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新聞活用の教育、一般化 新指導要領や震災議論-青森・NIE全国大会

2011年08月06日(土)付 朝刊


 NIE(教育に新聞を)活動について全国の実践教員や新聞関係者らが情報交換する第16回NIE全国大会(日本新聞協会主催、東奥日報社など主管)が7月25、26日、青森市で開かれた。静岡県内からの16人を含む約850人が参加し、「読み解く力 新聞でー学校・家庭・地域からNIE」をテーマに話し合った。

 初日は北川達夫・日本教育大学院大学客員教授が「『ことばの力』を身に付ける」の演題で記念講演したのに続き、パネルディスカッションを行った。青森県NIE推進協議会長の児玉忠弘前大教授は新しい学習指導要領で新聞活用が明記されたことに触れ、「新聞を使った教育の大衆化が始まったといえる」と強調。NIEを実践している青森市立千刈小の大賀重樹教諭は、自分たちで作った新聞をほかの児童に説明することでプレゼンテーション能力が高まったことを報告した。東奥日報社の南谷毅生活文化部長は「学校の授業には正解があるが、社会には正解がなく、自分で答えを探さないといけない」と述べ、「生きた教材」として新聞を活用することの意義を語った。

 2日目は小学校、中学校、高校それぞれの分科会が開かれ、公開授業や実践報告が行われた。

 2012年のNIE全国大会は福井市、2013年は静岡市で開かれる。

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 □県内教諭 大会に参加して
 ■英字新聞の利用新機軸-実石克巳/静岡市立高(NIEアドバイザー)
 高校の分科会で目立ったのは、NIEを根幹から支える二つのスタイルだった。すなわち、新分野への取り組みと既存の深化である。新機軸を打ち出したのは、英語科。英字新聞の利用・ALTとのチームティーチング・留学生との国際交流、と実践が難しい領域へ足を踏み進めて発表していた。英字新聞を利用した授業への試みは、今後重要でNIEの大きな流れとなるのではないか、と予感させるに十分なものである。
 次に、従来の国語・地歴公民では、新学習要領に則った取り組みが発表された。読む書く話す聞く力の涵養[かんよう]が、それぞれの授業において新聞を利用しつつなされている。さらに、委員会活動・学校広報活動にも生徒の活躍の場を広げての実践が紹介された。ただ静岡でもすでに十分検討されている分野なので、決して目新しいものではない。とするとこれは、静岡県内のNIE活動もそれほど全国レベルに引けを取らないことを意味するのではないか。二年後の静岡で開催される全国大会を思い浮かべながら、そんなことを思った。
 最後に、生涯教育としてNIEの可能性を探る発表を聞いた。脳トレブームを引き起こした、東北大学の川島教授が提唱する「新聞音読で脳力アップ」教室である。60歳以上を対象に毎月2回・半年で12回の講座形式。記事を正確に出来る限り早口で時間を測りながら、何回も繰り返し音読する。これを青森県読書団体連絡協議会の指導の下に行うもので、学校だけがNIEの活躍の場でないことを感じさせた。

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 ■震災報道を教材に工夫-矢沢和宏/焼津大村中教頭(NIEアドバイザー)
 「震災報道から学ぶ姿勢」と「言語活動の充実」。大震災で開催すら心配された青森大会であったが、むしろこの2つの視点はより明確になった。
 「大震災から学ぶ姿勢」の視点では、即時性や伝達性、信頼性、継続性などの新聞の特徴を踏まえ、大震災の報道を「日本の自然の特色」「防災対策のあり方」「夢や希望を持って前に進むことの大切さ」などを学ぶ教材にする工夫が数多く見られた。新聞は吟味された情報であるが必ずしもそのまま教材となるわけではない。子どもの実態、タイミング、必要感を踏まえ、時には加工するなどして使う必要がある。
 私は、震災報道の実際をこの目で確認しようと八戸漁港に立ち寄った。まだ建物の1階部分が壊れたままになっていたが、住民は「またやり直すよ。大丈夫」と気丈に話してくれた。この東北の人々のねばり強い努力を伝え、復興をリードしていくのも新聞の大きな役割であると感じた。
 また、「言語活動の充実」の視点からは、新聞を活用して主体的に読み解く力を育てようとする実践が多く見られた。情報を比較しながら、自分のものにして、活用・発信していく「活用型の読解力」は全ての教育活動の軸として展開されていくことが望まれる。
 2013年には、静岡で全国大会が開催される。青森大会の成果を踏まえ、「新聞でなければできない」「静岡でなければできない」、そんなNIEを全国に発信できればと願っている。

