2025年05月04日(日)付 朝刊
■実践8校 成果と課題(下)浜松開誠館中・高/静岡サレジオ小・中/県立磐田北高/県立浜名高
教育に新聞を活用する「NIE」の県内の実践指定校8校による報告会(県NIE推進協議会主催)が2月、静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開かれた。2回にわたって成果と課題を紹介する後半は、静岡サレジオ小・中、浜松開誠館中・高、県立磐田北高、県立浜名高(教員の所属などは3月時点)。
多角的な思考力を養成 (浜松開誠館中・高 大庭康介教諭)
5紙を20年近く購読していて、新聞は身近な存在。これまでも中高とも毎週1回、記事に対する感想などを書く朝作文「ASASAKU」を行い、文章表現力を育成してきた。社会が変化する中、読解力や批判的思考力の重要性も増していて、指定校決定を契機にNIE活動を拡充した。
夏休みの宿題として、中学2年生は新聞コンクールに応募した。生徒が気になる記事を選び、選んだ理由▽記事に対する家族や友達の意見▽他者の声を踏まえた上での自分の提言-をまとめた。考えを深める経験となり、家族のコミュニケーションも促進できた。高校2年の授業では複数紙を読み比べ、着眼点や取り上げ方の違いを学んだ。
インターネットでは、興味のある分野の話題ばかりが表示される傾向にある。幅広い情報に触れ、多角的に考える力の養成を今後も粘り強く続けたい。
「問い」立てる習慣 定着 (静岡サレジオ小・中 田辺朱里教諭)
予測不能な時代を生き抜くため、自ら課題を発見・解決する力が重視されている。課題発見の前提となる「問い」を立てる力の養成に主眼を置き、小中とも毎週2回、朝活動の時間にNIEタイムを設定した。
中学生向けに、専用の「ソクラテスのノート」を作成。記事を貼り付けた上で、①情報の整理②問いを立てる③問いに答える④さらに問う⑤外に伝える-の5項目を書き込んだ。感想の記述にとどまらず、自分なりに問題意識を持って解決策を探る練習を重ねた。小学生は記事中の言葉の意味を調べて、文章を要約し、感想を書くワークシートに取り組んだ。
朝活動は一見地味だが、継続した結果、子どもたちは文章読解が速くなり、キーワードを押さえた要約ができるようになった。問いを立てることが習慣化し、内容も素朴なものから、社会性のある切り口が目立つようになった。
短文記述で表現力磨く (県立磐田北高 高井恵実教諭)
社会への関心を高め、課題解決の素地をつくることを目標に掲げ、各教科の授業で新聞を活用した。
福祉では、恋愛や受験など生徒に身近なテーマに関する障害者のニュースを取り上げ、200字以内で考えたことをまとめる練習をした。新聞記事に加え、授業の振り返りの場面などでも比較的気軽に取り組める短文の記述トレーニングを重ね、論理的な文章表現能力が高まった。
公民では政治コラムの見出し付けや要約に挑戦。保健では「市販薬乱用 年間65万人」「女性賃金 男性の7~8割」など記事の読解と、課題の背景を考えるグループワークを行った。
実践後アンケートでは、「知らなかったことが分かった」「社会への関心が高まった」などと生徒から実感の声が上がった。世の中の出来事を知り、他者の意見を参考にしながら思考力を深めることができた。
委員会活動に新聞活用 (県立浜名高 岩本直子教諭)
全日制課程は各学年9クラスの大規模校。生徒の主体的な新聞活用を目指し、委員会活動に取り入れた。
防災委員は、記事と考察をまとめた掲示物を校内に張り出した。能登半島地震で隆起した海岸を震災遺構とする保存活動を報じた記事を紹介する作品では、生徒自身が修学旅行で訪ねた阪神大震災の遺構についても触れ、過去の震災を教訓に防災意識を高める必要性を訴えた。
放送委員は話し方や表現を工夫して、お薦めニュースを分かりやすく伝えるアナウンスに努めた。保健委員は記事の内容と自分の意見をまとめ、学校医に発表した。外国にルーツを持つ生徒もいる定時制課程では、教員が記事にルビを振り、文章を読み解いた。
さまざまな場面で幅広いニュースに触れ、生徒が自分事として社会課題を考えるきっかけになったことを大きな成果と捉えている。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(90)写真を学び合う素材に
小学校3年生を担任しています。初めて新聞に対面する子どもたちなので、記事を紹介する時は、まずは写真に注目させたいと思いました。春は色とりどりの花が一斉に咲きそろう季節ですが、県内で撮影された桜とチューリップが共演している美しい写真を見つけ、子どもたちに見せたのです。
写真を拡大し、そこから読み取れる内容を皆で確認した上で、お互いの感想を聞き合う時間を設けました。
「桜とチューリップのどちらが好きか、理由と合わせて話そう」という問い掛けから入りましたが、最初は「きれいだから」「カラフルだから」など、花そのものが理由になっていました。しかし、感想が続いていくと「桜が咲く頃に1年生が入学してくるから、それが楽しみで桜の方が好き」など、次第に自分の体験や思い出を交えたものが出てきたのです。
そこまで子どもたちの心に響いたのは、色鮮やかで美しいカラー写真があったからに他なりません。文字から情報を読み取ることはまだ難しいとしても、「小さい人たちには新聞は無理」と決めつけないで、きれいな写真情報を共有し、思いを語らせてあげてほしいと思います。
(中村都教諭・静岡千代田小)