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リニア 国土交通省専門家会議 実名化議事録⑥

国土交通省専門家会議 第6回 議事詳報

2020年10月27日:国土交通省

 ※この議事詳報は国土交通省が公開した「議事録」に、静岡新聞社の傍聴等の取材を補足してまとめました。「議事録」や会議当日の配布資料は 同省ホームページ でご覧になれます。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 前回の会議では、本有識者会議で議論している大きな2点である「トンネルによる大井川中下流域の地下水への影響」と「トンネル湧水の全量の大井川表流水への戻し方」について、座長コメントとしてとりまとめた。本日の第6回会議ではこのうち「トンネルによる大井川中下流域の地下水への影響」について、座長コメントにおいてJR東海に対して追加の検討を行うよう指示した化学的データ及び静岡市による解析結果等について説明いただき、議論したいと思うが、その前に議事(1)にあるとおり、前回会議の追加説明についてJR東海よりお願いできればと思う。


本坑と大井川交差部の考察を追加

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料1の説明
 それではご説明させていただく。最初に資料1「第6回会議のご説明骨子」をご覧いただきたい。本日の説明の骨子である。議事(1)「前回会議の追加説明について」では、第5回会議の資料4のうち、「5.千石斜坑等の掘削方法と畑薙山断層帯の掘削方法」の中で、地質の状況を示しながらトンネル掘削の向きについて考察をした。今回、本坑と大井川の交差部についての考察を追加し、ご説明する。議事(2)「トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響について」では、静岡市の水収支解析について、モデルや入力条件等のJR東海モデルとの違いをご説明し、トンネル掘削による地下水位の低下範囲を確認する。
 次に、化学的データに基づく中下流域の水資源利用への影響検討では上流域から中下流域にかけての地下水や河川水の成分分析の概要、結果、考察についてご説明する。そして最後に大井川の中下流域の地下水への影響に関する実測データや各種分析からの総合的な考察についてご説明する。資料1については以上である。


「畑薙山断層帯」を「県境付近の断層帯」に変更

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料3の説明
 続いて、議事(1)前回会議の追加説明について、資料3「県境付近の断層帯におけるトンネルの掘り方・トンネル湧水への対応(素案)」をご覧いただきたい。まず資料3の表題についてご説明したい。前回の会議では「畑薙山断層帯におけるトンネルの掘り方、トンネル湧水への対応」というタイトルで説明した。その際、委員より「トンネル付近の断層は畑薙山断層というより井川-大唐松山断層ではないか」とのご指摘をいただいたところである。
 中央新幹線が山梨県境付近で交差する断層について、南アルプスの地形・地質に精通された有識者より、中央新幹線交差部より北側・南側に伸長する断層を含め、井川-大唐松山断層であるとの見解を頂いている。
 一方、当社ではこれまで、文献調査、地表踏査、航空写真による地形判読、また地質調査結果に基づき、中央新幹線交差部の北側・南側に伸長する部分を含めて「新編 日本の活断層」に記載されている畑薙山断層としての連続性が認められると考え、「畑薙山断層帯」として扱ってきている。中央新幹線交差部付近における断層の存在は有識者の見解においても共通しているので、今後は中央新幹線交差部付近の断層の呼び方を「県境付近の断層帯」と改めることとする。p3について、図2の赤い線が産業総合技術研究所の地質図に掲載されている井川-大唐松山断層である。図3が「新編 日本の活断層」に掲載されている畑薙山断層であり、当社はこれまでの調査結果から畑薙山断層として記載のある断層と交差部付近の断層とは連続性があると判断している。いずれにしても中央新幹線交差部付近に断層がある、ということでは共通しており、この周辺を「県境付近の断層帯」と呼ぶこととする。


トンネル終点より東側に破砕帯

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 また、前回、森下委員より、県境付近の断層帯を把握するために当社が実施したノンコアボーリングに基づいて作成した地質図について、「このボーリングは県境付近の断層帯を抜けきったとは言えず、トンネルの終点よりも更に東側に破砕帯が続いている可能性がある」とのご指摘をいただいたところである。ご指摘の通り、その旨をp3の上段の文章に記載している。p25について「5.千石斜坑等の掘削方法と県境付近の断層帯の掘削方法の比較」である。


本坑交差部の大量湧水の可能性は小さい

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 資料の説明に入る前に、これまでの会議での議論について少し振り返りをさせていただく。第4回の会議においてトンネル掘削に伴う地下水位低下量図を示した際、大東委員から、トンネルが大井川と交差する部分におけるトンネル湧水についてのご意見をいただいた。前回の第5回会議にて、千石斜坑等は下向きで掘る一方で、県境付近の断層帯は山梨県側から上向きで掘ることに関して、これまで得られた地質情報を整理し、トンネル掘削の向きについての考察をご説明した。第5回会議では、トンネルと大井川が交差し下向きで掘削する場所として、土被りが約80mと比較的小さい千石斜坑と大井川交差部を考察の対象としていたが、今回、本坑が大井川と交差する場所についても下向きに掘削することについて追記したということである。
 位置関係を見るためにp29をご覧いただきたい。トンネルが大井川と交差する箇所は図19のみ緑色の線で記した、千石斜坑と大井川が交差する箇所、ちょうどオレンジ色の調査Aの鉛直ボーリングの位置付近と、それよりも北側の赤い線で示している本坑、先進坑と東俣が交差する箇所となる。千石斜坑と大井川が交差する箇所の考察は第5回で説明したので、今回追加したのは赤い線の本坑と東俣が交差する箇所である。
 本坑と東俣が交差する箇所の少し南側で図19では紫色で示している調査Bでコアボーリングを実施している。このコアボーリングの結果により、本坑が大井川と交差する区間の地質の状況を推定している。このコアボーリングの結果概要を踏まえての考察をp26に記載した。
 p26について、一番下の「⑤ 本坑と大井川(東俣)交差部」のところである。大井川から西側に向かって実施した斜め下向きボーリング調査において、口元から100m付近において先進坑及び本坑が大井川直下で交差すると想定される断層が出現した。断層幅は約3m 程度の小規模なもので、断層の前後に破砕部は伴わず、湧水量も僅少であり、問題なくボーリング掘削ができている。ボーリング結果からは本坑と大井川交差部における大量湧水の可能性は小さいと考えているが、地質が急激に変化する可能性もあるので、トンネル掘削時には前方探査をし、場合によっては薬液注入等を行って、慎重に掘削を行う。
 関連する参考資料についても説明する。p39について、ボーリングで得られたコアの写真である。このページには地上から100mまでのコア写真を示している。右下の写真において、黄色で囲んだ区間が地上から約100mの付近で確認された約3m程度の破砕質な区間であり、その前後は比較的良好なコアの状態で採取ができている。本坑と大井川が交差する箇所においてもこのような断層が出現すると考えられる。
 続いてp54の下にある図31は、トンネルの施工計画の策定にあたって作成した本坑沿いの断面での地質縦断図と安全にトンネル施工を進めるという観点からの施工上の留意点である。施工上の留意点は、可能性や程度にかかわらず、少しでも考えられることについて列記をしている。
 本坑と交差部における留意点は、赤い枠で囲った部分である。コアボーリングを実施した際に、深度600m付近までの当該箇所と別の場所で湧水が増えている箇所が確認されていることを踏まえて、当該箇所において湧水の増加を否定できないことから、湧水の懸念についても記載をしている。
 しかしながら、p26、27で説明したとおり、当該箇所の破砕幅は約3mで、断層前後のボーリングのコアの状況や湧水の状況から、本坑と大井川交差部の断層における大量湧水の可能性は小さいと考えている。資料3についての説明は以上である。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ここまでの説明に関して委員の皆様から自由にご質問、ご意見をいただきたい。


