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アットエス編集部

【3/3まで】発達障害乗り越えフォロワー70万人!「リト@葉っぱ切り絵展」静岡市の駿府博物館で県内初開催。リトさんに創作への思い、見所を聞きました。

「同じ形、同じ大きさの葉っぱは1つもないので創作はいつも真剣勝負。一気に作って撮影も全て自分でやります」と語るリトさん

ADHDの特性を強みに変えた「葉っぱ切り絵」アーティスト、リトさんインタビュー

葉っぱの上に表現するほのぼのとした優しい世界がSNSで注目されている「葉っぱ切り絵アーティスト」リトさんの静岡県内初の個展が静岡市駿河区の駿府博物館で3月3日まで開かれています。

県内初開催の初日、道路まで長蛇の列ができるほど大人気のリトさんは30歳で発達障害の一つ、ADHD(注意欠如・多動性障害)と診断されたのを機に会社を退職。発達障害の特性を前向きに捉え、アートで生きる道へ飛び込みました。

創作開始から4年で世界中のフォロワー70万人を魅了する作品の見どころ、創作の背景、発達障害に悩んだ日々について聞きました。

文・館内写真 アットエス編集部・柏木かほる

拡大写真の近くに実物の作品を添えた展示の様子

初公開を含む約40作品。実物を間近で見られるチャンス!

作品名「ほら、これでもう寒くないよ」 ©リト@葉っぱ切り絵

  
――SNSで作品を拝見していましたが、実物と拡大写真を見比べてみて切り絵の細密さと作品の小ささは想像以上でした。

リト: 普段SNSで作品を見ている人は大抵、実物を見た瞬間、「えーっ?  こんなに小さいんですね!」と驚いてくれます。
このギャップは実物を見ないと味わえない感覚なので、ぜひ多くの人に会場に足を運んで体感してほしいですね。

その上でSNSに公開している作品を改めて見てもらうと、印象が変わってより深く楽しんでいただけると思います(笑)。

――子どもの頃から絵画や美術が得意だったのですか?

リト: そうでもないです。今も絵はどちらかと言えば苦手で…。ですが、細かい作業に没頭できる図工の時間は好きでした。
また、小学生の時に迷路をノートに書いて友達と遊んだのですが、僕が描く迷路は細かさが他の子どもたちの3、4倍だったことは覚えています(笑)。
作品名「春風にのってどこまでも」 ©リト@葉っぱ切り絵


ADHDの特性の一つ「過集中」を強みに変える決意

――30代になってからADHD(注意欠如・多動性障害)と診断されたのが、アートの道へ進むきっかけだったそうですね。

リト: 大学を卒業し新卒で就職しましたが、物忘れが多くて要領も悪い。自分で自分が嫌いになるほど仕事ができなくて辛かったです…。9年間で2度転職し3つの職種を経験しましたが、どこでもうまく行きませんでした。

落ち込んでいたある時、発達障害に関する記事を読み、症状が自分に当てはまることに驚きました。すぐに病院で診てもらうとADHDとの診断。逃げるように会社を辞めました。

これからどうやって生きていけばいいんだろう…? 僕は普通の人のふりをして再び会社員として働くのも、障害者として配慮を受けながら働くのもどっちも嫌だった。生き方をガラッと変えるしかないと決意しました。

ある時、ADHDの人によく見られる特性の一つで、僕も人一倍強いと自覚していた「過集中」(過剰な集中力)を創作に活かせるのでは?と思い、紙に書いたボールペンイラストに色を塗ってSNSで公開しました。それが最初のアート作品でした。

人生を変える転機となった「Leaf Art」との出合い

作品名「さあ入って入って!中は意外と暖かいんだよ」 ©リト@葉っぱ切り絵


――葉っぱ切り絵作品を作り始めたのはいつ頃からですか?

リト: 2020年1月です。ある時、海外のニュース記事でスペイン人アーティストのロレンツォ・デュランさんが作る「Leaf art 」を見つけました。「これはすごい!」と衝撃を受け、翌日には公園に葉っぱを拾いに行き、第1号作品を見よう見まねで完成させました。

少し時間が経ってからロレンツォさんから僕のSNSに「あなたの作品は面白い」とメッセージが届いたので「僕はあなたの作品を見て作り始めたんです。あなたのファンです」と返信しました。まだ実際に会えていませんが今も交流は続いています。

――リトさんは今や国内で葉っぱ切り絵の第一人者となり、作品集や絵本も出版しています。割と初期の段階から作品は思うように作れたのですか?

リト: いいえ、最初は全然だめでした。葉っぱに切り絵をすること自体、解説している本やサイトが全然なかったので独学で試行錯誤するしかありませんでした。

でも死ぬほどつらかった会社員生活に戻るくらいなら、死ぬほどアートを頑張ろうと。最初は虫やポケモン、リアルな爬虫類などを作ったり、犬や猫なら人気が出るのかと悩んだり。どうすれば作品がバズるのか、そればかり考えてひたすら作り続けていました。

一晩でいきなり、3万「いいね」

リトさんの初作品集「いつでも君のそばにいる」とストーリー絵本「まねっこカメレオン」


――そんなときに初の作品集の表紙に掲載した作品「葉っぱのアクアリウム」(2020年8月公開)がバズったんですね。

リト: そうです。サンゴジュの葉に大型水槽を泳ぐジンベイザメとそれを下から眺める人々を表現した作品で、初めて3万近い「いいね」が付きました。いつかはバズると信じてやり続けていたのですごく嬉しかったです。

――その後、リトさんの代名詞になった動物が主人公の作品は葉の形を生かしたデザインと、思わずクスッと笑ってしまう可愛らしさに絵本のような物語性も感じられます。アイデアの源は何ですか?

