静岡県NIE推進協議会

探究と対話 新聞で深める 問い探り解決する力を 京都でNIE全国大会

2024年09月01日(日)付 朝刊


 教育に新聞をどのように活用できるかを考える「第29回NIE全国大会」(日本新聞協会主催、京都新聞社など主管)が8月1~2日、京都市で開かれた。スローガンは「探究と対話を深めるNIE」で、約1200人の新聞・教育関係者が集まった。

 1日の全体会では、大会実行委員会の橋本祥夫委員長が基調提案で、ジェンダー平等を巡る課題や国際的な紛争など、答えのない問いに対して自らが探り解決する力を養う必要性を指摘。「インターネットや交流サイト(SNS)に情報があふれている時代だからこそ、新聞を使って立ち止まって考えたり、対話が生まれたりすることに意義がある」と語った。
 パネルディスカッションには、日本新聞協会NIEアドバイザーで京都教育大付属桃山中の神崎友子教諭らが参加した。神崎教諭は国語科で新聞記事の中から生徒が関心を持ちやすいテーマについて意見を述べ合う授業を実践しており、デジタル版の関連記事と動画も活用。「進めるにつれ、自分の考えを夢中で書いたり、身を乗り出して仲間の意見を聞いたりする姿が見られるようになった。新聞は子どもたちの対話や探究を促す『生きた教科書』だ」と話した。
 進行役の日本新聞協会NIEアドバイザー宮沢之祐さんも「新聞の役割は人と人、社会をつなぐこと。知ることで自分が変わり、世の中がちょっと良くなる」と語った。
 基調講演では、歴史学者の磯田道史国際日本文化研究センター教授が登壇。江戸時代、「往来物」と呼ばれる教科書などの刷り物が、庶民たちが文字を楽しむ習慣や世の中の知識を得るのに大きな役割を果たしていたことを紹介。人工知能(AI)が発展する21世紀においても必要なのは「自分で学び、好奇心を持ち続ける力」と分析した。
 NIEに取り組む学校を対象とした学習効果に関する調査で、実践により児童生徒は書く力や読む力が、教師は指導する力がそれぞれ伸びたとする報告もあった。
 2日は公開授業や実践発表が行われた。来年の全国大会は神戸市で開かれる予定。 

 

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第29回NIE全国大会で行われたパネルディスカッション=8月1日、京都市 

 


 <AIの裏かく賢さ必要> 歴史学者・磯田道史さん 


 磯田道史さんの講演要旨は次の通り。
 江戸時代の庶民が文字を読んで楽しんだ習慣は、往来物によるところが大きい。私は身分別実学教科書と言っていて、大工や商人、武士がそれぞれの職業教育の中で実学的に学び、専門用語や技を自然に得ていた。
 こうした実学職業訓練だけでなく、江戸の人々には文化教養の素地もあったため、つまらない社会にならなかった。さまざまな文人が旅をし、身分を超えた交流を通じて科学の知識を伝え、社会の発展を支えたと言える。既存の社会制度から逸脱した人の中から、次の世代に貴重と思われる価値を生む人たちが現れると伝えたい。
 現在は人工知能(AI)が出現し、500~1000年に1度の大きな変化が起きようとしているのは間違いない。
 AIが発展する時代では「AIの裏をかく賢さ」が重要だ。新聞を読ませ、それを子どもたちに考えさせてほしい。そのためには問いを立てる力や発想力、学び続ける好奇心が必要だ。さまざまな体験を重ねると、それだけ人間の思考はひらめく。だからさまざまな体験をすることが非常に大切だと思う。
 

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    磯田道史さん

 


 <国内外の紙面読み比べ> 高3生 公開授業 


 メディアが発信する情報とどう向き合うべきか-。京都先端科学大付属高校はジェンダーの多様性を切り口に、新聞記事を読み比べながら報道の背景や意図を考える3年生の公開授業を行った。
 複数の情報から自分の考えを導き出すことを目標とした論理国語の授業の一環。担当の伊吹侑希子司書教諭はジェンダーに関する記事を扱った国内外の新聞社の紙面を比較し、意見交換する機会を設けてきた。
 授業では4~5人のグループに分かれて発表した。日本と海外のジェンダー意識の違いを学ぶため、昨年10月に米国へ研修旅行に行ったグループは、その頃に発行された米国の3紙と日本の4紙を比較。女性政治家の写真が掲載された回数は日本の方が少なかったとして、「日本の紙面に女性政治家が登場する機会が増えれば、社会全体の意識も変わると思う」などと話した。
 別のグループは、3月8日の国際女性デーについて、日本の新聞がどのように取り上げたかを調べた。ある大手新聞社では、今年の扱いが過去3年の中で最も大きかったことや、題字にシンボルカラーのミモザ色を取り入れていたことなどを指摘。背景について「同性婚をめぐる裁判などジェンダーの話題が多かったことが影響しているのでは」「ジェンダーの多様性を実現しようという編集者の意図が読み取れる」などと分析した。
 授業を終え、伊吹司書教諭は「教科書にはない新聞の強みは、読み比べることで大量の情報を多角的にとらえる力を養えることだ。社会問題を自分事としてとらえた上で、自分の意見を根拠付けながら相手に伝える力も身に付いていると感じる」と振り返った。 

 

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NIE全国大会の公開授業で意見を発表する京都先端科学大付属高校の生徒たち=8月2日