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【クラフトビールがつなぐ縁】大好評の「家康公クラフト」。静岡大の研究所を軸にした産官学連携の取り組みが日本学術会議の目に留まる!23日にはシンポも

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「クラフトビールがつなぐ縁」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2023年12月20日放送)

(山田)今日は徳川家康公ゆかりのクラフトビール「家康公クラフト」の話題ですね。これは今年出たビールでしたよね。そこから少し説明してください。

(橋爪)以前、このコーナーでもお話しましたが、「家康公クラフト」は今年5月に発売されました。開発を担ったのは静岡大の文理融合研究組織「発酵とサステナブルな地域社会研究所」。第1弾が好評だったので、10月に第2弾、12月に第3弾を発売しました。12月15日には、日本学術会議中部地区会議が主催する講演会「微生物がつなぐ文理融合研究」で、研究所の成果が紹介されました。

5月の第1弾、10月の第2弾は静岡市葵区の静岡浅間神社の「フタバアオイ」から採取した酵母を使っています。静岡市内のAOIBREWING(葵区)、静岡醸造(葵区)、HORSEHEAD LABS(清水区)という3つの醸造所がビールを作り、好評のうちに販売が終了しました。

12月1日には第3弾が発売されたのですが、これは第1弾、第2弾と使っている酵母が違うんですよ。

(山田)味が変わったということですか?

(橋爪)そうだと思います。後ほど説明しますが、私はまだ飲めていなくて…。

今回は、家康が駿府城で暮らしていたころに、新茶を保管していた茶つぼ屋敷(静岡市葵区井川)のツツジから採取した花酵母を利用しています。

(山田)ツツジからビールができるんですか!?

(橋爪)できるんだそうです。醸造したのは同じところですが、今回はゴールデンエール、ポーター、セッションIPAと、第1弾とは若干ビアスタイルが違います。それで私がまだ飲めていないと言ったのはなぜか…。

(山田)なぜなんでしょうか。

(橋爪)あっという間に売れてしまったからなんです。

(山田)大人気だったということですか。

(橋爪)そうなんです。静岡大の生協やアスティ静岡、浜松市や東部地区の大手スーパーなど17カ所で販売していたのですが、関係者によると330ミリリットル入りの瓶2000本がほぼ完売とのこと。「家康公クラフト」はすっかりブランド化しているなという印象です。

(山田)楽しみにしてた方がたくさんいたんでしょうね。

クラフトビールの広がりと地域連携が研究所に結実

(橋爪)それはそれとして、今回のニュースはこの取り組みが日本学術会議の講演会で取り上げられた、ということなんです。日本学術会議は、日本の人文・社会科学、生命科学、理学・工学、全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関です。

地域の科学者と意思疎通を図ること、学術振興に寄与することを目的に、北海道、東北、関東、中部など7つの地区会議を組織しています。今回の学術講演会は、そのうちの中部地区会議が主催する講演会だったのです。

わたくしごとで恐縮ですが、実は2004年ごろからクラフトビールを追っかけていたので感慨深かったです。まさか最高レベルの教育機関である大学でクラフトビールの研究が始まるとは思ってもいませんでした。ましてや日本学術会議の講演会のテーマになるなんて、当時は考えたこともありませんでした。20年近くたって、世界が変わったなという印象です。

(山田)橋爪さんはクラフトビールの走りのころから静岡新聞で連載や特集を組んでましたよね。

(橋爪)クラフトビールの世界が質量とも広がりを見せたということですよね。一方で、大学も「地域連携」を大事にする流れになってきました。その合流点が静岡大の「発酵とサステナブルな地域社会研究所」なんだと思います。

(山田)大学が研究して、その地域のブランドになっていくというのはいいですよね。あとはビールがテーマだというのも。

(橋爪)文理融合というのは、文系と理系の先生が一緒のテーマで研究をするということじゃないですか。だから、どんなテーマでもできるというわけではない。「ビール」というテーマがあったからこそ可能だったんだと思います。

