サッカージャーナリスト河治良幸
3バックでスタートダッシュに成功した森保ジャパンのポジション争いを整理する<サッカーW杯アジア最終予選>
【サッカージャーナリスト・河治良幸】森保一監督が率いる日本代表は北中米W杯のアジア最終予選のスタートとなる9月シリーズに臨み、ホームで中国に7−0、アウェーでバーレーンに5−0と快勝。勝ち点6となり、グループCの首位に立った。
得失点差は+12に。6月シリーズで本格導入した3−4−2−1を継続して使い、2試合ともに完勝。しかも無失点で終えたことは過去のどの最終予選よりも理想的な滑り出しと言って良い。
今回はベンチメンバー枠の23人より4人多い27人の選手が招集されたが、2試合の中で試合に出た選手は19人にとどまった。すでに2次予選の突破を決めていた6月シリーズに比べると、やはり結果がシビアに求められる最終予選のスタートということもあってか、スタメンも中国戦とバーレーン戦で入れ替えがあったのは2シャドーの久保建英と鎌田大地のみ。中国戦でフル出場した選手のうち、GK鈴木彩艶、センターバックの谷口彰悟と町田浩樹、ボランチの守田英正、シャドーの南野拓実の5人がバーレーン戦でもスタメン起用された。
誰もが求められる守備意識
3−4−2−1をベースに布陣を考えると、確かにポジション適正や組み合わせで、優先度が下がってしまった選手もいるかもしれない。例えばサイドバックが本職の菅原由勢や長友佑都は3バックの場合、ウイングバックが主な働き場所となるが、今回は右なら堂安律と伊東純也、左なら三笘薫や前田大然、中村敬斗という攻撃的なキャラクターの選手が重視された感もある。ただ、堂安が「攻撃的と言っている中でゼロで抑えているし、これだけ良い選手が守備の重要性を理解している。世界基準になってきている」と語るように、攻撃に特長を持った選手でも、森保一監督が求める守備のタスクを当たり前のようにこなしていることは見逃せない。
10月シリーズは変化?
一方、堂安も認めているように、高い位置からボールを奪いにいく守備では今回のウイングバックの組み合わせでも十分に対応できるが、相手のロングボールに対して5バック気味に構えて対応する時には、相手が意図的にウイングバックのところに蹴ってくると、彼らがヘディングで跳ね返さなければいけなくなる。バーレーン戦でも堂安のところを狙われて、うまくクリアしきれなかったセカンドボールからピンチになるシーンも見られた。次の10月シリーズはカタールW杯の出場国であるサウジアラビアとオーストラリアが相手ということもあり、自陣で守る時間もより増えてくることが想定される。同じ3バックでも左右ウイングバックの構成が変わってくる可能性はある。
冨安と伊藤が復帰すれば…
3バックは冨安健洋と伊藤洋輝という欧州のビッグクラブに所属する2人を怪我で欠く状況で板倉滉、谷口、町田というセットが2試合とも使われた。中国戦で大量リードした後半にパリ五輪世代から初招集された高井幸大が出場チャンスを得たが、アジアカップ以来の復帰となった中山雄太に出番は無かった。中山と同じ町田から初招集された望月ヘンリー海輝はバーレーン戦を前に右足首を痛めてベンチ外が確定していたが、町田では4バックの右サイドバックで起用されており、ウイングバックにしても、センターバックにしても、ポリバレント的な役割を求められることになる。また今回の2試合で安定したパフォーマンスで無失点勝利を支えた板倉、谷口、町田のセットも、冨安や伊藤が復帰してきた場合にあらためて競争にさらされるだろう。
遠藤&守田は固定か
中盤は2ボランチがキャプテンの遠藤航と守田英正のファーストセット。中国戦は途中から遠藤に代わり田中碧が投入されたが、基本的な守備能力やプレー強度に加えて、ゲームコントロールなどを考えても、最終予選を通して固定的な起用になっていくかもしれない。中国戦の途中からキャプテンマークを巻き、バーレーン戦で後半に2得点を記録した守田はレギュラーが確約されたわけではないことを前置きしながら「最終予選のしょっぱなから2試合スタートで出て、結果を残せたのは非常に自分のパフォーマンスとして大きい」と手応えを語った。
静岡県勢の旗手に求められるもの