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 ■読解力、生涯教育に-中村都/静岡中田小
 本大会のスローガン「読み解く力新聞で」は新聞の機能性を的確に言い表した言葉であり、今後のNIEの指針になると思う。
 新学習指導要領により、教育現場での新聞の活用がより重要視されるようになった。これからはたくさんの先生方が新聞を使った授業を展開されると思うが、新聞教育の大衆化を手放しに喜んではいられない。新聞を授業に持ちこむと子どもたちにどのような力がつくのか、従来の授業でつく力とどう違うのかの見極めが大切になる。新聞作りにおいてもなぜ新聞でなければいけないのかを子どもたちに意識させた上で取り組ませていく。
 「読み解く力」は学校内だけに留まることなく、生涯教育にまで広がりを見せてほしい。

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 ■分析と発信の力育成-川上博/東海大翔洋高
 新学習指導要領に新聞活用の充実が盛り込まれたことを受け、学校教育現場では実践計画、実践報告が議論されています。このことは、学校教育現場と新聞社の連携がより重要になったとも言えます。
 NIE学習には二つの側面があります。情報を得るための授業(分析力、思考力、判断力)と、自ら情報を発信する授業(新聞作成、文章の書き方、コミュニケーション能力の向上)です。新聞を「生きた教材」として活用する方法は多種多様です。
 本校のオープンキャンパスが8月21日と22日に開催されます。体験授業のひとつとしてNIEの授業を行います。授業実践とともに、全国大会で得た情報を紹介します。生徒が楽しんで新聞に接することで、社会参加につながることを期待しています。

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 ■まず読み方魅力伝えて-山崎章成/浜松曳馬小(NIEアドバイザー)
 青森市立堤小学校の公開授業では、東日本大震災の報道を通して、情報の意義や情報発信者に求められる姿勢について考えていた。情報を鵜呑みにするのではなく、その情報が「誰のために」「何のために」発せられたものかを考える視点の大切さを説く授業は、震災を生き抜いてきた学校の重みを感じた。
 情報モラルの指導の大切さは、日に日に強くなっている。また、情報を発信する際に留意すべき点も数多くある。一般論としてではなく、自分たちとのかかわりの中で考える視点は、ぜひとも生かしていきたい。
 青森市立佃小学校では、NIEの指導を①新聞に親しむ②新聞を知る③新聞を作る④新聞を活用するの4段階を踏まえた指導をしているという。③の新聞作り、④の新聞記事の活用は、多くの教師が行っているものの、①、②を踏まえていないために、新聞の魅力や特徴があいまいになっているのが現状である。②新聞を知る指導は、その後の新聞作り、新聞活用を成立させるための原動力になる。NIEの学びをより確かなものにするために、基礎基本を小学校の低・中学年のうちにきちんと教え、高学年、中学校の多様な学びに広めていく大切さを改めて感じた。
 新学習指導要領に新聞活用が取り上げられ、「NIE元年」とも言われる今、何をいつ、どのように教えるか研修を深め、どの学校でも、どの学年でもNIEの実践が行われることを切に願う。

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 ■切り口の多様さ学ぶ-越智義寛/浜松江之島高
 私が参加した公開研究授業では、授業者の事前の準備は周到で、大変な労力をかけた授業作りがされていました。夏休み中にもかかわらず、生徒は学びに集中し、1時間その学びが切れることはありませんでした。また、多くの実践報告も行われ、優れたNIEの取り組みが進められていることを知りました。
 普段、新聞は、見ない・読まない・触らない、そんな生徒たちに、自分たちの言葉で、自分たちの新聞作りを進めている実践など、目の前の生徒をなんとかしたいという強い思いが伝わってきました。
 新聞を使った授業の切り口の多様さに、驚くとともに、自分の実践にも取り入れてみようという意欲もわいてきました。

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 ■記者との距離縮まる-小林大治郎/島田樟誠高
 特に感銘を受けたのは「新聞記者と教師の交流講座」であった。東日本大震災に遭遇した新聞社が、紙もインクも電力もない中、いかにして新聞を発行し届けたかという報告が中心であった。電灯の付かない避難所に届いた地元の新聞は「よく出したね」と感謝の声で迎えられたという。
 大会前日、仙台空港周辺を歩いた際、私は暫く言葉が出なかった。文字にするのはなおさら辛いことである。けれど、社会部の記者はそれを活字に起こさねばならない。計り知れない苦悩を静かに語る記者との距離が少し縮まったような気がした。
 これからも学校での実践を通じ、溢れるメディアの中で、アナログ代表のような白黒の活字が持つ根源的な力を読み解く能力を、生徒とともに養っていけたら幸せだと思う。

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 ■言語活動の充実期待-山下孝良/袋井中
 NIE全国大会に参加し、最も強く感じたことは、今後の教育現場では、新聞活用の比重がますます重視されるであろうということでした。
 新聞記事に対する意見をまとめることや記事を読み比べることが、中学校が来年度から全面実施する学習指導要領の重視する言語活動の充実につながり、さらには思考力・判断力・表現力の育成につながっていくであろうと感じました。
 東日本大震災で、日本が大きな打撃を被っている今だからこそ、生徒の学ぶ意欲を促すためにも、新聞の活用はすべての教科においてその重要性が増すであろうし、自分も教育の現場で訴えていきたいと考えます。