。
(山田)そうなんですか。
(川内)やー、今日はいきなり話が合いましたね。
(山田)宿泊税、今や全国で広がりつつあるようですが。
(川内)静岡県内では熱海市が初めて4月からスタートさせました。質の高い観光地を持続させるという目的にふさわしい、利用者と宿泊業者の双方が納得できる内容になっているか、使い道や効果の検証を怠ってはならないと思います。
税を支払う宿泊者のほとんどは住民以外なので、議会や住民の理解は比較的得られやすいのが導入が進む一つの理由と言え、それだけになおさら厳しいチェックが必要です。
宿泊税とは

(川内)自治体が条例に基づいて独自に課す「法定外目的税」の一つで、総務大臣の同意を得て新設します。税収は観光振興や観光客が集中して市民生活に支障が出る「オーバーツーリズム」対策に充てられ、宿泊料金帯に応じて1人1泊当たり数百円を定額で徴収するケースが多いです。北海道倶知安(くっちゃん)町は宿泊料金の2%を徴収する定率制を採用しています。
欧米は定率制も多く、税率も10%程度など日本の水準より高めの都市が目立つようです。富裕層の宿泊客が多ければ、定率が許容されやすいという考え方もできます。
(山田)いつごろから始まったんですか。
(川内)2002年の東京都が皮切りです。
(山田)そんなに前からあるんだ。知らなかった。
(川内)24年度までに大阪府や京都市など全国11の自治体が導入し、導入が決まっている自治体も10を超えます。県内では下田市や小山町などが検討しています。交通混雑やごみのポイ捨てなどオーバーツーリズムが深刻な京都市はその対策の拡充もあって、現在3段階の課税区分を細分化した上で、26年度から最高額を千円から1万円(1泊10万円以上の場合)に上げることを目指しています。
(山田)京都は税金だけで1万円!。10万円で泊まったら11万円か。
導入の動きが加速している背景

(川内)「ブーム」とも言える状況の背景にあるのは、コロナ禍が収まったことと円安などを追い風とした国内外からの観光客の増加です。3月に日本を訪れた外国人客は約350万人で、3月としては過去最多。1月からの累計で約1054万人と最速で年1千万人を超えました。24年の県内宿泊者も延べ2254万人で前年から3.2%増えました。
モノ消費からコト消費へ移り変わる世界的トレンドもあります。人口減で税収が先細りし、高齢化で社会保障関係費が増す中、自治体が独自に観光財源を確保しようと宿泊税に注目するのは理解できます。熱海市は県内の市で高齢化率が最も高いです。
(山田)税金を徴収できる対象者が増えていることと、自治体の台所事情か。
(川内)さらに税の仕組みで見ると、「法定外目的税」である宿泊税による税収が増えても、地方交付税交付金は減らされないというメリットもあります。
熱海市の宿泊税とは
(山田)熱海市の枠組みを詳しく教えてください。(川内)税額は宿泊料金に関係なく一律、1人1泊200円で、市内約400の宿泊施設で徴収されます。12歳未満や修学旅行生は課税対象外です。市によると、年間約7億円の税収が見込まれ、観光施策を企画立案する司令塔である観光地域経営組織(DMO)「熱海観光局」の運営費や花火大会開催費などに充てます。
(山田)7億円は大きいな。具体的な使い道は決まっているんですか。
(川内)DMOの上田和佳CEOは活用案として、坂が多い同市を訪れた観光客の移動をサポートする環境整備などを挙げました。具体的な言及はありませんが、乗り物系や動く歩道の整備、キャリーケースを預かる場所の増設などが考えられます。中長期的にはランドマークの整備なども検討されています。これから議会への説明などもありますし、具体化してくるでしょう。
(山田)荷物を預かる場所が増えるのはうれしい。手ぶらの街歩きは楽で助かる。ところでDMOってどんな組織なんですか。
(川内)ディスティネーション・マネジメント・オーガニゼーションの略。最近、全国的に増えている法人組織です。いろいろなスタイルがあるようですが、観光戦略を主導し、旅行商品の開発なども行います。連携の要となる存在でもあります。データ分析などにも力を入れます。
求められる透明性

(川内)まさにその通りです。熱海市やDMOに求められるのは、税収の使い道や効果の透明性で、無駄遣いを検証する大前提となります。住民にも分かりやすい形で、丁寧に説明してほしいです。
市は、例えば宿泊料金帯に応じた課税区分の新設なども含め、税額を原則5年ごとに見直す方針で、議論を尽くすためにも「見える化」は不可欠です。観光産業は裾野が広く、使途が拡大してしまう懸念もあります。
(山田)熱海は静岡のみならず、全国的に見ても代表的な温泉観光地。宿泊税導入のモデルケースとして注目が高まるのでは。
(川内)打ち出の小づちのように思っている自治体もあるかもしれませんが、安易に考えてはなりません。
(山田)導入を検討している自治体では何が重要でしょうか。
(川内)観光地の性格や宿泊施設の実情を踏まえ、官民できめ細かな議論を重ねる必要があります。全国的には「定額制」と宿泊料金に比例した「定率制」とを巡る主張が対立した例もありました。熱海市でも宿泊業界の一部から一時、「既に徴収している入湯税と二重課税のようになる」「客から敬遠される」などの異論が出ました。合意形成をしっかり図りながら制度設計すべきです。
(山田)確かに物価高の中、税の上乗せには賛否があるでしょう。ここでメッセージが届いています。「宿泊税が高くなりすぎると、ネットカフェなどに流れそう」「ただでさえ宿泊料金が上がっている中、さらに宿泊税となると、旅行に手が届かなくなる」など。
(川内)宿泊代、高くなっていますね。
(山田)カプセルホテルで1泊1万円です。
ブランドに磨きをかける契機に
(川内)宿泊税の導入は観光地にとって、地域の将来にもかかわる大きな転換点と言えます。税収を有効活用して魅力を高め、さらに多くの人に来てもらえる好循環につなげることが重要です。自治体は税を徴収する以上、より高い満足感が得られるよう環境を整える責任があります。どのような観光地を目指すかを明確にし、ブランドに磨きをかける契機にしていただきたいです。
(山田)多少時間がかかるかもしれないけど、「あっ、熱海良くなったね」「これって宿泊税のおかげなんだ」と思ってもらえるようにしないと。
(川内)本当にそうですね。ホスピタリティーのレベルが上がったと、リピーターなどの人に実感してもらえるような税収の使い方に、知恵を絞ってほしいです。
(山田)宿泊税は皆さんの住む自治体でも導入されるかもしれません。旅行者としても住民としても、注目してみてはいかがでしょうか。今日の勉強はこれでおしまい!