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静岡学園の優位は揺るがない
(寺田)第102回全国高校サッカー選手権静岡県大会の決勝トーナメント組み合わせ抽選会が23日、静岡市内で行われました。(山田)年末が近づいてきた感じがしますねえ。
(寺田)今年は112校110チームが参加しました。1次トーナメントが終わり、29日から始まる決勝トーナメントは16チームで争います。圧倒的優位に立つのは国内の高校世代最高峰のプレミアリーグに所属する静岡学園。今年も3人、来年のJリーグクラブ入りが内定しています。U-18日本代表フォワードで、J1川崎フロンターレ入りが決まっている神田奏真選手ら主力数人がけがで県大会に出場できないんですが、選手層の厚さで群を抜いています。
組み合わせ抽選会で川口監督に聞いたところによると、神田選手も全国大会には間に合う可能性がある。エースを全国に連れて行こうとチームの士気も上がっているようです。
昨年は浜松開誠館が静岡学園を倒して全国に行きましたが、さて今年はどうなるか。
戦術も先発メンバーも、練習メニューも…
(山田)そんな中、寺田さんの注目は?(寺田)ノーシードで勝ち上がった沼津東です。
(山田)ごめんなさい、正直あまりサッカーのイメージがなくて…。進学校ですよね。
(寺田)県内指折りの進学校ですが、1次トーナメントでシード校を続けて撃破して、創部76年目で初めて決勝トーナメントに進みました。進学校なので、3年生は6月の県総体で引退しています。もう受験に専念している。なので、1、2年生33人で戦っています。
山田さんは高校時代、バスケットボール部でしたよね。当時、試合のスタメンって誰が決めてましたか?
(山田)監督が決めてましたよ。
(寺田)沼津東は生徒自身で決めるんですよ。
(山田)え?どういうことですか?
(寺田)監督が「部活のあり方を変えたい」と。沼津東OBで監督の増山先生が自主性を重視する方針を打ち出しています。試合の集合時間も生徒が決めるそうです。移動にかかる時間や、アップの時間をどれぐらい取るとか、そういうことも生徒が考えて決めるそうなんです。
サッカー部の中には、戦術部と環境部、フィジカル部、メンタル部などがあって、レギュラーを含めて部員はどれかに所属して部の運営に携わっています。
スタメンは戦術部が決めています。相手に対してどういう戦術で戦うのか。さらには前の試合を反省して、克服するための練習メニューをどうするか。そんなことも自分たちで考えている。
スタメンは戦術部のまとめ役の選手が案を出して、キャプテンと副キャプテンが確認してOKならそれでいいと。
(山田)面白いですねえ。「なんであいつなんだよ」とか不満が出そう。
(寺田)心配になりますよね。でも、まとめ役の生徒に聞くと、不満は出ないそうです。練習中は自分のプレーだけじゃなく、常にお互いのプレーを見て、それぞれの長所短所をみんなが理解していると。それで、その週に良かった選手を選ぶらしいです。
普段から選手間で信頼関係が成り立っているということだと思います。
改良重ねる練習メニュー
(山田)監督は試合中や練習中の指示は当然するんですよね?
(寺田)選手は試合中に全くベンチを見ないそうです。普通サッカーの試合ってベンチから大きな声が飛んでますよね。沼津東はピッチの中で選手たちで考えるんだそうです。選手交代も、ハーフタイムにベンチに戻ったときに、「後半こういう展開になりそうだから、この選手を早めに入れてくれ」と、選手が監督に頼むんですって。
取材に行った時に、この日初めて取り組む戦術練習のメニューがありました。中盤でボールを繋いで素早くカウンターを仕掛ける内容でした。ネットで調べて、やりたい部分を切り取って、それで作ったオリジナル練習でした。
最初は練習自体がうまくいかなかった。そうしたら、生徒が「今から改良する」って。学年関係なく、選手同士で意見を出し合って、その練習ルールを変えていくんですよ。練習後に選手に聞いたら「最後の数分は狙い通りにできた」って。自分は「ああ、こういうことを積み重ねてるんだな」って感心しました。
増山先生は「僕の仕事は練習の最初と最後に挨拶するだけだよ」って笑ってましたけど。
増山監督はどんな人?
(山田)ははは。監督は、ちゃんとした監督なんですよね?
(寺田)もちろん。サッカーの素人じゃないんですよ。今50歳で、選手時代はゴールキーパー。沼津東高から東京学芸大に進学してサッカーを続けて関東リーグに出ていた。教員になってからもサッカーを続けて、国体成年男子の県代表で全国優勝の経験もあります。
(山田)キーパーだから、全体がちゃんと見えてるんですね。
(寺田)だから当然、生徒たちに示唆を与えることはあるんですよ。ただ生徒の考え方を尊重して、否定はしないんですね。生徒の考えに沿って「そういうやり方で戦うんだったら、こういうリスクがあるよ」とか、そんな投げ掛けをするそうです。
(山田)生徒も楽しそうですね。
(寺田)「スポーツは上意下達で、監督や先輩の言うことは絶対」。こういうのが常識だと思ってる人がいるかもしれませんが、そうじゃない。増山先生は「自ら考える力を身につけ、自分の行動に責任を持つことを学ばないと、社会に出て通用しない」と強調していました。
(山田)面白いですね。やらされてるんじゃなく、自分たちでやってるんですよね。
(寺田)増山先生は就任5年目で、徐々にそういう指導を浸透させています。自分の会社や組織のことを顧みても、響く部分ってあるんじゃないかなと思います。
(山田)仕事もそうですし、家庭もそうかもしれないですね。
(寺田)しかも、この増山先生、29歳の時に青年海外協力隊で、体育指導者としてパラグアイで2年間生活しています。現地の教員養成に尽力しつつ、現地の地方リーグでプレーした経験もあるそうなんです。
パラグアイでは、試合中に失敗しても誰も謝らないんだそうです。「謝ったら負け」みたいな(笑)。日本人は謝ることができる。よく海外からは「日本人は何を考えてるか分からない」「主義主張が伝わってこない」などと言われますが、増山先生に言わせると「謝れるってことは自分にベクトルが向くということ。自分にベクトルが向けば責任感を持つことになり、自主性に繋がる」とも話していました。
「勝つためのプランを用意するはず」
(寺田)沼津東高は決勝トーナメント1回戦で、優勝候補の静岡学園とぶつかります。沼津東は今、県東部地区Aリーグ。静岡学園は沼津東より5つカテゴリーが上のプレミアリーグ。大人でいうと、東海社会人リーグの藤枝市役所がJ1の神戸や横浜マリノス、浦和レッズと試合をするのと同じなんですよ。(山田)めちゃくちゃ面白い試合になりそうですね。
(寺田)しかも、増山先生は「生徒は勝つためのプランを用意するはず」と言ってるんで。
(山田)「生徒が考えるはず」だと。見せてもらおうじゃありませんか!激アツですね。このやり方は、これからの部活動、学生スポーツにいろんな影響を与えそうですね。
(寺田)スポーツの一番大事なところ、そういうことを増山先生は強調しているんだと思います。
(山田)話を聞いていて、沼津東高サッカー部がとても羨ましく思いました。10月29日から1回戦が始まって、決勝は11月11日。いやあ、楽しみ。今日はしびれる話でした。今日の勉強はこれでおしまい!
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