
(山田)市川さんは2023年の大晦日は、2024年1月1日朝刊の制作に携わっていたそうですね。今日はそんな元日の新聞にスポットを当ててお話をしていただきたいと思います。
(市川)よろしくお願いします。
(山田)早速ですが、どんな話題から行きましょうか。
(市川)山田さんは1月1日付の新聞にはどのようなイメージがありますか。
(山田)やはり広告ですね。「本年もよろしくお願いします」という広告がたくさん入っているイメージですね。
(市川)それもありますし、1年間でおそらく一番分厚い新聞になっていると思います。1部、2部、3部、4部という形で芸能やスポーツを特集する別刷りなどがあったりします。
各紙とも1月1日付の新聞はものすごく力を入れて1カ月以上前から企画を練って準備をしています。それなので、僕のようないわゆる「新聞オタク」からすると、元日の各紙の新聞を見比べることはすごく楽しいんですよ。
元日の紙面は各紙の色が出る
(山田)新聞社によって違いが出るんですね。(市川)新聞各紙の色が出ます。昔から元日の新聞を見るとそのときの世相がわかると言われています。今年で言えば、2024年はどういう時代なのかということが元日の新聞各紙を見比べると何となく見えてきます。
(山田)その話を聞くと、元日の新聞がまだ残っていれば、もう一度見返してもらうといいかもしれませんね。
(市川)元日の新聞は、昔から各紙が「特ダネ」と呼ばれるスクープ合戦を展開するというのが名物でした。記者であれば、1月1日付の正月の一面を飾る記事を書くというのがある種の目標とされていて、各紙渾身のスクープが元日の紙面に躍るというのが伝統でした。
(山田)そうなんですか。
(市川)一般のお宅では新聞をいくつも取っているところは多くないと思いますので、そのような印象はあまりないかもしれません。僕らのように新聞各紙を見比べる立場になると、スクープ合戦をやっているなというのが元日に抱く恒例の感想です。
(山田)「ここの新聞社はこのネタを出してきたか」というような見方になるんですね。
連載企画が1面トップを飾るケースも
(市川)ただ、10年ほど前から少し様相が変わってきています。もちろん近年もスクープを出すことはしていますが、いわゆる「連載もの」のような企画に力を入れる動きが出てきました。世相を表すような連載を一面のトップにドーンと据えるような社もあります。今回、自分が見ることができる範囲で9社の元日の新聞を見比べたんですけど、一面のトップでいわゆるニュースのスクープを持ってきたのが6社、企画が3社でした。
(山田)そういう比べ方をするのも面白いですね。
(市川)ちなみに静岡新聞の一面トップは、スクープでした。浜松市北部の都田地区にある常葉大浜松キャンパスをJR浜松駅南側エリアに移転させることが検討されているという内容でした。
(山田)見ました、見ました。
(市川)他紙はどのようなスクープを掲載したのかについても触れます。朝日新聞は自民党の派閥のパーティー券問題で「安倍派中抜き裏金8000万円か」という記事を出しました。読売新聞は臓器移植を担う主要病院の体制が整っておらず、移植できる臓器があるにも関わらず手術を見送ったケースが60件以上あったというニュースを扱っていました。
長野県を本拠地にしている信濃毎日新聞は、昨今多発している熊の被害に関連し、「学習放獣」と言って人間の怖さを母親の熊に教えると、子熊に遺伝して人間を襲わなくなるという研究が軽井沢で行われているという話題を一面のトップに掲載していました。
(山田)面白い話題ですね。
(市川)人間に対する熊の被害があると、「駆除するべきだ」という意見と「殺してはいけない」という主張がぶつかることがあります。そういうことに問題を投げかけるような記事でした。
北海道新聞はJR北海道が豪華列車を運行するという記事が一面を飾っていました。
(山田)やはり地方紙はいろいろと地域の特徴が出ていますね。
(市川)熊本の熊本日日新聞は、熊本空港につながる空港鉄道に中間駅を造ることを検討しているというニュースがスクープとして踊っていました。僕自身はこういうものを見比べることが結構楽しいです。
(山田)それは楽しいですよね。各新聞社がそれぞれ大事だと思ったスクープを載せているわけですからね。
(市川)企画記事も面白いものがいろいろと始まっていました。例えば、毎日新聞は「遮音社会」という連載をスタートさせました。昨年、痴漢などを摘発して正義を主張する「私人逮捕系YouTuber」の摘発が話題になりましたが、こうしたユーチューバーに心酔していった人たちもたくさんいました。なぜ惹かれていったのか、という心の声を伝えています。連載の最後では「わたしたちは他者の声に耳をふさいでいないか」というようなことを読者に問いかけています。
正月紙面は社会のあり方考えるきっかけになる

(山田)なるほど。連載もスクープとはまた違う「読み物」として面白そうですね。
(市川)そうなんです。今がどういう社会なのかということを考えさせられます。北海道新聞と山梨県にある山梨日日新聞は、同じような企画を始めました。テーマは気候変動問題。北海道新聞は地元特産の昆布が取れなくなってきていることに着目し「昆布だしがなくなる日」という連載です。
(山田)気候変動の影響を間近に感じている土地の新聞だからこそですね。
(市川)気候変動は何年も前から指摘されていて、異常気象なども起きているからみなさんも薄々は体感してきていると思います。全国的にしっかりと向き合わなければいけない時代になってきていると思います。
山梨日日新聞は、気候変動が起きている中で私たちにできることは何なんだろうということを考えるため、地元の取り組みなどを紹介する連載を始めました。
2024年の社会をどうやって生きていけばいいのかということを投げかける連載や企画が盛りだくさんで、なかなか興味深いのが正月の新聞紙面なんです。
(山田)正月紙面を読み比べると、面白い発見があるということですね。一般家庭ではなかなか読み比べるのは難しいですが…。
(市川)図書館などに足を運んでいただければ。
(山田)市川さんとしては当然、静岡新聞を購読してもらいたいはずですけど、読み物としての面白さで新聞を選ぶというのはありですよね。
(市川)そうですね。僕は静岡新聞を読んでもらいたいという立場ですけど、いろいろな新聞を読み比べてほしいなとは思っています。主張も、書いてることも、内容も各紙で違います。新聞という文化が痩せ細り、新聞購読者が減ってきていますけど、新聞を読み比べてみる楽しさを紹介したいと思い、他紙も含めて話題を取り上げさせていただきました。
(山田)市川さんたちが懸命に作っていますからね。私も読みたくなりました。今年もよろしくお願いいたします。今日の勉強はこれでおしまい!