環境への悪影響の記載を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 今の資料の質問もあるが、その前に資料2について発言させていただきたい。資料2の表紙をめくると、目次が書いてある。以前にも申し上げたことがあるが、この目次に向けて今回の資料を用意し、最終的には報告書を作られると思う。大井川の近隣の人たちがこれを見たときに、JR東海が工事に伴ってどんな取組みをするかは大変よく分かるし、資料も毎回の会議ごとに整理されていることについては感謝申し上げる。
 ただ1つ申し上げたいのは、工事をしたことによって環境にどのような影響があるのかがまとめられているかが、目次に反映されていない。大井川の現況については分かるし、トンネル工事による事象についての記載はあるが、悪影響がどこにあって、リスクはどんなものが考えられるかをぜひどこかにまとめて書いていただきたいと思う。
 次に「2.トンネル工事により生じる事象と大井川中下流域の水資源利用への影響回避・低減に向けた基本的な対応方針」というタイトルがあるが、何か物事が始まって環境にここでいう「事象」が起こった場合のことを考えていただきたい。国語辞典などみていただけるとありがたいが、「現象」が起こると言うことは物事が変化したというふうに捉えるが、「事象」というと観測者が認識できるがどうかであるという言葉の定義もある。そうすると、「現象としては起こったが、認識していなかったなら事象ではない」と揚げ足をとられる可能性があるため、言葉遣いをご注意いただきたい。


逸水の可能性は

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 3章について申し上げると、先程のコア写真で3m部分の区間のところが断層帯だということはよく分かったが、p26から始まる文章のp27の一行目のところで「湧水量も僅少であり調査時も問題なく」とあるが、ここでは逸水はしなかったのか。


可能性あるが他区間より湧水量少ない

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 p27のところで、「湧水量も僅少であり」とのことだが、まず湧水はどこで測っているかというと口元で測っている。そのため、ボーリングの先端及びその周囲から出てきた水がボーリング穴を通って地上の口元から出る水の量を計測している。その間に、割れ目などがあり、そこで水が逸水することがなかったかというと、逸水した可能性はある。だけれども、他の区間も同じような条件で口元湧水量を測っているので、他の区間と比べるとこの区間の湧水量は少なかったということはいえるかと思う。


薬液注入による止水は可能か

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 承知した。この程度の破砕帯の場合は、グラウト(薬液注入)によって水を止めるということは可能なのか。それとも、グラウトだけでは無理なのかを教えていただきたい。


薬液注入によって湧水を極力低減

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 極力、湧水量を低減していくということには取り組んでいくので、まずは先進ボーリングを行い、どのような地質性状なのかということを、都度コアボーリングを行ったうえで確認をして、基本的な対策としてはグラウトによって湧水を低減していくという考えである。


掘削の悪影響を分かりやすくまとめる

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 丸井委員が先程おっしゃった、トンネルと掘ることによって何が起きるかについては、しっかりまとめていきたいと考えている。「事象」という言葉と「現象」という言葉の捉え方が違うというお話もあり、リスクの捉え方であるとか、色々な切り口があるので、ここは私どもが独りよがりで書くのではなく、色々な方のご意見、委員をはじめ皆さまのご指導を受けながら、トンネルを掘ったことによって、地域の方から見てどのようなことが起きるのかを分かりやすくまとめて参りたいと思っている。引き続き、ご指導を賜りたい。


着工後の検証を前提にまとめを

 (委員・大東憲二大同大教授)
 先程、丸井委員がおっしゃった資料2の話であるが、確かに工事をするためにいろんな条件を調べてシミュレーションをして安全に工事をする、これは施工する立場からして当然やらなければいけないことだが、もう一つ、環境影響についてのコメントが少ないという印象を持っている。私ははじめから思っていたのが、環境影響評価の制度の中で、まだ今は事後調査の段階にある。環境影響評価はまだ完了していないわけで、評価書が終わってやっと工事に着工できるところまではきているが、評価書が出た後は全て事後調査に入ってくる。そうすると、制度上、事後調査の報告書を作らなくてはならない。そのためには、評価書の段階でこのような影響があるという予測が実際に工事を行った後に、その現象が起きたのかどうか、そこから安全側へいったのか、危険側へいったのかそれを評価しないといけない。ただ非常に不確実性が高いので、評価書の段階では正確に予測評価ができない案件がたくさんある。
 そうすると、事後調査の段階で調査をしながら評価予測し、工事も行い、そのフィードバックを繰り返しながら、最終的に環境に影響の少ないものを作り上げていく、これが本来の環境影響評価の考え方だと思う。そういう考え方で、これらの問題に取り組んでいただくのが良いと思っている。今回色んな予測も出て、評価も出ているので、これが工事が始まった後にきちんと検証できるかどうか、検証することを前提に予測をしているかどうかという観点でまとめていただきたいと思う。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 コメントは何かありますか。そういう方向でまとめるということでよろしいか。それではその方向で。


亀裂での湧水の可能性も留意を

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 本日いただいた資料3のp54に記載されていることで、湧水が出ることが懸念される場所があるという中で、少し前に戻ってみるとp45のところにそれに関連する記述があると理解するが、このときの「深度300m付近で湧水量が急激に増加している箇所があるが、断層部とは考えにくい」とある。亀裂性の岩盤の中では、断層帯は確かにいろんな意味の工事での困難さを伴ったり、湧水が多かったりと我々は最初に考えるが、それ以外でも亀裂が連続しているところというのは、湧水をするということはしばしばあり得ることだと考えるので、断層だけを見ていれば良いという形に偏りすぎないように、こういう山、亀裂性の岩盤の時には水が出るところは水が通りやすいところが出てくるということなので、そこについては事前に予測が難しいということはその通りだと思うが、そちら側の意識があまり薄れないようにしていただくことも大事だと思うので、今後の調査の際ご留意いただきたい。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 それでは次の議事「トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響について-静岡市の水収支解析」に入る。


