これぞ、鳥山明の“本籍地“!大人も子どもも楽しめる映画『SAND LAND』


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は現在公開中の『SAND LAND』という映画についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

鳥山明先生の短編漫画がアニメ映画化

鳥山明先生は『ドラゴンボール』の存在が大きすぎるのですが、もちろんそれ以外にもいくつか漫画を描いています。今回ご紹介する『SAND LAND』は2000年から連載が開始して1巻で終わった短期集中連載漫画でした。

お話の舞台は、ある理由で全く水が出なくなっている砂漠の国。ラオという61歳の保安官と、全身ピンクの悪魔の王子ベルゼブブが、みんなに水をもたらすため、水源を探しに旅をするという話です。その旅が、国を支配している人たちの悪巧みと繋がっていき、バトルあり友情ありというお話が繰り広げられます。今回のアニメではそれをすごく丁寧に描いていて、しかも見せ場も増やしている、素晴らしい出来栄えでした。

ドラゴンボール・ファンは、スーパーサイヤ人たちのバトルが見たい人も多いかもしれません。ただ、鳥山明作品の魅力ってそこだけじゃないんです。『ドラゴンボール』以前から鳥山明先生を知ってる人だと、むしろ「こっちの方が鳥山明の“本籍地“!」いいたくなるような、かわいいキャラクターと渋いおっさんが主人公になっています。

ちなみにキャラクターについてはCGと手描きが共存しているのですが、両方とも鳥山先生の絵の再現度が高いのでそこも楽しいところです。

あと魅力的なのが、丸っこくてかわいいけどリアルなメカ! 今回は丸っこい戦車がメインメカで出てくるのですが、これがめちゃくちゃいいんです。魅力的なデザインが、うまく3DCGに置き換えられていて、さまざまな機能をうまく使った見せ場がたくさんあります。そういう意味では、鳥山先生の持つ魅力的な要素がひとつに合体している作品になっています。

キャラクターや声、音響など魅力が詰まった作品

映画の見どころのひとつは、ラオが旅の中でいろんな変化をしていくところです。一方で、ベルゼブブはかっこいいやんちゃ坊主という感じでずっとやんちゃなままの魅力があります。それから、実は旅にはベルゼブブのお目付役でシーフという悪魔のおじいちゃんがついてきます。Eテレなどで活躍しているチョーさんが声をあてていることからも想像がつくと思いますが、大変な目にあって、ぼやきながらも、いろいろ頑張るキャラクターなんです。

この3人のコンビネーションがとてもおもしろい。彼らが王様の軍隊と戦ったりしながら、少しずつ国全体にいろんな影響を及ぼしていくことになります。

ラスボス的なキャラクターでゼウ大将軍という人物がいるんですけど、これにはベテラン声優の飛田展男さんが声をあてています。その飛田さんがパンフレットで「悪役だけれど、小悪党に見えないように、ちゃんとスケール感を持ってやりたい」という話をされていました。

確かに、ゼウ大将軍はいろんな悪さを一手に引き受けているキャラクターなので、うろたえ方一つで小物になってしまう可能性があるんですよ。それがしっかり、こいつは憎むに足る奴だという感じになっています。それが山路和弘さん演じるラオと渋いトーンが揃っていて、2人が対峙するシーンは見応えがあって、すごく楽しいです。

映画の中盤には戦車戦があります。音響は『ガールズ&パンツァー』を手がけた岩浪美和音楽監督を筆頭とするチームが手がけているので、音響の良い映画館で見た方が、たくさんの音が聞き取れておもしろいと思います。例えば砂漠と一口にいっても、岩が多い地域と砂っぽいところでは戦車の走行音がちゃんと違ってるんですよ。それから当然ですが、発砲音や爆発の音の迫力もすごく、このあたりも見どころのひとつです。

主役はおじいちゃんですので、渋く感じる人もいるかもしれませんが、かっこいいシーンもたくさんあり、小学生が見ても楽しめるはずです。気になってる方は多いと思うので、急いで劇場に行っていただきたいですね。

(SBSラジオ 2023年8月28日放送)

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