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教科書検定、防災に関する記述増 「想定に従う」に待った

2012年03月28日(水)付 朝刊


 文部科学省が27日に公表した高校1年生が使う教科書の検定結果では、来春から使われる教科書に防災に関する記述が増える。高校の新学習指導要領で扱う内容が増え、東日本大震災も影響したとみられる。
 想定外の巨大津波だった震災を受け、教科書会社が「想定をもとに適切に行動する」とした記述に対し「常に想定に従っていればよいかのように誤解する恐れがある」と検定意見が付いた。
 理科の「科学と人間生活」で、東京書籍は、大震災の被害や津波に触れ「海岸付近で地震に遭遇したら、津波警報がなくてもすぐに海岸から離れて高台などに避難し、影響が収まるまで海岸に近づかないことが大切」と記した。
 担当者は「防災を学ぶことは災害が多い日本で生き抜くことに直結する。科学の目を持ち、自分で判断できるようになってほしい」と話す。
 同社は当初「災害に対してさまざまな想定を行い、災害が発生したら、想定をもとに適切に行動する」と記したが、検定は認めなかった。文部科学省の教科書調査官ではなく、教科書検定審議会が「待った」をかけたという。
 東京書籍は「さまざまな想定を行うとともに、災害が発生したら状況を判断しながら、冷静に適切に行動する」と修正した。
 新指導要領で防災の項目が新たに加わった「地理A」。第一学習社は、防潮堤などの限界に言及し「津波対策の基本は『高台に逃げること』」と説明。岩手県釜石市の防災教育も取り上げた。
 帝国書院は、1933年の昭和三陸津波経験者による「祖父によく聞かされていた『てんでんこ(自分の命は自分で守る)』という教えを思い出し、近くの山をめがけて必死に逃げました」との話も紹介した。
 保健体育や数学、家庭、情報の教科書にも防災の内容が盛り込まれた。

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 ■新聞の利用法、多彩に 投書呼び掛けや社説比較-NIE
 教育現場で広がりを見せる「NIE」(教育に新聞を)の活動。新学習指導要領で新聞活用を明記した教科もあり、教科書では投書の書き方を考えたり、社説を読み比べたりと、多彩な利用法が紹介されている。
 「新聞に投書してみよう」。三省堂の国語総合は、新聞社に寄せられた投書を読んでから、実際に500字以内で投書を書いて新聞社に送るまでの注意点を説明。「日常的な事柄に目を向け、自分の体験に基づいていること」を題材に書くよう促した。
 東京書籍の国語総合では、小惑星イトカワの微粒子を持ち帰った探査機「はやぶさ」を取り上げた新聞記事を掲載。限られた字数で正確に伝えるための工夫を探したり、読んだ感想や意見をまとめたりするよう求める。
 京都大などの入試問題が携帯電話からインターネットの質問サイトに投稿された事件を伝える新聞記事と、4社の社説を載せたのは清水書院の現代社会。どんな違いがあるかを考えるよう呼び掛けている。
 啓林館の数学活用は、「新聞に現れる数値の定義や意味を調べてみましょう」と偏差値の計算方法や降水確率の意味を説明した。担当者は「何げなく新聞を読んでいるかもしれないが、数学的な視点でとらえれば情報の理解を深めることができると考えた」と話した。

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 ■新しい出発点-防災教育に詳しい小村隆史富士常葉大准教授(防災学)の話
 教科書に新たに東日本大震災に関する記述が盛り込まれたことを歓迎したい。これが新しい出発点になる。これまでの防災教育には、生徒や児童の人生設計に災害を「織り込ませる」という視点に欠けていた。例えば、災害リスクの小さい場所を選ぶ目を持たせる、という発想があったか。発生が確実視される東海地震などに向けて生きざるを得ない子どもたちが、災害に対して能動的な姿勢を持てるように育てる視点が重要だ。

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 ■「脱ゆとり」の影響-教科用図書検定調査審議会・農業小委員会で委員長を務めた糠谷明静岡大農学部教授の話
 農業の教科書に関してもほかの教科と同様に「脱ゆとり教育」の影響が見られ、科学的視点に基づいて農業を捉えた内容、記述が増えた。農業を学ぶ生徒の進路が多様化している背景も内容に反映されている。バイオテクノロジーなど新たな技術に関しての記述も多い。