
同市出身の近藤さんは2024年秋ごろまで、市内の小学校で教員をしていた。ただ思うような授業ができず、子どもたちのためになっているのかと自己嫌悪に陥ることが度々あったという。
解決策を求めて足が向いたのがまちの書店だった。悩みに関する本も多く、悩んでいる自分を肯定できたという。店主と話すと視野が広がり、本の陳列からも店主の思いを感じてうれしくなった。「まだ自分にはやれることがある」と新たな挑戦を決めた。
落ち着く空間にしようと和室のテナントを選び、ビンテージの木製棚を用意した。エッセーや随筆を多めにそろえたほか、絵本、児童文学、小説など約1650冊を並べる。開店にあたり、行きつけの掛川市の書店「高久書店」の店主高木久直さん(54)にアドバイスを受けた。オープン初日は、ひっきりなしに客が来る盛況ぶり。来店したかつての教え子からは「ここに来たらまた近藤先生に会える」と声をかけてもらった。
書籍の電子化やネット販売により、閉店する書店が増加する状況に不安も感じるが「紙の本も書店も残っているのは、必要とされているということ。その場所を提供したい」と近藤さん。あの日の自分を救ってくれた書店のように「ここに来てなんか良かったと思えたり、昨日よりも世界が面白く感じたりするような場所にしたい」と語る。書店主としての近藤さんの人生が幕を開けた。