丈夫で水・油はじく有機フッ素化合物
ここ数年、ニュースでよく取り上げられるようになったPFASについて、京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授の原田浩二さんに解説していただきました。聞き手はSBSアナウンサーの影島亜美。
<目次>
PFASはどこで使われてきた?
発がん性など人体への影響は?
静岡県内の対策と現状
私たち個人にできることは?
影島:原田さん、改めてPFASはどんな物質なんでしょうか?
原田:PFASと書いて「ピーファス」と読みます。有機フッ素化合物と言われ、特に炭素とフッ素がたくさん結合したものをPFASと呼んでいるわけです。
炭素にフッ素が多く結合した物質は自然界には存在しないので、人工的に作られたものです。有機物なので、組み合わせ方によって少なくとも4700種類以上あるんじゃないかと言われてます。
わざわざ作ってきたのはなぜかというと、特徴的な性質としてPFASを使った製品は水や油をはじき熱や光にも強いので、丈夫で長持ちする性質があるんですね。それで便利だと使ってきたのです。環境中に広がった場合なかなか分解されず、中には私たちの体内に溜まりやすいものはずっと残るんじゃないかと言われています。そのため、永遠の化学物質、フォーエバーケミカルズとも呼ばれているんです。たくさんあるPFASの中でも、PFOS(ピーフォス)とPFOA(ピーフォア)が代表的な物質になります。
PFASはどこで使われてきた?
影島:例えばどんな目的で、どんな製品に使われてきたのでしょうか?原田:水や油をはじく性質から、撥水(はっすい)や防水スプレーなどに使われます。例えば服や靴、レインコートもフライパンのコーティングを作る段階でも使われます。そのほかには特殊な消火剤です。例えば空港や基地でガソリンなど燃料が燃えた時に水では消火できないので、泡をたくさん発生させる消火剤」で鎮火します。その中にPFOSが使われてきました。
発がん性など人体への影響は?

原田:種類が多いPFASの中でもPFOS、PFOAと呼ばれるものについて多く調査が行われてきました。中でもアメリカのある工場水道水汚染が分かった地域で行われた住民約7万人を対象にした健康との関係を調査したデータがあります。
その結果を見るとPFASの摂取量が高い人は、低い人に比べて、血液中のコレステロールの値が高くなっていたり、腎臓や精巣のがんなど一部のがんを患う人の数が多かったんです。他にも、ホルモンを分泌する甲状腺の病気、妊娠高血圧症の割合が増えているという報告がありました。
こう聞くと、PFASを摂取したら確実にそういった病気になるのかと思われるかもしれませんが、摂取量が高い人と低い人を比べた時に確率が上がる、リスクが上昇するという状況になっています。
影島:発症しうる病気とか、様々なことが分かってきたんですね。
原田:さらに研究が進んでいるので今後注目しないといけないと思います。
影島:日本では最近ニュースでよく聞くようになったと感じていますが、いつ頃から問題になっているんですか。
原田:PFASが大量に作られるようになったのは1940年ぐらいからです。90年代後半頃から、この壊れにくさが問題になるんじゃないかという指摘が徐々に始まりました。
2000年になって、アメリカ大手化学メーカーの3M社がPFOSやPFOAを自主的に生産を中止することを発表しました。
今まで多く使われたものが実は環境汚染物質になると分かり、産業界や研究者にとっても大きな驚きになったわけです。
影島:日本での調査はどんな風に行われていますか?
原田:2000年に問題が分かってから、大学、都道府県の研究所がPFASの検出場所を調べてきました。2020年に水道水や河川、地下水に目標や目安になる数値を環境省や厚生労働省が作ったんですね。その後、市町村などが水道水の検査をするように徐々になってきましたが、義務ではないので、自治体や事業所によっては、まだ検査していないところもある状況です。
静岡県内の対策と現状

原田:徐々にPFASが排出されている、もしくはある場所が分かってきています。そこだけじゃなく周辺の対策や、私たちが口にしないための対策が取られているわけですね。
汚染が分かったところはどんどん対策に取り組んでもらいたいと思っています。すぐに急性の健康被害や影響が出るわけではないのですが、今後影響が出ないように、しっかり今のうちから管理するという点で期待しているところです。
私たち個人にできることは?
影島:個人としてはどんな対策ができるでしょうか?原田:私たちはPFAS自体を見ることや調べることができません。一番身近な水道水については、お住まいの町の水道の担当窓口や自治体ホームページに検査結果を載せている、もしくは答えてもらえるかと思います。まずは自分の市町の水はどうなのか知ってもらいたいですね。
もし水道水のPFAS濃度がやや高い、国が出している一つの目安を下回っているが、やや高いなら、活性炭使用の浄水機で濃度を下げられると言われています。
影島:浄水器は有効なんですね。
原田:必ずしも価格が高いものがいいというわけではなく、メーカーが定めるカートリッジの交換頻度を守って使うことが一番大事だと言われています。
影島:最近は、PFAS不使用の「PFASフリー製品」もありますね。
原田:そうですね。例えば撥水・防水はPFASでなくても可能なので、将来に影響するかもしれない物質を使っていない製品がどんどん出てきてほしいですし、そういった商品を選ぶという選択も重要かと思います。
影島:企業の取り組みを後押しするのも大切ですね。原田さん、ありがとうございました。
※2025年4月18日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。
今回お話をうかがったのは……原田浩二さん
2002年から京都大学の小泉昭夫教授(現名誉教授)の研究室でPFASの環境調査、バイオモニタリング、化学分析法の開発に携わってきた。近年は沖縄県や東京・多摩地区、大阪など各地のPFAS汚染地域での調査に取り組む。2023年に環境省 PFASに対する総合戦略検討専門家会議委員、2024年にはWHO Technical AdvisoryGroup on PFAS Assessmentに任命される。