柔道五輪銀・溝口さん「私が染めた時は…」 選手の髪型・髪色問題
アスリートに求められるもの
溝口:スポーツ界では、競技団体やスポンサーから、パフォーマンスだけではなくアスリートらしさや清潔感などを期待されている傾向があります。とりわけ五輪種目の場合、日本代表としての身だしなみや自覚を求められ、髪型や服装が個性的であると競技団体やJOCから注意を受けた選手もいました。抑圧された傾向がスポーツ界にあるからこそ、高梨選手の「髪型が強制されるのは、その子の個性が消えてしまう」という発言につながり、共感を呼んだのだと思います。
近江:溝口さんご自身はどう考えていらっしゃいますか?
溝口:選手自身が自尊心を持つことは、験担ぎのように不安を取り除く作用があり、選手のポテンシャルを引き出すことになりますよね。私は、ある程度はいいんじゃないかと思います。
近江:中学校や高校の野球部では坊主にしなければならない学校もまだまだあるようです。
溝口:昔よりは寛容になりましたが、校則でヘアカラーやパーマもダメという中で、まだまだヘアスタイルの規制があるかなという気がします。成人になっても、日本代表らしい振る舞い・身だしなみというところから、個性を制限されているという風潮はあると思いますね。
近江:服装だけでなく振る舞いも含めて「日本人らしさ」を求める傾向にあるのかなと思いました。服装と成果の関連性や影響についてデータはありますか?
溝口:私の専門の柔道だと、試合中によく柔道着がほどけると印象が悪いんです。わざとほどけるようにして休んでいるとか、だらしないとか、そういう心証が影響することもあります。一方、サッカー選手は髪を金色や赤色に染めたりしていますよね。競技特性はけっこう影響している気がします。
近江:女性の競技でも、同じような風潮が残っている種目はありますか?
溝口:五輪種目でいうと、同じ格闘技でもレスリングは比較的自由でおしゃれだなと思います。柔道や空手などは、日本の選手で派手なカラーやパーマをしている選手はほとんど見かけないですね。伝統的な競技ほどコンサバティブで、抑圧されてるんじゃないかなと感じます。
現役時代、ブラウン系のカラーリングをした溝口さん
近江:溝口さんご自身もそういう体験はありますか?溝口:現役時代にブラウン系の自然なカラーリングをしただけで「溝口は色気づいた」「競技に集中しろ」と叱られたことがありました。ジェンダーバイアスというか、時代的なものもあったかなと思います。
近江:カラーリングが競技の結果に影響したわけじゃないですよね。そういった考え方は、令和の時代になって変わってきているのでしょうか。
溝口:そうですね。専属のスタイリストがついて、積極的にファッションをイメージ付けているアスリートもいます。競技のパフォーマンスだけではなく、スポンサーに求められる好感度の高いイメージをプロデュースするということも求められているんですね。高梨選手も、ジレンマがある中でセルフプロデュースをうまくされている選手だと思います。
近江:おしゃれをして個性を引き出すことは、アスリートのパフォーマンスやモチベーションアップに繋がるとお考えですか?
溝口:そうですね。選手自身のモチベーションやパフォーマンスが向上するのであれば、験担ぎと一緒だと思うんですね。選手の不安を取り除いて自尊心を高め、競技に集中できるのであれば、アスリート自身のポテンシャルを引き出すことになると思うので、私は良いと思います。
今回お話をうかがったのは……溝口紀子さん
スポーツ社会学者、公益社団法人袋井市スポーツ協会会長、バルセロナ五輪柔道女子52キロ級銀メダリスト。
SBSラジオIPPO(月~金曜:朝7:00~9:00)忙しい朝を迎えているアナタに最新ニュースはもちろん、今さら人には聞けない情報をコンパクトに紹介!今日の自分をちょっとだけアップデート!番組公式サイトやX(旧Twitter)もぜひチェックを!
radikoでSBSラジオを聴く>