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「オクシミズ」の魅力たっぷり 静岡・両河内地区

 静岡市清水区の興津川を北上していくと、山あり川ありの自然豊かな中山間地が広がっています。地元住民やファンからは「オクシミズ」と呼ばれる地域。中でも両河内地区ではお茶や日本酒のほか、休耕地を活用した新たな特産品づくりが盛んです。両河内地区の魅力をたっぷりと、1ページにまとめてご紹介します。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・吉田直人〉

「高嶺の香」を栽培 機械製茶で40年以上連続最高値の高級茶

 静岡茶市場の新茶初取引を前にこのほど、機械製茶で40年以上連続最高値を付けている高級茶「高嶺の香(たかねのはな)」の栽培状況の最終確認を両河内茶業会が実施した。同茶業会の役員は「高値の香は地域の誇りだ」と話した。

初取引を前に茶葉の栽培状況を最終確認する両河内茶業会の役員=静岡市清水区清地
初取引を前に茶葉の栽培状況を最終確認する両河内茶業会の役員=静岡市清水区清地
 興津川沿いに山々が並び茶どころと知られる両河内地区で「高嶺の香」の生産が始まったのは四十数年前。当時の同茶業会役員が地域の顔となるような茶葉を作ろうと初取引用に育て始めた。枝を伸ばして育てることで葉数を少なくし一枚一枚に養分を蓄えさせた。育った茶葉は強いうま味を持ち、最高値を10年、20年と付け「高嶺の香」と名付けた。
 当初は地域住民の中でも「高嶺の香」に対する反応には温度差があった。しかし県内の茶業が最盛期を過ぎ、同地区でも茶農家が減少する中、茶業会一丸で育てる“自慢のお茶”に育っていった。
 「高嶺の香」は400平方メートルほどの小さな茶畑で栽培されていて、1年かけて約4キロの製茶しかできない。片平靖士会長(53)は今年も色が濃く太い芽が育ったと評し「良い物を作るために採算度外視でやっている。これからも何十年と栽培し続けていきたい」と話した。
〈2022.04.18 あなたの静岡新聞〉

両河内の魅力開拓 地元NPO「複合力」の取り組み

 静岡市清水区西里の市清水森林公園「やすらぎの森」で、休耕地となっていた田畑に小麦や大麦が青々と育っている。同区両河内地区のNPO法人複合力(加藤伸一郎代表)が、新しい特産品を創出し地域を活性化させようと活動している。

両河内地区の美観維持と特産品 創出のために整備した小麦畑
両河内地区の美観維持と特産品 創出のために整備した小麦畑
 同NPOの設立は2012年末、高齢化が進み、放置され荒れつつあった農地や樹林、古民家などを地域活性化の資源にしようと活動を開始。地場産品の開発に取り組み、17年には地場産大麦を使った地ビール「両河内エール」を販売した。他地域にも麦の栽培活動はつながり、同区由比北田の伝統祭事「天王舟流し」の麦わら舟の素材として活用されている。
 小麦畑近くにある「森のジェラートcomo」は納屋を改装した同NPOの活動拠点。清水のイチゴやかんきつ類を使ったジェラートと看板娘の雌ヤギ「さっちゃん」とのふれあいを求めて市内外から人が集まる。染め物体験やマルシェが開かれ、地区の往来の中心地へと成長しつつある。
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完成した特産品や地場の物を使ったジェラートなどを販売しているNPO法人複合力のショップcomo

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両河内産の茶葉を使った濃い茶味と久能イチゴのいちごミルク味、青島ミカン味を重ねたジェラート「清水盛り」

 「山あり川ありの日本の原風景にほれ込んだ」と話す同NPOの加藤代表は神奈川県出身。会社員をやめて旧富士川町で農業を学び、35年前に両河内地区へと移住した。
 時が流れ過疎化が進んで放任農地が増え、にぎわいとともに田畑が並ぶ美しい姿が失われつつあった。休耕田を使った地場産品生産は景観の改善、復旧にもつながっている。加藤代表は「新しい特産品で地域を発信し、多くの人に来てもらってこの風景を見てほしい」と話した。
〈2022.04.06 あなたの静岡新聞「わたしの街から」より抜粋〉

日本酒も製造 “幻の米”使った「両河内亀の尾」

 静岡市清水区両河内のNPO法人「複合力」(加藤伸一郎理事長)と同区西久保の三和酒造(鈴木克昌社長)が2019年から販売している“幻の酒米”を使った日本酒「臥龍梅純米吟醸両河内亀の尾」の22年版が完成した。従来は酒米の収穫量不足で隔年製造だったが、地元企業らの協力で豊作となり、単年分の米で醸造できた。販売は3月3日から。

地元企業らの協力を受けながら完成した日本酒「臥龍梅純米吟醸両河内亀の尾」=静岡市清水区西久保の三和酒造
地元企業らの協力を受けながら完成した日本酒「臥龍梅純米吟醸両河内亀の尾」=静岡市清水区西久保の三和酒造
 使用している酒米「亀の尾」は稲が高く伸びて倒れやすく生育が難しいとされている品種で、同NPOが17年から同区西里の清水森林公園「やすらぎの森」内の休耕田で栽培している。これまで台風被害や獣害で収穫量が伸びず、一定量の酒米が必要な日本酒の醸造に支障を来していた。
 21年は新聞記事を通じて取り組みを知ったイハラ建成工業(静岡市清水区)が同市の西ケ谷清掃工場溶融炉から産出される「スラグ」由来の肥料導入を提案。同社が稲作への活用技術を提供し、溶融炉製造元の日鉄エンジニアリングが肥料を供給した結果、同年は従来の1・5倍以上となる約420キロを収穫した。同NPOの加藤理事長は「肥料から栽培、醸造までオール清水・静岡の酒に仕上がった」と成果を喜ぶ。
 完成した600本は、同NPOが運営するショップ「como」や同酒造など、実店舗限定で販売する。価格は税込み1本2千円。
〈2022.02.25 あなたの静岡新聞〉

森に包まれた露天風呂「やませみの湯」人気

 静岡市清水区西里の温泉浴場「やませみの湯」の魅力の一つは隔週で岩風呂、ひのき風呂に切り替わる露天風呂。市清水森林公園やすらぎの森内に位置し、雄大な自然に囲まれながら塩化物泉質の天然温泉を楽しめる。

露天に力を入れていて隔週で岩風呂と檜風呂が楽しめる=静岡市清水区西里のやませみの湯
露天に力を入れていて隔週で岩風呂と檜風呂が楽しめる=静岡市清水区西里のやませみの湯
 1999年の営業開始以来、県内外から集まるキャンプ客や地元住民らに愛されてきた。館内では土産にぴったりの地場産野菜やワサビの加工品も販売している。3月にはロシアの侵攻を受けているウクライナ支援で、入浴客にボルシチを振る舞い、募金を呼び掛けるなど、独自のイベントも活発だ。
〈2022.04.06 あなたの静岡新聞「わたしの街から」より抜粋〉
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