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河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

サッカー日本代表MF旗手怜央(静岡学園高出身)は“森保ジャパン”で生き残れるか 10月シリーズで見せた強みと課題


静岡学園高出身のMF旗手怜央は順天堂大から川崎フロンターレに加入すると、2020年、21年のJ1リーグ優勝を経験し、東京五輪にも出場。その後、スコットランドの名門セルティックに移籍し、昨シーズンはリーグ戦を含む国内三冠の大きな力となった。

”森保ジャパン”と呼ばれるA代表の初招集は2021年11月。しかし、なかなか試合でアピールのチャンスを得られず、カタールW杯は最終メンバーから漏れ、悔しい思いをすることとなった。

カタールW杯で日本は目標のベスト8には届かなかったが、優勝候補だったドイツ、スペインを破るなど戦いぶりが評価され、森保監督が2026年の北中米W杯を目指す代表チームを継続で率いることに。旗手としては、新たな気持ちでアピールし、代表チームのサバイバルに勝ち残っていくことが、3年後のW杯につながることは間違いない。

躍動した6月シリーズ

今年6月のエルサルバドル戦は4−3−3(森保監督は4−1−4−1と表現)の左インサイドハーフという、セルティックでもプレーする得意ポジションで躍動した。川崎時代の同僚である左サイドの三笘薫(ブライトン)や東京五輪の代表チームで一緒にプレーしてきた上田綺世(フェイエノールト)と見事な連携を見せて、6−0の勝利に大きく貢献した。

続くペルー戦でも同じポジションで、ジュビロ磐田出身の左サイドバック伊藤洋輝(シュトゥットガルト)とともに三笘をサポートし、4−1の勝利を支えた。

カナダ戦で放った存在感

ドイツとトルコに勝利した9月の欧州シリーズは怪我の影響でメンバーから外れていたため、10月シリーズは旗手にとって大事なアピールチャンスだった。

6月シリーズと違うのは鎌田大地(ラツィオ)や堂安律(フライブルク)といった常連メンバーがコンディションを理由に外れたこと。さらに三笘が体調不良、所属クラブのチームメート前田大然(セルティック)が怪我で不参加となり、特に攻撃的なポジションはフレッシュな組み合わせになることが確実だった。

1試合目のカナダ戦は4−3−3(4−1−4−1)で入り、旗手はベンチスタート。中盤はカタールW杯ぶりの招集となった南野拓実(モナコ)が右インサイドハーフ、ボランチを本職とする田中碧(デュッセルドルフ)が左インサイドハーフ、その二人の後ろに遠藤航(リバプール)が構える逆三角形だった。

開始2分に怒涛の攻撃から田中のミドルシュートで先制点を奪った日本だが、カナダに対して守備がうまくはまらず、森保監督は4−2−3−1への変更を指示。流れをつかんだ日本はゴールラッシュで4−0とリードした後、中村敬斗(スタッド・ランス)が相手のタックルを受けて負傷したことで、旗手が左サイドハーフで投入された。

カナダも一気にメンバーを代えて攻撃を活性化させてくる中で、旗手は守備的な役割も果たしながら、鮮やかなサイドチェンジでチャンスの起点になるなど、攻撃面でも持ち味を出した。後半38分に右の伊東純也(スタッド・ランス)が選手交代の関係で左に回ってくると、旗手は中央にポジションを移した。

途中出場から2つのポジションで使われたことは、現在の26人からメンバーが23人になる今後のアジア2次予選、来年1月のアジアカップに向けても、確かなアピールの材料になる。

森保監督も旗手が本来4−3−3(4−1−4−1)の左インサイドハーフが得意であることは承知しているが、チーム事情もある中で、そうした起用をしたことは期待の表れでもある。

チュニジア戦で見せた“自分らしさ”


旗手にビッグチャンスが訪れたのが、2試合目のチュニジア戦だった。三笘が不参加となった左サイドは、中村の負傷と、追加招集された奥抜侃志(ニュルンベルク)の高熱により、いわゆる”本職”の選手が誰もいない状況となった。

森保監督は前日会見で、旗手のスタメンを明言。「レオ(旗手)はワイドなポジションから(インサイドの)ライン間に入ってプレーできる。左サイドのプレー、人を生かすプレーは日常セルティックでやってるところの延長で、良さを出せる」と期待を寄せた。

旗手はチュニジア戦に向けて「周りとの関係や試合状況をみて、しっかり判断していきたいと思います。自分らしいプレーとは多分そういうところだと思う」と語っていた。サイドで出る場合のメリットとして挙げたのは、視野が180度に限定されることで、遠くを見て攻撃を組み立てられること。正確なキックを生かす得意のサイドチェンジも、そうした視野の確保がベースにあるようだ。

古橋の先制点を演出

日本は前半43分に古橋亨梧(セルティック)が見事な先制ゴールを決めたが、そのラストパスを出したのは旗手だった。ただし、トップ下の久保建英(レアル・ソシエダ)からボールを受けた旗手としては、右外でフリーになっていた伊東に通すつもりだったという。結果的にそのボールは相手に当たって、ゴール前の古橋にこぼれた。

「ああいったところに入っていっていいという指示はあった。自分が一番仕事をしたい場所で、直接的ではないですけど、仕事ができたのは良かった」

そう振り返る旗手は左サイドバックの中山雄太(ハダースフィールド)、左ボランチの守田英正(スポルティング)とも良い距離感で絡みながら、サイドチェンジで反対側の伊東や右サイドバックの菅原由勢(AZ)による縦の仕掛けを引き出すなど、効果的なプレーを見せた。ファーストポジションではない選手の仕事としては上々で、森保監督に向けても良いアピールになったことは確かだ。

“個の力”で生き抜けるか

ただし、旗手はそれに満足する様子はない。

「やっぱり個として、もっと強さを出していければと思います。連携やポジショニングはいいところもあったと思うんですけど、個の突破というところも、もう少し出てくればいいと思うので。自チームで個をしっかり磨いていきたい」

ドリブル突破に関して「特にこだわりはないです」と語っていた旗手だが、こうしたポジションでの出場も想定した場合、日頃のポジションで自分の良さをそのまま出すだけでは、本当の意味でのサバイバルには勝っていけない。

森保監督は4−2−3−1をメーンに、相手を見ながら4−3−3(4−1−4−1)に可変できる構成を描いているというが、4−2−3−1なら左サイドにもトップ下にも、ボランチにも個の強いスペシャリストがいることは旗手も分かっている。

さらに自分のシュートチャンスを決め切れなかったことに関しても「そこも”個の力”だと思う」と旗手は語った。

主力定着に必要なこと


サッカーでは”ポリヴァレント”と”マルチタスク”という言葉がある。前者は複数のポジションを柔軟にこなせる能力で、後者は監督の求める多様な仕事をこなせること。

旗手はそうした能力が高く、周りとの連携でも存在感を出せる選手であることは間違いない。そうした選手は世界一を目指す”第二次・森保ジャパン”でも必要だが、やはり主力に定着していくにはそれだけでは足りない。今回のシリーズは旗手にとって23人枠での戦いに向けたアピールになると同時に、そうした”個の力”を確認する良い機会でもあったようだ。

<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
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タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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