今回のメンバーだと旗手怜央と鎌田大地はボランチの候補でもあるが、南野拓実が「怜央も大地も。シャドーができる選手はたくさんいて、みんなレベルが高い」と証言しており、彼らは練習から2シャドーの方でもテストされていたと想定できる。
実際に鎌田はバーレーン戦で南野と2シャドーを組み、右からのクロスで相手のハンドを誘い、FW上田綺世の先制点に繋がるPKを獲得した。後半には守田による3、4点目の起点になるなど、中国戦の久保ともまた違った持ち味で存在価値を示した。
静岡県勢で唯一、招集された旗手が2試合とも23人のベンチメンバーから外れたことは残念だが、3バックをメーンシステムとして継続していく場合、4−3−3の左インサイドハーフのような“ハマりポジション”が無い中で、どう適正をアピールしていくかが大事になる。
もちろん旗手本人も自覚しているように、所属クラブのセルティックで高水準のパフォーマンスを続けるだけでなく、ゴールやアシストという目に見える結果を積み上げて、どのポジションで出るにしても決定的な仕事ができることをアピールしていく必要がある。
2シャドーの組み合わせ
2シャドーに話を戻すと、中国戦とバーレーン戦の2試合続けてスタメン起用された南野は中盤と前線を繋ぐリンクマンであり、ゴール前でフィニッシュに絡める危険なアタッカーでもある。「いろんな選手とお互いのいいところを出しつつプレーすることはできる」と自負する南野が今後も2シャドーの軸になって行く可能性は十分にある。興味深いのは久保と組んだ中国戦は左シャドーだったが、鎌田と組んだバーレーン戦では右シャドーに回ったこと。
もちろん攻撃面での効果も考えられるが、守備面で見ると理由は明白だ。高い位置からプレッシャーをかける時に、3−4−2−1から4−4−2に可変すると、左ウイングバックの三笘が左サイドハーフ、堂安が右サイドバックの位置になる。そこで右シャドーが外側にずれて、左シャドーが2トップの一角になるためだ。その場合、鎌田は中央に残って前からプレッシャーをかける役割の方がうまくハマりやすい。
今後は南野、久保、鎌田の3人をベースとして、バーレーン戦の終盤のように、FWタイプの浅野拓磨が使われるケースもありそうだ。ポテンシャルとしては伊東や三笘、堂安をここで使うプランも選択肢になりうる。
今回はそうした起用が実現しなかったが、いろいろなタイプの組み合わせが考えられるポジションでもあり、選手の特長によって左右ウイングバックやボランチとの関係性も変わってきそうだ。
フォワードの序列は…
FWについては、7−0と大勝した中国戦ではスタメンの上田、途中出場の小川航基ともに得点が無かった。決定的なヘディングシュートがクロスバーに嫌われた小川は「ああいう試合ではストライカーが2点ぐらい取らないといけないと思う。このチームは2列目に素晴らしい選手がたくさんいて、2列目の選手が点を取るような傾向のある日本代表ではあるが、その中でもストライカーが点を取るというのが、サッカー界の壁を打ち破る大きな要因になっていくと思う」と語っていた。2試合目のバーレーン戦では中国戦に引き続きスタメン起用された上田が前半にPKを決めると、後半には伊東の折り返しを見事なファーストタッチから振り向きざまに豪快な右足シュートを決めて、さらに守田による3点目をアシスト。この試合のMOMに輝いた。
その上田に代わり後半20分から投入された小川もチームの5点目を記録。中村の左からのシュートがGKに弾かれたボールをヘッドで叩き込む、ストライカーらしいゴールだった。「点を取れる能力を評価して入れてくれたと思う」と小川自身も振り返るように、森保監督の起用に応えた格好だ。
パリ五輪世代のエースとしてA代表での活躍も期待される細谷真大は2試合続けてベンチ外だった。基本的に一つのポジションを争うFW枠で、最終予選を通して序列を変えていくのは簡単ではない。ただ、FWの場合は所属クラブでゴールという分かりやすい結果を出せればアピールにつながるはず。今回のシリーズで招集外だった選手たちにも言えることだ。
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。