もう一つのキーワードが「産学官連携」。「家康公クラフト」は静岡市や静岡商工会議所の支援、協力も得て完成しています。これも「ビール」が接着剤になっていなければ実現しなかった現象だと思います。わたしが好きだから言うわけではないんですが、ビールという飲み物に高いポテンシャルがあることが明らかになったと思います。

(山田)ビールは身近ですからね。歴史という背景で言えば、今年は家康が全国的に取り上げられた1年でもありましたよね。

(橋爪)そうですね。行政は静岡市や浜松市を訪れた方々に持ち帰っていただけるお土産はどのようなものがいいか、という発想の中で関わっているという部分がありますからね。

講演会に登壇した方々もバラエティーに富んでいました。理学領域の丑丸敬史教授は、家康公ゆかりの地(久能山東照宮や浅間神社)からどうやって植物を採取して「酵母」を増やして、ビールに使えるか、どのように実証したかという説明をしました。農学領域の木村洋子教授は、植物採取を通して野生酵母のサンプルが約3000種類ほど溜まったため、これで「低アルコールの新しい発酵飲料」を作れないだろうかという研究を進めている、という話をしてくれました。

(山田)もう既に新しい方向に派生しているんですね!このあたりはまさに科学ですね。

(橋爪)一方、文系では、江戸時代の専門家である人文社会科学領域の松本和明准教授が、文献をたどって家康はビールを飲んだのかどうなのかという検証をしたそうです。結論的には飲んでいませんでしたけど。

(山田)やはり飲んでなかったか。そうでしょうね。

(橋爪)ただ、「家康公クラフト」のプロジェクトを進めるに当たって、ビールと家康の接点をどう作るかを考えたときに、家康の由緒がある場所から酵母が得られそうな植物を取ってくればいいのではないかとなりました。そういう場所の取り上げ方というのを松本准教授が語ってくださいました。

そして最後に人文社会科学領域の横浜竜也教授。この方は法哲学が専門なんです。当日は「日本におけるクラフトビールツーリズムの可能性」と題して講演しました。「家康公クラフト」というものを仲立ちにして、いろいろな領域からの話が聞ける貴重な時間でした。

(山田)今のビールの話でそこまで広がるってすごいですね。

早くも次の展開へ。今度はウイスキーに挑戦!


(橋爪)講演会の中では、次の展開が明らかにされて驚きました。今度はウイスキーづくりにも挑戦するそうです。

特種東海製紙が2020年に、南アルプスにある2万4千ヘクタールの社有林の中に「井川蒸溜所」(静岡市葵区田代)を開所しています。そことコラボレーションしてウイスキーづくりをするそうです。

南アルプスで採集した高山植物から酵母を単離し、麦汁発酵に使うんです。ウイスキーは途中まではほぼビールづくりと一緒ですから。麦汁を発酵させて、それを蒸留してウイスキーにしますが、その取り組みを進めるそうです。正確に言うと3年熟成させないとウイスキーとは呼べないのですが、「ニューボーン」という形で2024年6月に発売するそうです。

(山田)また、お酒好きが沸きますね。

(橋爪)ぜひ飲んでみたいですよね。その他にも、中世ヨーロッパのビールの再現にも取り組んでいるそうです。明治時代に日本で初めて作られたビールに使われていた「和ホップ」といわれる「カラハナソウ」の栽培とビール製造も進めるようです。まだ、面白いことが続きそうです。

そんな話も出てくるかもしれない、「発酵とサステナブルな地域社会研究所」のシンポジウムが12月23日午後1時から、静岡市葵区のペガサート6階、B-nestで開かれます。さきほど名前を挙げた横浜竜也教授や富士宮市のフジヤマハンターズビールの深澤道男さんが話をしてくれます。さらに、博報堂のビジネスプランニングディレクターの瀬尾瑛峻さんが「地域と一緒に創るビールブランドの可能性」というテーマで講演します。

(山田)ちょっと楽しみですね。ビールと地域の未来を聞くことができるということですね。ぜひ、みなさんもチェックしてみてください。今日の勉強はこれでおしまい!

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