地下水位の低下範囲は椹島付近で収束

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料4の説明
トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響について、資料4「水収支解析について」ご説明させていただく。今回、静岡市が実施した水収支解析結果を用いた検討について追加している。
 p56の「1)はじめに」について、前回の第5回有識者会議で、トンネル掘削に伴う地下水位の低下域は、解析範囲より大きく外側に広がっていることはないとご説明した。第5回の座長コメントを受けて、静岡市が実施した水収支解析を用いた追加の検討を行ったので、解析の目的・手法・各種条件設定、そして地下水位低下範囲等の結果について順にご説明する。「2)静岡市が実施した解析の目的」について、静岡市では、南アルプスの自然環境の保全に資するべく、地上の植生に影響する表層土壌水分を含めた、地表水及び地下水の影響の把握を目的としている。
 p57、静岡市が実施した手法はGETFLOWS(ゲットフローズ)というモデルで、降水から地下への浸透、地表面流動、河川への流出を一連のシステムとして一体的に捉え解析をしている。
 p58では、解析の流れをお示ししている。p58の中の(ⅰ)から(ⅵ)について、次のp59でご説明する。(ⅰ)解析モデルの構築では、地形、地質、気象、ダムなどの情報を収集・整理してモデルを構築する。次に現況再現である。(ⅱ)初期状態の定常解析では、現況の平均的な地下水分布を再現する。(ⅲ)現況再現の非定常解析では、2011年9月から2012年12月の実績降水量とダムの実績取水量等を入力して現況再現し、(ⅳ)モデルの再現性の検証において、ダムにおける解析流量と観測流量との比較等を行い、モデルの再現性を確認する。次にトンネル掘削後の予測解析である。(ⅴ)トンネル掘削後の定常解析では、トンネルを格子の一つとして組み込み、トンネル掘削後のモデルを作成して、(ⅱ)と同様初期状態を作成する。(ⅵ)トンネル掘削後の予測解析では、(ⅲ)と同様の条件を入力し、トンネル掘削後の地表水や地下水の状況を予測する。
 p60については、両者の解析の目的の違いや出力項目の違いを記している。表13をご覧いただくと目的の違いは、JR東海は水資源に対する環境保全措置、静岡市は自然環境保全である。出力項目等の違いについては、静岡市モデルでは、表層土壌水分量を出力していること。JR東海の解析では、トンネル掘削工程を考慮した予測解析を行っているが、今回の静岡市の解析では、トンネル掘削完了後の定常状態を解析している。
 p61は、各種条件設定についてである。
 p62は、解析領域についてである。表の左側がJR東海、右側が静岡市である。上段は解析範囲である。右側の図52をご覧いただくと赤い枠がJR東海の解析範囲、黄色い枠が静岡市の解析範囲である。下段は解析条件である。右側の欄にある静岡市の方に記載のとおり、境界の側面及び底面は閉境界であること、境界部では河川水が流出するという点では同様の設定となっている。
 p63は、地質構造についてである。右側上の図55「静岡市地質平面図」をご覧いただくと濃い緑色が主要な断層として設定され、黄緑色が重要でない断層として組込まれている。右側下の図56は地質断面図である。透水係数により色分けされている。凡例にあるように6段階に区分されているが、静岡県内のトンネル近傍の標高では主要な断層5箇所は最も大きな設定の1×10-4m/sのオーダーである。それ以外については最も小さな設定の1×10-9m/sのオーダーである。
 p64は、透水係数と有効間隙率についてである。透水係数について、静岡市は先程述べたとおりで あるが、左側のJR東海については従前示しているとおり10-6m/s~10-8m/ sのオーダーである。有効間隙率については、地表面近くを除いて概ね同じような設定となっている。
 p65は、気象条件である。上段は降水量である。右側の静岡市モデルをご覧いただくと、2011年9月~2012年12月までの降水量が少ない年で予測をされている。下段は蒸発散量についての説明である。
 p66は、予測結果についてである。トンネル掘削に伴う地下水位低下量の予測結果である。枠内に記載のとおり、JR東海及び静岡市の解析結果ともに、トンネル掘削後の地下水位の低下の範囲は、南北方向では椹島付近で収まっている。
 p67は、地下水位の低下量図を示している。左側がJR東海で、前回会議でお示ししたもの、右側が静岡市の解析結果である。右側の静岡市モデルをご覧いただくとトンネル近傍の主要な断層に沿って地下水位が低下している結果となっている。また、図上の赤い線で切った断面での地下水低下量を次のp68に示している。資料を縦に見て上段がJR東海モデル、下段が静岡市モデルによる予測結果である。どちらも薄い青い線がトンネルがない状態、濃い青い線がトンネル掘削後である。この縦断面図を見てもトンネル掘削による地下水位の低下範囲は南側では椹島付近では収束していることがわかる。
 p69は、その他の予測結果の概要についてである。静岡市モデルによる河川流量の予測である。工事前工事後ともに静岡市モデルによる数値は、JR東海モデルより小さな値となっている。
 p70は、トンネル湧水量である。こちらもJR東海モデルよりも、(静岡市モデルは)小さな値となっている。
 p72は、静岡市モデルによる表層土壌水分量の変化である。地下水面が浅い沢底などでトンネル掘削の影響で水位の低下が生じると水分量が低下する。トンネル掘削により表層における水分量が低下する箇所を図63で示している。低下量はおおむね10%程度であるが、青く塗られた場所では50%を超える低下量と予測されている。静岡市が実施した解析結果を用いた検討についての説明は以上である。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ここまでの説明に関して、委員の皆さまから自由にご質問ご意見をいただきたい。よろしくお願いする。


予測解析の手法の確認

 (委員・大東憲二大同大教授)
 p59の予測解析というところについて2点あり、1点はトンネル掘削の定常解析は最終的にどうなるかという予測をしたということである。その次にトンネル掘削後の予測解析というのは先程の説明でも若干分かりにくかったが、これは非定常の解析を1年間やっているということである。この時にトンネルの位置に与えた条件は、トンネルが瞬間的に掘られているという条件が与えられたときに1年間でどういう風に変化していくかという解析をされているということでよろしいか。


1年間の降水量で非定常解析

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 59の中の(ⅴ)のところ、トンネル掘削後の定常解析でまずトンネルがある状態で地下水位がどのくらいの状態にあるのかというのを定常解析で予測をしておいて、その後、非定常解析でこの1年間の降水量で解析を行ったということ。