リト: 何気ない日常の全てですかね。例えば冬ならその時期ならではの風物や食べ物、植物って何だろう?と考えてからテーマを決めます。

次に主役と構図を決め、これまで蓄積してきた小物やキャラクターを余白に配置していきます。言ってみれば「シルバニアファミリー」の人形を葉っぱの上に置いていく感覚に近いですね(笑)。

作品名「大きなお芋さん、こんなにいっぱい採れたよ」 ©リト@葉っぱ切り絵


――作品を生みだす上でリトさんが大切にしていることは何ですか?

リト: 物語を考える時は作品を見てくれる人を必ずイメージしています。例えば、小さなお子さんがいる人はどんな物語ならだ笑顔になってくれるかな…、どんなテーマだと多くの人が懐かしさを感じてくれるかな…とか考えながら作品を作っています。

もしかすると見た人が喜んでくれる姿をいつも想像しながら創作しているから、誰かの心に刺さるのかもしれません。

初公開!葛飾北斎「富嶽三十六景  神奈川沖浪裏」は技術で勝負

作品名「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」 ©リト@葉っぱ切り絵


――今回の作品展では約40点が並んでいますが、中でもリトさんイチ推しの作品はどれですか?
 
リト: イチ推しはやっぱり静岡県初開催のこの展覧会に向けて作った「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」ですね。葛飾北斎の作品はいつか作ってみたいとずっと前から思っていたので、このタイミングで作らなければ一生作れないかも!と思って本気で挑みました。

切り絵の技術で勝負した作品なので、完成した時は「あぁ、遂にここまでできるようになった!」と自分の中で痺れました(笑)。
僕のオリジナル要素として舟と動物を入れましたが無い方がかっこいいかも…とデザインは最後まで悩みました。

――荒れ狂う波の表現が秀逸です。舟に乗る動物は本当に小さいので、会場のルーペで何度も見てしまいました。

リト: 動物たちは最後に仕上げたのですが、ネズミくんのしっぽや鳥の目などの線は0.02ミリぐらいの世界でしょうか。実は今回8割ほど作り終えた時点で作り直したんです。なので完成まで10時間ほど掛かりました。
撮影は必ず作ったその日に行うので焦りました(笑)。

――今後、何か新しく取り組んでみたいことや将来の展望などはありますか?

リト: 今は何か新しいことを始めるよりも、皆さんに飽きられずコンスタントな作品投稿をいかに長く継続していくか。それを大事にしたいと考えるようになりました。できれば死ぬまで続けられたらいいなと思っています。
細かい変化はあるにせよ、せっかく自分で作った世界、ジャンルなので第一人者として先頭を走っていたいです。
 

発達障害に悩んでいる人は熱中できることをぜひ見つけて

――自身や身近な人の発達障害に悩んでいる方に、何か伝えたいメッセージがあればお願いします。

リト: 発達障害って「みんなができていることを普通にできない」マイナスイメージで取り上げられることが多いですよね。僕自身、会社員時代は怒られてばかりで「どうしたら普通になれるだろう」「どうしたらみんなと同じようにできるだろう」と思っていました。

ですが、自分に向いてないことは誰にでもあると思います。それをできるようにする努力も必要かもしれませんが、できないことをできるようにするのは、僕にはすごく難しかった。
でも自分が元々得意だったことを仕事にしたら、みんなに喜んでもらえるようになったんです。

だから、できないことをみんなと同じように「平均的にできる努力」をするよりも、得意・不得意は何かを考えて「熱中できることを伸ばす」方がいいんじゃないかなと思っています。

作品名「今年の花火はふたり一緒に」 ©リト@葉っぱ切り絵 この作品もリトさんは大のお気に入りだそう。 


僕は、子どもの頃からゲームが好きだったんです。ただ、どんなゲームも好きというわけではなく、得意なものと苦手なものがありました。
例えばドラクエで森の中をぐるぐる歩き回ってモンスターと戦い続けてレベルを上げることなら何時間でもできるんです。

でも1か所に集中すると他が見えなくなってしまう性質なので、広い範囲に同時に対応する必要があるシューティング系ゲームは苦手でした。

「長時間同じ作業に没頭してしまう」のが、会社員時代は「空気が読めないヤツ」と弱みになっていたのですが、実は強みでもあると後から気づきました。だって今は、めちゃくちゃ細かい作業を何時間も続けるうえで、「最大の強み」として役に立っていますから。

作品名「真っ赤ないちご!…と思ったら君はだあれ?」 ©リト@葉っぱ切り絵


もっと早くからそれが分かっていたら、自分の道を見つけるのに遠回りしなくて済んだかもしれません。

「子どもがゲームばかりしている」と嘆く親は多いと思うのですが、ひと口に「ゲーム好き」で片づけないで、子どもの好きなものからその子の強みと弱みを探してあげることも大切じゃないかなと思います。
  
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「リト@葉っぱ切り絵展 葉っぱの小旅行in静岡」

期間:2024年3月3日(日)まで
会場:駿府博物館(静岡市駿河区登呂3-1-1)
開館:午前10時〜午後5時(入館は同4時30分まで)
観覧料:高校生以上800円、中学生以下・障害者手帳提示の方は無料

作品集や葉っぱ切り絵のデザインを施したリトさんグッズも販売

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