
もしも富士山が噴火したら?車ではなく「徒歩」で避難を!
富士山が噴火……どう避難する?
考えたくない話ですが、もしも富士山が噴火したらどう避難したらいいのか? 先日、富士山火山防災対策協議会が、富士山噴火直後の周辺住民の避難について「車を使わずに原則歩きで避難する」という方針を明らかにしました。なぜ、徒歩への避難に変更されたのか。静岡大学防災総合センター特任教授の岩田孝仁さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。※4月28日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。
牧野:今回、なぜ徒歩の避難に方針が変更されたのでしょうか?
岩田:昨年3月に、富士山のハザードマップが改定されました。そのときに、溶岩流が3時間以内と比較的早い段階で到達するエリアが御殿場市や富士宮市の市街地近くにまで拡大され、避難の対象人口が増えてしまったんです。人口が多いところで一斉に避難が必要になるとどうなるのかシミュレーションをしてみたら、車の渋滞が起きてしまい、徒歩の方が時間がかからずに避難できることがわかりました。
牧野:溶岩がどんどん迫ってくる中で、歩いての避難で逃げ切れるのかという不安もありそうですが?
岩田:それもわかりますが、実際に渋滞が発生してしまうと、車では全く動けなくなってしまうんです。そうなると、かえって歩いた方が速くなります。これは火山に限った話ではなく、津波でも同じことが言えます。東日本大震災のときも、車に乗ってしまい、車ごと流されてしまうケースがたくさんありました。
牧野:なるほど……。冷静な判断が必要になるわけですね。
ハザードマップ改定で被害の規模も影響範囲も拡大
岩田:この改定ではハザードマップを作る上で参考にしている過去の火山活動の対象範囲が、約3200年分から約5600年分にまで広げられ検討されました。それにより、これまでに起きた大規模な噴火の数というのが、従来認知されてきた回数の2倍も起きていたことがわかったんです。また高温の火山灰やガスが落ちてくる火砕流もこれまでの想定の5倍くらいのリスクがあること、火口も富士宮市や山梨の富士吉田市など、市街地の近くで出現する可能性が高まりました。今回の見直しでは、被害の規模も、影響範囲も拡大されることになったんです。
牧野:改定後は避難対象エリアが6段階に分かれるようになったんですね。
岩田:もともと5段階だったのですが、もう少し細かく分類した方がいいということで、次の6段階にエリアが分けられました。
1. 火口が出現するエリア
2. 火砕流や大きな噴石が飛んでくるエリア
3. 溶岩流到達まで3時間以内のエリア
4. 溶岩流到達まで3時間から24時間かかるエリア
5. 溶岩流到達まで24時間から1週間かかるエリア
6. 溶岩流到達まで1週間以上かかるエリア
よく、どこに火口が出てくるかと聞かれますが、直接火口が出現するのは、山頂付近やその周辺です。そして今回重要になってきたのが、上記3の「溶岩流到達まで3時間以内のエリア」で、市街地付近まで拡大されました。溶岩流は、大規模になると最終的に1週間以上かけてかなり下のところまで流れていきます。例えば、三島の楽寿園の溶岩は1万年近く前に流れてきた溶岩です。三島では現在も市街地に溶岩が見えているところがありますよね。
牧野:三島の街のど真ん中まで昔は流れてきたんですね。
火山灰は東京の方向へ飛んでいく?
岩田:大規模な噴火の場合、上空まで火山灰が噴き上がり、偏西風に流されて関東平野まで降り積もります。1707年の宝永噴火のときの記録によると、江戸の町に数センチの降灰が観測されました。逆に、静岡県側で心配になるのは火口近くです。噴石や粒子の大きな火山灰は火口から周囲に吹き飛ばされるため、宝永噴火のときに多いところでは3メートル積もったところもありました。
また、火山灰の重みだけで家が潰れてしまうこともあるんです。一般の木造住宅では火山灰が30センチ積もった状態で雨に降られると、かなり重量が増し、屋根が潰れる危険性があります。ただ鉄筋コンクリートなどの建物であれば、それほど大きな被害はありません。火山灰への対策としては、コンクリートの建物の中へ避難する計画になっていると思います。
もう一つ、火山灰が数センチ積もると普通の車は動けなくなります。特に雨が降るとぬかるみ状態になり全く動けません。渋滞回避のため、避難には車を使わない形に変わったと言いましたが、そもそも火山灰が降れば車での移動は難しくなると考えておいた方がいいですね。
牧野:徒歩の場合も、長靴では足が抜けなくなることも考えられそうですね。
岩田:そうですね。粒子の細かい火山灰に雨が降ると、靴に絡みついて動けなくなります。そういった場合、避難できる頑丈な建物をどこに確保するかが重要になってきます。逆に、火山灰は建物の中に避難さえすれば、それほど大きな問題にはなりません。
噴火に備えて、今できること
岩田:一般的な防災対策で準備しているヘルメットや足元を確保する長靴、今は新型コロナもあるのでマスク。あとは目を覆うゴーグルも必要になってきます。
牧野:富士山噴火に対して、どれくらいの心構えをしておくといいでしょうか?
岩田:今は気象庁などさまざまな機関による24時間の監視体制が充実してきているので、なんの兆候もわからず急に噴火する可能性はほとんどないと思っています。
これだけ大きな山ですから、マグマが上へあがろうとすると地震活動などいろいろな変化が起こります。そういった場合も、監視に基づいて気象庁が噴火警戒レベルを発表していくので、発表があった時にきちんと対応する心構えと、どのタイミングでどう動くかを予め考えておく必要があります。
牧野:岩田先生の話を聞いて、しっかりイメージしようと思いました!
今回お話をうかがったのは……岩田孝仁さん
静岡大学防災総合センター特任教授。静岡大学卒業後、1979年より静岡県庁で防災・危機管理行政を担当し、危機報道監、危機管理監兼危機管理部長を歴任。県庁退職後の2015年から静岡大学教授。2021年より阪神・淡路震災記念 人と防災未来センター上級研究員を兼務。2020年9月に防災功労者内閣総理大臣表彰を受賞。専門は防災学・防災行政学。
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