【THE DRAMAの「床の在りか/壁の在りか」】 石上和弘さん、小左誠一郎さんのグループ展

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は掛川市のギャラリー「THE DRAMA」で2月2日まで開催中の「床の在りか/壁の在りか」展を題材に。

木材から思いも寄らぬ造形を生み出す石上和弘さん(静岡市葵区)、丸や四角形といったシンプルな図形をモチーフにした絵画を追求する小左誠一郎さん(同市清水区)の2人展。写真家木坂美生さんをゲストに迎えた。

ほどよくダメージを与えたタイル床のギャラリー空間に入るとまず目に入るのが、石上さんによる直径5.4メートルの「裾野を歩く、山腹に寝転がる」。2013年制作の本作を県内で公開するのは2015年の「めぐるりアート静岡」以来という。富士山を模した作品の山裾から頂上に至るまでのなだらかな傾斜は、21の木材パーツで成り立っている。正円に仕上げる精緻な計算とクラフトマンシップに感嘆する。

白の壁面を飾るのは小左さんによる抽象絵画。正方形のキャンバスを端正かつ法則的に区切ってペイントしている。色分けされた長方形、正方形を眺めていると「画面を切り分けた」というより「組み合わせた」ように見えてくる。精巧な寄せ木細工を眺めるような気分だ。人間の根源的な快感原則に沿っているのだろう。

会場を訪れた石上さんに話を聞いた。

-「裾野を歩く、山腹に寝転がる」は2015年の「めぐるりアート静岡」で県立美術館(同市駿河区)のエントランスホールに置かれていましたね。

それ以前にグランシップ(同市駿河区)で展示した時に、学芸員から『富士山』というテーマを与えられたんです。言われなければ富士山をモチーフにしていませんでした

-鑑賞者が彫刻の「裾野」を歩いたり、「山腹」に寝転がったりしていた光景が印象的です。

「裾野部分のへこんでいる場所がメインですね。いっぺん踏み込むことで富士山という場所を認識する。親しみやすさも生まれています」

-昨年11月の「かけがわ茶エンナーレ2024」のメインオブジェに採用された「アフターニュートンアップル」は好評を受けて現在も掛川城内に展示されています。市内2カ所で石上さんの大作が見られることになりますね。

「今回の展覧会は、茶エンナーレで知り合ったTHE DRAMAの大村(聖)さんから『正月に富士山を飾りたい』と要望があって実現しました。床に置いた『裾野を歩く、山腹に寝転がる』を天井までつなげたらどうなるだろう、と考えて思いついたのが『アフターニュートンアップル』。この2作品を同じ時期に近い場所で見てもらえるのはうれしいですね」

会場には六角形に切り出した材を用いたアートプロジェクト「木畳(kitatami)」のピースを壁にはわせた作品も展示している。全国各地への「貸し出しの旅」を経た木片群が、新たなミッションを与えられているように感じた。

(は)

<DATA>
■THE DRAMA「床の在りか/壁の在りか」
住所:掛川市西大渕1574 
開館:月・火・木曜午前11時~午後4時、土・日曜午後1時~6時
休館日:水・金曜
会期:2月2日(日)まで

 

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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