生態系評価に静岡市の解析活用を

 (委員・大東憲二大同大教授)
 わかった。まず定常解析でトンネルの影響を一度評価しておいて、その後、その状態で降雨とかの条件によって水位がどのように反応するかを非定常で解析したということだと理解した。JR東海の解析と静岡市の解析では目的が違うので、解析領域も違うし、当然解析状況も違う。岩盤の透水係数も随分違う。いずれにしても南側はどちらも同じぐらいの影響範囲だろうと。逆に静岡市の大きな領域のモデルでもそこまでしかいっていないという検証が出来た。
 もう一つは、断層に沿って水位が大きく下がっているのが静岡市モデルであり、これは当初の目的が、植生その他地表部の環境にどういうふうに影響が出るかということであるので、恐らく断層に沿って水位が下がったら地表面がどうなるかという点に着目して、少しそういう影響が大きめに出るように設定してあると解釈している。
 この湧水の問題の後に生態系の問題が残っている。その生態系の問題を評価するために今我々が持っている数値的に予測した結果は、多分静岡市モデルしかないと思う。静岡市モデルをこの後、生態系の評価のところでうまく活用していただきたい。目的によってシミュレーションの結果を使い分ける。ただ、どういう条件でやっているかしっかり押さえていかないと、違う目的の解析を同等に評価にされてしまうとおかしなことになる。そこはおさえておいていただきたい。


JR東海と静岡市の解析結果が異なる理由は

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 最初に2つ質問がある。p68に断面図がある。元々のトンネルが掘削される前の地下水位と、トンネルの影響を受けた地下水位とが、濃い青と薄い青で書いてある。大変わかりやすくて良いのだが、解析のステップから言うと、最初の1段階目、2段階目、定常状態の解析というところで薄い青のトンネルの影響がない元々の山の中の地下水位を解析されていると思うが、JR東海の解析と静岡市の解析で薄い青、つまり何も影響がない状態で解析しているにも関わらず、地表面と大きく異なっている。2者の見解が大きく異なっているのはどういう理由か。


JRは地下水位の算出を目的としていない

 (JR東海・二村亨次長)
 目的が違ったり、条件設定が違ったりするので、同じものを予測していても結果が違うということは多少あると思う。ここまで大きく違うということについては、考えられるとすると、JR東海の方は地下水位を算出することを目的としていなかったということもある。計算過程のなかで、あるグリッドの中で平均的な地下水位を計算上出していて、それに基づいてトンネル湧水量がどれくらい出ているかを計算している。そういうところで差が出ているのかもしれない。


トンネル湧水の継続時間算定を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 それにしても、あまりにも差が大きいという感想である。それに関してコメントもしつつ申し上げると、例えば、静岡市の様に地表面付近、あるいは地表面を超えるような場所に地下水位があった場合、トンネル掘削によって地下水位が下がると沢涸れが当然考えられるが、JR東海の解析のように、元々地面から地下水位がかなり下がっていたとするならば、上流部の沢に出てくる水は地下水位本体の水ではなく、周辺の沢の中の不飽和帯や、沢のごく近いところの一時的な地下水が流れてくるので、p68のJR東海の解析のように地表面と地下水位に差があるのが本当だとすれば、上流の沢は涸れない。大東委員がおっしゃったようにゆくゆくは生態系の話の時に非常に大きな問題になる。しっかり考えていただきたい。リスクにならないということをJR東海は言いたいのかとこの図面から見ることができる。
 もう一つ、p68の断面図の薄い青と濃い青、元々の状態とトンネルを掘った状態とでJ R東海の解析ではトンネル付近はかなり地下水位が下がっている。そうすると影響が及ぶ南限は同じでも、地下水のボリュームとしてはJR東海の計算の方が圧倒的に多く出るはず。工事の期間が同じであるなら、トンネル内に湧き出す湧水量はJR東海の計算したものが静岡市の計算の2倍にもなっていないのでトンネル湧水が長引く可能性がある。範囲だけでなく、トンネル湧水が継続する時間も算定して、例えばグラウトによって止められるか等の対策を打つことで、ここまで地下水位を下げなくてよいとか分かったら、非定常の解析のなかで示していただけるとありがたい。


JRの解析で沢付近の議論をするのは不適切

 (委員・徳永朋祥東大教授)
今、丸井委員がおっしゃったことを確認したいのだが、JR東海がおやりになられているのはいわゆる疑似三次元、つまり二次元モデルなので、z方向へのフローやそれに伴う下向き勾配へのヘッドなどが書けない計算になっている。なので、この地下水透過のものは見かけのものなので、上側の表流水とのやり取りについて、特に沢のところの議論をすることは不適切であるということか。そういう理解でよろしいか。これに基づいて飽和の議論とかをするのはやや不適切ではないかと。


予測幅をもっと小さく

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 鉛直方向には25mグリッド(流量予測の幅)で切って計算しているので、その影響も出ていると考えている。本当はもっと小さく切らなければいけない。


時間遅れの議論も不適切

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 あと、そういうことがあるので、トンネル湧水に対する時間遅れに関してもJR東海がやっていらっしゃる計算だとそこの部分が取り扱いにくいので、そこの時間の議論をJR東海のモデルでやること自体はどうなのか。


影響の継続時間も考慮を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 徳永委員がおっしゃるように、適切な時間遅れの評価ができるような計算も一方ではしていた方が良いのではないかと思う。工事(ある工程)が終わったら、それに伴う現象もピタッと終わるのではなく、影響は後まで続きますよという所で心配される方もいるかと思う。影響の継続時間のこともお考え下さいと言う風にお願いしたつもりである。


透水係数の違いが結果の差に

 (委員・大東憲二大同大教授)
 JR東海の解析と静岡市の解析で初期の地下水が大きく違うという話があったが、p64 に比較がある通り、静岡市のモデルの岩盤に与えられた透水係数がJR東海と比べて非常に小さい。その分水位が高く上がっている。逆に断層の透水係数は静岡市の方が大きいので、その影響が如実に出ている。目的別で使い分けられていることが理由としてあると思う。それから表層の土壌と地下水とのやり取りというところが静岡市のフロー図ではある程度評価されているが、JR東海のモデルの中では表層土というより涵養量というだけで入力されているので、その部分が違うと考えている。


地下水位の低下が椹島付近で収まるのか

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 2つのモデルについて初期条件や解析方法が違うから色々な点が違ってくるという話だが、地下水位低下量の予測結果、p66について、JR東海の解析は南限がかなり狭いが、静岡市 はかなり南まで解析してあり、トンネル掘削後の地下水位の低下の範囲は南北方向ではいずれも椹島付近で収まっていますとあるが、どの程度のことを考えているのか。モデルによって相当大きな違いがある。地下水位の変化もかなりあるということで、これはシミュレーシ ョンなので、解析精度の問題、どちらのモデルにしても不確かさがかなりあるはず。そうした 中で収まっていると言い切ることが可能なのか。


