3DCGの新しい可能性を感じさせる新アニメ『ガールズバンドクライ』

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアニメ『ガールズバンドクライ』を題材に、3DCGの話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

先例のない独特なスタイルの3DCGが話題

『ガールズバンドクライ』(2024)はとても面白い内容なのですが、今回はその3DCGの表現に注目したいと思います。第1話が放送された時点で視聴者が驚いたのは、3DCGにもかかわらず、先例のないかなり独特なスタイルだったことです。3DCGはさまざまなアプローチが試されているのですが、ここで、また新しい扉が開いたという印象でした。

特徴のひとつは、顔や肌が見えているところは実線があるけれど、服には実線(輪郭線)がないということ。影もグラデーションが付いているタイプで、全体としてはアニメっぽいイラスト調のキャラクターなのですが、いわゆるセルルックという、セルアニメ(輪郭線の中を色面で塗り分けているタイプの絵柄)ではない作りなんです。

これは上半身のショットになると、よりはっきりします。顔には輪郭線があるけれど服には輪郭線がないのでちょっと見慣れない印象になるんです。ただ、服はその方がリアルというか、質感が感じられるように見えます。

アニメには全体を実線で囲むことで絵柄としてスッキリ見やすくなる一方、線の情報で表現し辛い質感などは伝わりにくくなるという特徴があります。それに対して『ガールズバンドクライ』だと、服には輪郭線がなく質感が感じられる一方、表情をしっかり見せたい顔には輪郭線がある形になっています。その使い分けが面白いんですね。

2つ目の特徴は、動きについて。映像は基本的に、1秒あたり24コマの画像を映し出すことで動いてみえる仕組みになっています。でも日本のアニメは、1秒間を8枚の絵で構成する、「3コマ打ち」というスタイルがベースになってできています。1枚の絵を3コマずつ繰り返すので「3コマ打ち」というんです。これに対し『ガールズバンドクライ』は24コマ全部を使って動きを表現する「1コマ打ち」なので、キャラクターがかなり滑らかに動きます。

ただ、これは結構賭けだったのではないでしょうか。「1コマ打ち」は下手をするとメリハリがない、ちょっとぼんやりした印象の動きになるんです。それがちゃんと、アニメ的な誇張も含めて、しっかりメリハリがついた動きになっていました。

特にキャラクターの表情はものすごく豊かでした。3DCGの表情や崩し顔は、3Dのモデルを崩さなきゃいけないので手間がかかるのですが、今回はいろんなバリエーションを持たせた顔を作っていました。また、セリフに合わせて口の形を細かく変える「リップシンクロ」もしていたので、これも凝っているなと思いました。

プロデューサーのインタビューを読むと、基本的にはキャラクター原案のイラストタッチをそのまま3DCGの絵にする、というのを目標に掲げていたそうです。そういう意味で、手描き風なことに寄せたセルルックでも、実写風のフォトリアルでもない「イラストルック」という言い方をされているようなのですが、その狙いはよくわかります。実際にやろうとすると結構大変だったはずなので、これができたのはすごいことだと思います。

3DCGは、属人的な職人芸の要素と、ロジックで説明可能な技術の要素でいうと、手書きよりも後者の比率が高い手法です。だから一度、こういうブレイクスルーが起きると、他社さんが研究して横方向に広がったり、あるいは同じ会社の別スタッフ・別作品に受け継がれたりと縦方向に浸透したりが、かなり早いスピードで起きるという印象があります。
そのようなことを考えると、フォトリアル3DCGは、実写映画の視覚効果としては残っても、独立した作品で制作されていくことは減っていくのではないかなと思います。

むしろ少し前に登場した『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)が有名ですが、アメリカの3DCG映画も、ノンフォトリアルでもっとイラストに近いタッチの作品が徐々に出てきました。そういう潮流を前提に、日本がどう勝負するかを考えたとき、いわゆる絵師さん、イラストレーターさんのタッチを生かした絵柄を3DCGで再現するというのは、起こるべくして起こった流れだと思います。

この先、この技術がどう熟れて、どういうふうに広がっていくのか、あるいは広がらないで、むしろ東映アニメーションの伝統芸能みたいになっていくのか。その辺りも含めてすごく楽しみだと思っています。

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