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実践8校 成果と課題(上)静岡市立由比小/熱海市立泉小/浜松市立初生小/袋井市立袋井南小

2025年04月06日(日)付 朝刊


■実践8校 成果と課題(上)静岡市立由比小/熱海市立泉小/浜松市立初生小/袋井市立袋井南小 

 

 教育に新聞を活用する「NIE」の県内の実践指定校8校による報告会(県NIE推進協議会主催)が2月、静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開かれた。2年間活動した小中高校の担当教員が、社会への関心や読解力を高めようと授業や特別活動で取り組んだ事例を発表した。2回にわたり、その内容を紹介する。前半は、熱海泉小、静岡由比小、袋井南小、浜松初生小(教員の所属校は3月時点)。

 無理なく、楽しく、継続 (静岡市立由比小 遠藤直人教諭)
 無理なく、楽しく、継続の末字を取った「三つの『く』」を合言葉に毎月2回、新聞を活用する時間「NIE TIME」を金曜朝に設定した。
 紙面から名詞を見つけるゲームを実施。3年の食べ物の名前探しでは「値段は?」「何味?」といった教諭の問いかけに応じ、内容の読解に挑戦した。4年の都道府県探しでは、社会の授業で学んだ知識を生かして県と市の区別を再確認した。6年では、気になるニュースの内容と自分の意見を発表するスピーチにも順番で取り組んだ。
 学校司書とも連携した。図書室に時事問題を掲示し、その場のポストに答えを投かんする「新聞クイズ」は回を重ねるごとに応募者が増えた。
 アンケートでは、3~6年の8割超が読む力が身に付いたと回答した。児童が成長を実感できたことを最大の成果と受け止めている。

 児童の関心 広がり実感 (熱海市立泉小 岡部靖子教諭)
 全校児童25人の小規模校。多様な考えが出にくい点などが課題で、想像力や社会への関心を高めることを目指した。
 3年の国語では、米ハワイ州の山火事を伝える複数の写真を比較した。炎、燃え尽くされた街、焼け跡に立つ人物など、異なる絵柄を見比べて印象の違いを話し合ったり人物の気持ちを想像したりした。6年は総合的な学習の時間で、地元の活性化の取り組みを記事から学んだ。地域の展望を自分なりに考えてまとめたパンフレットや地図作りにも挑んだ。
 「親子新聞デー」として毎月1回、全児童が親子で新聞を読み、社会の出来事について話し合う機会ももうけた。教職員や保護者から「海外のニュースに目を向けるようになった」「興味のある記事を自分で探す習慣がついた」など、児童の関心の広がりを実感する声が上がった。今後も子どもがニュースに触れられる環境づくりを続けたい。

 「考え書く」宿題で習慣化 (浜松市立初生小 大木健太郎教諭)
 5、6年生を対象に、毎週末の宿題として「新聞プリント」を行った。「浜松まつり開幕心待ち」「男女平等 日本118位」「豪16歳未満SNS禁止」など、社会的な関心の高いニュースや児童の興味を引きそうな記事を教員が選んで印刷。児童は言葉の意味を調べ、記事から読み取った事実を箇条書きにして、さらに記事に対する感想をつづり、週明けにグループで披露し合った。
 同じ形式のプリントを1年間続けたことで、自分の考えや思いを書けるようになった児童が増えた。授業での学びも合わせ、語彙[ごい]力や事実を読み取る力が伸び、社会への関心も高まったと捉えている。
 能力の高まりが表れた時に、教師が積極的に声を掛けて価値付けすると、子どもが身に付いた力を意識しながら前向きに取り組んでいけると感じた。家庭を巻き込む工夫を継続的に行うことも大切だろう。

 資料の選択肢の一つに (袋井市立袋井南小 浦中拓也教諭)
 「大人にとって負担ならば、子どもにとっても負担である」。NIE全国大会で耳にした言葉が印象に残った。新聞を「必ず使う」と決めるのでなく、学びの選択肢の一つとして気軽に使うように意識した。
 5年社会「これからの工業生産」の授業では環境への配慮、資源の確保、伝統の継承など、複数の項目のうちで今後どれを重視すべきかについて、自分の意見と根拠を示す授業を実施。教科書や資料集とともに、新聞を資料の一つに位置付けた。地域の話題が豊富で、最新情報を掲載している点が役に立つと感じた。
 特別支援学級では、象の骨格標本の写真を学習用端末で拡大して見て動物の体の仕組みを学んだり、パンダの飼育の記事を読んで概数が社会でよく使われていることを確認したりした。
 職員室入り口近くの棚に新聞紙を置いたら、予想以上の活用事例が生まれた。  

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(89)「袴田事件」記事で自分事に 

 

 それは"奇跡的なつながり"でした。「司法」への興味、関心を深めるため、静岡地方裁判所に模擬裁判をテーマに出前講座を依頼しました。しばらくして担当者が、「袴田事件」で無罪判決を出された国井恒志裁判官だと分かりました。一方で静岡新聞社にも「質問力」をテーマに出前講座を頼んでいました。図らずも、講師の佐藤章弘記者は「袴田事件」担当でした。それぞれ別にお願いしたことが、「袴田事件」で交差したのです。
 新聞記事で「袴田事件」を調べると、関連記事が多く掲載されており、世間の関心がうかがわれました。
 事件発生の1966年6月30日と逮捕時の8月19日の静岡新聞を見せた時、生徒から「犯人扱いじゃん」という声が出ました。そこで問題点を、①捜査手続き(現在との違い)②司法の在り方(再審制を含む)③人権侵害と補償の在り方-の3点に整理し、質問を考えて、昨年12月の裁判所出前講座に臨みました。
 生徒たちは模擬裁判を見事に実演しただけでなく、自ら考えた上で理由の道筋を示して結論を出し、再審無罪の判決についても良い質問をしてくれました。記事が「自分事」になり、司法について知識や関心を持つことは必要なことだと感じてくれたようでした。
 (塚本学教諭・常葉大常葉中・高)