100%は言い切れない

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 今、大東委員と森下委員からお話があったように、解析の不確かさは静岡市もJR東海もあると思う。ただ、まとめで言ったのは、解析の結果を見ると椹島付近に収まっていると。実現象が100% そうかと言われると、そうとは言い切れないが、静岡市のモデルについてはかなり南の方まで範囲を広げて解析をやられている。それを見てみると地下水位が低下しているのはこの範囲で収まっているという結果を書かせていただいた。


不確かさがあるモデルで「収まっている」

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 不確かさがあるモデルの結果を見る限りでは収まっているという意味か。


解析の結果「収まっている」

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 解析の結果収まっているということでご理解いただきたい。


ゼロではないのか

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 実際にどうかはまだ分からないが、これをゼロであると主張されているわけではないですね、という確認である。


0や100と言うつもりはない

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 この部分だけで言うと解析の結果のため、0や100といったことを言い切るのは難しい。今回の大きなテーマが、トンネルを掘ることによって下流域の地下水に影響が出るのか出ないのか、そういった議論なので、この後もご説明するが、解析の結果や成分分析の結果などを総合的に判断してわれわれなりの考察を後程お話したいと思うが、解析結果だけで0や100と言うつもりはない。


この後の議論を待つ

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 分かった。この後の議論を待ちたいと思う。


湧水量の考え方がポイント

 (委員・沖大幹東大教授)
 この静岡市モデルと呼ばれている結果と、JR東海モデルと呼ばれている結果で、地下水位が全然違う。p68の図を見ても全然違うということが普通の印象だと思う。それは、委員がおっしゃったように、フレッシュな岩盤の透水係数が、1オーダー、すなわち10倍違うと安定するのはこのくらい違ってくるということではないかと理解する。理解した上で、範囲がどのくらいのところまでいくのかというところだけに着目すると、地下水位は全然違うけれども、トンネルを掘った時と掘らなかった時の差という意味で見てみると、JR東海の方も静岡市の方もp68の図では、南に近づくに連れて差が非常に小さくなるという傾向が見られるというところは似ており、例えば、透水係数がいろいろ不明であるので、パラメータを振った時の傾向として、南に行くに連れてトンネルを掘った時と掘らなかった時の差がこれだけ小さくなるという点については、情報を汲み取っても良いのではないかと私は思う。
 もう1つだが、これだけ地下水位が違うのに、p70でトンネル湧水量が非常に近い。倍違うのを近いと言って良いのか、というところは分野にもよると思うが、これは非常に近いと私は思う。そういう意味では、先進的なモデルを使っていると思われる静岡市モデルの方が現実に近くて、JR東海モデルの方については、資料2にあったように、設計上、あり得る範囲で大きめの値を出そうとして計算した結果であると認識する。本坑及び先進坑合わせて毎秒1.105~2.20トンという値を推計する2つのモデルがあると、その間に現実がありそうかなというように感じるのだが、それは錯覚である可能性もあり、それが委員の心配されているところではないかと思う。そういう意味で、静岡市とJR東海のモデルにおける毎秒1. 607~2.37トンくらいに収まるのか、あるいは導水路トンネルまで足すと毎秒2~3トンくらいに収まるかどうかというところが、最後はなかなか分からないかなという気はするので、そこに対して私たちはどう考えれば良いのかというところが一番のポイントではないかという気がする。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ありがとうございます。今の議論は次の議事の「科学的データに基づく中下流域の水資源利用への影響検討」にも関係あるので、それと合わせて議論させていただきたいと思う。それでは、JR東海に資料の説明をお願いする。


中下流地下水の主な涵養源は上流地下水ではない

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料5の説明
 資料5大井川地下水等の成分分析について説明する。p1は、成分分析の目的についてである。大井川中下流域の地下水は、流域市町の方々に広く利用されている。前回説明したように、大井川扇状地の地下水位と降水量や河川流量との関係を実測データに基づいて調査した結果、扇状地内の上流域では降水量や河川流量による影響が見受けられるが、扇頂部に至るまでの河川流量は上流域のダムにより管理されており、扇状地全体としては、安定した状態が続いていることを確認した。第5回会議での座長コメントを踏まえ、トンネル掘削による中下流域の地下水への影響について、さらに確認するために、大井川上流域から中下流域にかけて、複数の地点で地下水や河川水を採水し、化学的な成分分析を実施した。p10以降に調査概要、結果及び考察について説明する。
 p2をご覧いただきたい。成分分析は、表2.1にある3つの項目について実施した。a)溶存イオン分析については、地下水は流動する箇所の地質状況などに影響を受け、様々な化学物質が溶け込んでおり、水循環の過程において、組成を変化させていく。溶存している主要イオンの濃度により浅層地下水や深層地下水等の水の起源を推定する。b)酸素・水素安定同位体比については、雨水の酸素・水素安定同位体比は標高が高いほど低くなること、地中ではあまり変化しないことを利用して、その水の平均的な涵養標高(雨水が地下に涵養した標高)を推定する。c)不活性ガス等については、大気中、または降水中の濃度が年代とともに変化している一方で、地中では安定的であることを利用して、その水の滞留時間を推定する。
 p3は、調査地点について表2.2に記載している。地下水については、上流域は2箇所でありトンネル近傍の浅い井戸と深い井戸である。中下流域は14箇所であり、いずれも静岡県の観測井である。河川水については、上流域から下流域にかけて4箇所である。表 2.3の現地調査期間については、本年7月末から8月のはじめまでである。
 p4は、調査地点を図面上にプロットしたものである。
 p5は、3.成分分析の結果概要と考察についてである。結果と考察については、p6の図3.1にまとめている。図3.1は採水地点ごとに3つの分析項目の結果をまとめて示したものである。上流域の結果を、図3.1右上の四角で囲んだ枠内に示す。採水地点は、浅井戸である井戸16、深井戸である井戸17および河川水4である。六角形で示しているのが溶存イオン分析の結果であり、右下の凡例のとおり、シュティフダイヤグラムで示している。ダイヤグラムの中の数字は電気伝導度であり、溶存成分の濃度が高いほど、電気伝導度が高くなる。井戸17のシュティフダイヤグラムが中下流域の地下水や河川水と比較して明らかに異なることがわかる。また、図3.1の四角の中で3段に示している数値については、上段が酸素・水素安定同位体比で分析した平均涵養標高、中段が不活性ガスによって分析した滞留時間、下段が採水深度について採水地点の地表面との位置を示している。中下流域の結果については、図面の左側が上流側であり、図面の河川02採水地点が島田市の神座である。ここから大井川を下り、河川01の採水地点が吉田町の富士見橋である。河川水は青字、地下水は赤字で結果を示している。地下水はいずれも静岡県の観測井である。
 結果と考察のまとめを図3.1上部に示す。なお、各分析項目の詳細の結果については、次頁以降の巻末資料に記載する。分析結果のまとめとして、溶存イオンの分析の結果から、上流域の地下深くで計測した井戸17の地下水は、滞留時間の比較的長い地下水に見られるような水質組成を示し、溶存イオンの総濃度も相当高くなっており、中下流域における地下水、河川水と比較して顕著に異なる水質特性を示した。酸素・水素安定同位体比の結果から、中下流域における各地下水の平均的な涵養標高は、約200m~約900mと推定され、上流域の地下深くで計測した井戸17の地下水の平均的な涵養標高(約1,700m)と比較して、全体的に相当低いものと推定される。不活性ガスの結果から、上流域の地下深くで計測した井戸17の地下水の滞留時間は約60年以上と推定され、中下流域の地下水と比較して長い傾向が認められた。これらの結果を総合的にまとめると、中下流域の地下水の主要な涵養源は上流域の地下水ではないと考えられる。資料5は以上である。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ここまでの説明に関して委員の皆様から自由にご質問、ご意見をいただきたい。


降雨量が少ない時期にも調査分析を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 結論部分について異論がある。中下流域の地下水の主要な涵養源は、上流域の地下水ではないと表現しているが、井戸17に見られる上流域の深部地下水が大量に入っていないことはわかるが、井戸16の呈する水質は上流域の深部の地下水ではなく、中下流域にもたらされる可能性も否定できないと書くべきではないか。すなわち、平易に言うのであれば、中下流域の地下水は、大井川の河川水とその場に降った降水が主な涵養源(主成分)であると記載することが適切だと考える。もう一つコメントとしては、7~8月の夏の時期の観測のため、できれば1~2月の雨が降らないような水質が変わる時期に、全部でなくてもいいので同じような調査・分析をするとより安心が増すと考える。


井戸5,6,7は別途説明を

 (委員・大東憲二大同大教授)
 p6の図3.1について、大井川の水と周辺に降った地下水が混合したようなものが出ているということでよいと思うが、特徴的な井戸の5,6,7について今回調べて初めてわかったと思うが、大井川の他の結果と違うパターンを示しているので、別途コメントが必要だと考えるがいかがか。


井戸6は大井川と違う水

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 巻末の資料の巻末17の3ポツにあるように、一部の観測井ではこれとは別の水質組成も確認された。具体的には、大井川右岸側の河口付近に位置する井戸5(川尻A)、井戸6(住吉)では、滞留時間の長い深層地下水において多くみられる水質特性を示したと記載している。井戸5については、大井川に近いが滞留時間が長い傾向を示している。井戸6については、深度がGL-51mと特に深い井戸ではないが、位置は大井川から約3kmの距離にあり、大井川の地形的流域界の外側に位置している。そのため、井戸6については、大井川と違う水が流れ込んでいるのではないかと判断している。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 先ほど、丸井委員から上流域の井戸16,17の成分分析結果に対する中下流域の地下水への寄与についての表現と、大井川の河川水と降水が中下流域の地下水涵養の主たる要因であるとの表現が良いのではとの意見について、徳永委員の意見はいかがか。


表流水が主要な涵養源

 (委員・徳永朋祥東京大教授)
 丸井委員の意見が適切であり、データはそれを強く支持していると考えている。3つのデータについて、主成分分析の結果、一部河口側は少し考えなければならない部分があるが、涵養標高と書きかえた安定同位体比のデータも、ここの河川が約1,000mと比べて地下水で計測しているものが全てそれよりも標高が低いということは、同位体比が重たいということである。また、年代指標の六フッ化硫黄の濃度が高くなっていることが、大井川の表流水と河川水が主要な涵養源になっていることを強く示唆しているし、それ自体が、上流域に浸透した地下水が地下を直接流れていき、この領域の地下水の供給源になっていることは考えにくいと思える。


上流の地下水がどれくらい入っているか

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 酸素・水素同位体比について、p5のまとめを見ると、平均的な涵養標高が200m~900mとの記載が誤解を生むと考えている。巻末p19の図は上が水素同位体、下が酸素同位体であり、その中に引かれた直線は天水線と呼ばれるものであるが、それぞれの値から標高がでてくる。1箇所で降った雨が、そのまま観測されるということであれば話は簡単であるが、水が混ざっていると、線の上の2箇所どころか、何箇所からの加重平均で得られた値から標高がでてくる。そのため、これを平均的と言うと、データのばらつきがありその平均と読めるが、そうではなく、その場所で分析した水について、色々な標高の平均値が与えられていると解釈すべきである。そのため、200m~900mと言っても、2,000mからきているものもごくわずかでも入っているし、どの涵養標高も採取した標高よりも高いということは、河川水や上流の地下水が入っていると言える。
 元々、上流の地下水が大量に入っていることはこの会議でも想定されていないし、p5の結論として、主要な涵養源は地下水ではないとの結論は当然だと考える。問題は、ここで調べなければならないのは、主要かどうかではなく、それがどれくらい入っているかということである。p5の四角で囲われている結論に至る前の3つの溶存イオン、酸素・水素安定同位体比、不活性ガスの分析があり、いきなり総合的にまとめるのではなく、三段論法として、1のデータからはこれが言える、2のデータからはこれが言える等、論理の道筋として書いてもらわないと、説得力がないと思うがいかがか。


地下水量は今後の検討課題

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 ここで記載しているのは主要な涵養源についてであり、成分分析の結果を見ても、上流域の地下水の顕著な傾向が中下流域ではみられないとすると、主要ではないということである。委員の発言にあった、どれくらい入っているのか検討するべきとの点については、今後の検討課題であると考えている。


上流の地下水が河川水として流れ中下流で涵養している

 (委員・沖大幹東京大教授)
 以前、丸井委員がおっしゃった「上流と中下流は、水循環的に一体としてつながっている」という表現は非常に正しいと思う。森下委員がおっしゃる通り、(中下流域の地下水の主要な涵養源は)「上流域の地下水ではない」というのは非常に不適切な表現で、上流の地下水はほぼ全部一旦河川水になって下流の河川水や周囲の地下水に混じっているからこそ、標高1,000m相当ぐらいの同位体比になっている。つまり、p6の図3.1で示されているような観測の結果は、上流域の地下水も河川水を経て下流の地下水に来ているからこそ、このぐらいの値になっているんだ、という説明が必要で、それをすっ飛ばすと、みんながよく分からないので「あれ?」ということになっているのではないかと思う。「中下流の地下水の主要な涵養源は、上流域の地下水ではなく」というのはやはりおかしい。細かく言うと、上流域の地下水が流出して、河川水を通じて、中下流で再び地下水を涵養しており、それに加えて中下流域での降雨も涵養源となっている、というところが伝わらないと誤解を生むのではないか。上流の地下水がないと、雨が降らない時に川は流れない。あり得ない。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 今、沖委員が言われたのは、丸井委員が最初に言われたことに加え、森下委員のご質問されたことに対し、説明力を加えるものになっていると思うが、丸井委員、いかがか。


涵養水の起源明記を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 まさに今、森下委員の意見を受けて沖委員がおっしゃったことは、私が考えていることと全く一緒である。今の沖委員の説明はもっともであり、この表現については先程も申し上げたように、少しでも見直していただけるのであれば非常にありがたい。なんといっても、この中下流域に住んでいらっしゃる皆様方が、ちゃんとどこを守るべきかという場所がしっかりわかるような表現で、同位体がどうだったとか水質がどうだったというよりも、(涵養水の)起源はどこにあるんだというところがしっかり書けていれば、レポートとしてはいいと思うので、誤解のないようにお伝えいただきたい。


上流の地下水は相当量表流水として戻る

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 私もある意味少し言葉を飛ばして言ってしまったので混乱を招いたかもしれないが、中下流に来ている河川の水がどこから来ているかということを考えると、沖委員がおっしゃっているように、水循環的には上流域で一回地下に入ったものは、場合によってはゆっくりと地下を通って下流に行くし、相当量は地表水としてまた戻ってきているということがある中で、そういう水循環の経過として流れてきたものが、中下流に来てそれが涵養源となっていると考えることが適切だと思う。繰り返しになるが、河川水(の同位体比による推定標高)が約1,000mになっているというのは、そういう水が混合した結果として、同位体の値を直接読むと1,000mというところに書き換えられるということが言われているということだと思うので、私がそれを比較して下流側の地下水の値がそれよりも小さくなっているということは、それよりも重たい同位体比を持つ水が混合しているというふうに考えると、より下流の降水が涵養源になっているという読み方をするのが妥当であるということで申し上げた。沖委員と同じように考えており、そういう意味で言うと、丸井委員がおっしゃった、水循環でつながっているということをうまく説明をするような説明の仕方をしていただくと、このあたりのデータもよく理解をしていただけるということになるのではないかなという期待もある。


水循環の概念図で説明を

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ありがとうございます。実は、事務局と打ち合わせをした時に、さきほど森下委員が言われた、個別の分析結果で検討するというところからスタートしていた。そうすると、個別に分析することによって、言えることと言いづらいことがあること、全体を見てこの3つの要素を総合化したときに、上流域の地下水が、どういう挙動をしているのかがより分かりやすいということで、整理させている。そういう意味で、先程、丸井委員もおっしゃったように、専門家がこうだと言うだけでなく、静岡県民が分かりやすいように説明する必要がある。そのためには、水循環の概念モデルを考えないといけないとこれまで度々議論されてきた。上流で降った雨が地下に入ってそれがどんな形で中下流域の水資源を涵養しているかを今日提示された成分分析の結果等を用いて、水循環の概念モデルで分かりやすく表現することも必要であると思う。先程、水収支に関するJR東海モデルと静岡市モデルの解析境界での地下水位についてトンネルを掘った時と掘らなかった時の議論があったが、トンネルがない時とある時で解析境界での地下水位がほぼ同じになることが示され、また成分分析の結果から、中下流域の水資源利用に与える影響を評価するうえで、これらは重要な知見を提供しているように思う。したがって、次の資料「地下水への影響に関する実測データや各種分析からの総合的な考察」に進み、そこでさらに議論を深めたいと思うが、いかがか。


量的解析を加えた検証を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 私も今、福岡委員がまとめられたことというのはもっともだと考えますし、今回の同位体から見た涵養標高だとか、年代測定、滞留時間とか、水質がどう進化していくかという個々のパラメータについて、ある程度の量的な評価をすることによって、静岡市が行った解析、あるいはJR東海が行った解析というのも現段階で検証できるので、トンネルができてない自然状態の検証にもう少し量的な解析を加えてトライしてみるのがいいかなと思う。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 それでは、次の議事「大井川中下流域の地下水への影響に関する実測データや各種分析からの総合的な考察」に進みます。


トンネル湧水を表流水として流す

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料6について説明
 資料6「大井川中下流域の地下水への影響に関する実測データや、各種分析からの総合的な考察(素案)」について説明する。前回会議までの議論と、本日ご説明した内容を踏まえ、トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響について、考察する。
 ① 大井川下流域の地下水位と降水量や河川流量との関係からの考察 扇状地内の上流の地下水位については、降水量や河川流量の影響が見受けられるが、扇状地内全体としては、長期間にわたり安定した状態が続いている。よって、中下流域の河川流量が確保されていれば、扇状地内の地下水位は今後も安定した状況が続くものと考えられる。
 ② 水収支解析の結果からの考察 主に、トンネル施設の規模等を決める目的で作成した、JR東海の水収支解析モデルにおいて、解析の過程で算出される地下水位の変化を検証した結果、トンネル掘削による地下水への影響範囲は、トンネル掘削が行われる椹島付近で収まっている。また、JR東海の実施した水収支解析モデルとは、目的・手法・各種条件設定の異なる静岡市の実施した水収支解析モデルにおいても、南北方向の地下水位の低下範囲は、JR東海の解析結果同様、椹島付近で収まる結果となっている。
 ③ 大井川地下水等の成分分析からの考察 トンネル掘削による中下流域の地下水への影響について、更に確認するために実施した化学的な成分分析の結果より、中下流域の地下水の主要な涵養源は、上流域の地下水ではないと考えられる。
 以上①、②、③より、中下流域の地下水の主要な涵養源は、大井川表流水及び近傍の降雨と考えられ、トンネル湧水を大井川表流水として流し、中下流域の河川流量を減少させなければ、トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響は、極めて小さいのではないかと考えられる。


③は表流水と河川水が中下流域の地下水として涵養

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 議論の前に「③大井川地下水等の成分分析からの考察」で、2行目の「主要な涵養源は上流域の地下水ではないと考えられる」というのは、先ほど議論であったように、上流域の地下水が川に出て、混合し、最終的に表流水と河川水が中下流域の地下水として涵養されているとすることが、③に対する議論であった。これを含めて資料6につきまして議論をお願いする。


②については考察がない

 (委員・大東憲二大同大教授)
「②水収支解析の結果からの考察」というタイトルがついているが、この二つのポツは、それぞれの数値解析結果が示されているだけである。本当はこの2つの解析結果を基に、こうだからこういうことが言える、こういうことが考えられると、それがあって初めて考察となると考える。①、③は、こういうふうに考えられます、という文体になっているが、②については、この2つの結果から何が言えるかということが記述されていない。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ただ今の大東委員のご意見に対していかがか。


最後のまとめに結論

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 ここの最後のまとめで、①、②、③により、というところで、トンネル掘削による大井川中下流域への影響を考えた場合に、水収支解析の結果からも、トンネルによる地下水位の低下範囲は、上流域で収まっているということから、という意味で書いている。


②の考察が必要

 (委員・大東憲二大同大教授)
 結論はそれでいいが、それぞれの①、②、③で考察をした、ということなので、やはり②についても何か考察の結果のコメントがほしい。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 2つに分かれているのは、それぞれの解析結果を示していて、それから何が出てきたのかについて考察すべきということなので検討してほしい。


「直接涵養でない」との表現を入れる

 (委員・沖大幹東大教授)
 ③について「成分分析の結果より、中下流域の地下水は、上流域である椹島以北の地下水によって直接涵養されているのではないと考えられます」という表現がよろしいのではないか。直接ではない」というのは、上流の地下水のいろんな成分と、下流の地下水の成分がかなり違うということから、そうであろうと。むしろ、近くの河川水の方が多いということを、もし付け加えたいのであれば入れてもよいが、端的に言うのであれば「直接涵養されているのではない」。しかし、先ほど来、話がある通り、水循環的にはつながっているので、まさにそこから涵養された水が下流の河川の流量となって中下流の地下水を潤しているんだ、ということは書くなら書いてもよいと思う。


「直接供給されているものではない」が適切

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 沖委員に賛成するが、言葉の使い方であるが、「地下水が地下水を涵養する」というのは少し違和感があるので、「上流の地下水が直接供給されているものではないと考えます」というのが、良いかなと思う。


「表流水となって中下流域の地下水を涵養」との記述も必要

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ①には、大井川の表流水、河川流量が重要と書かれてあるので、さきほど、沖委員の言われた、まずは上流域の地下水が中下流域の地下水を直接涵養しているわけではないということを書いて、そのあとに、上流域の地下水が表流水となって中下流域の地下水を涵養しているという記述があった方が、読む人にはわかりやすいのではないかと思う。


「収まる」ではなく「差が小さい」とすべき

 (委員・沖大幹東大教授)
 徳永委員の発言を踏まえると、「上流の地下水が直接供給されているのではなく、いったん河川水に流出し、それが中下流域の河川水となり、中下流域の地下水を涵養している」という感じかなと思う。もう一点、②のところで、先ほど委員も少しおっしゃっていたが、2つとも「収まっています」と書いてある。「収まっています」というのが、恐らく「何なんだこれ」という違和感の一つのもとで、つまり差が小さくなっていますということを言いたいのだと思うが、地下水への影響範囲が「収まっている」というのが分かりにくい。地下水の変化は椹島付近で差は非常に小さくなる。まして、中下流域では地下水の変化というのは観測不能なぐらいである、ということを②のところは言っているのではないか。範囲が収まっているという言い方ではなくて、トンネル掘る前と掘った後で、差が小さいというのが一番言わなければならないことではないか。


「収まる」「影響がない」は本質的におかしい

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 今、沖委員が指摘された点が、まさに私が先ほど「確認したことと関係がある。また先ほど委員が②は考察ではないと言われた点について、②に書いてあることは、解析結果であり、そこから何か考察しなければならない、と私も思う。もう一点は、今沖委員が指摘された、「収まる」という言葉が非常に誤解を生んでいるのではないかとの点について、この言葉では「ゼロになる」というような捉え方もできる。それで私は先程、「ゼロになる」ということを主張されているのか、ということをJR東海に確認したところである。先程来、沖委員が説明されている水循環のお話を聞いて、本当になるほどその通りだなと思うが、収まるとか収まらないではなくて、非常に量は少ないかもしれないが、あるわけであって、よって、その点を問題にするような書き方でないとおかしいのではないか。今日ここにJR東海の宇野副社長が来られているが、以前、静岡県の専門部会でこの話になった時に「中下流域までは100km離れているから、影響はありません」ということを言われた。その「影響はありません」という言い方が、この「収まる」という言い方と同じく、非常に誤解を生むと思う。この会議の先生方は、「影響は軽微である」とか「ほとんどない」という言い方をしており、その言い方の方が定量性がある。では「ほとんどない」というのはどのくらいなのか、となれば、その先の話に進むことができる。なので「収まる」とか「影響がない」と言ってしまうと、もうそこで思考停止になってしまうので、表現もさることながら、本質的におかしいかなと私は思う。そこはぜひ変えていただきたい。


その点は整理する

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 「収まる」とか「ゼロになる」というのは問題だというのは指摘の通りだと思うので整理することにしたい。


水循環は成分データから読み取れるのか

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
 教えていただきたいが、先程から議論になっている③のところで、中下流域の地下水は上流域の地下水が直接供給されているわけでないと。これは要するに、上流側の地下水の成分と中下流域の地下水の成分が違うということだが、一旦、河川水として出てきてそれがまた涵養されて地下水にいくという事が水循環であるが、それは先程の3つの成分分析のデータから読み取れるのか。今のようにいったん河川水から出てまた地下に入るといった事がデータから読み取れるのか。


上流からの涵養は明らか

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 今のご質問について、JR東海が分析した項目が3つあるが、滞留時間の測定と水質と涵養標高とある。涵養標高だけで考えても、先程、平均涵養標高についての議論があったが、この低地部だけに降った雨が涵養していたら涵養標高がこんなに高くならないわけであり、上流域から来る水が涵養しているという事が明らかである。また、ここではシュティフダイヤグラムが書かれているが、水質からみると、カルシウム分と炭酸成分が増しており、これは一般的に流動的な初期の土壌水が持っている水質である。また、δダイヤグラムで酸素と水素の同位体比が評価されているが、これらを併せて水質の進化を考えると、まずは、降水や河川水が地下に入り水質変化を起こしたと言える。滞留時間では、さきほど、大東委員が西側の海岸部分の水質が少し違うというところをコメントとして入れておいた方がいいとご意見があったが、他の所に関しては、大体、川の水が涵養してそこから流動して水質を変化させるということがあり、地下水の流動とか滞留とか大雑把なコンセプチュアルなモデルを作ることは十分可能である。そこから成分ごとに、量的な評価をして、静岡市やJR東海が行っているような解析を中流域・下流域で行えば、もっと詳しい地下水の流れが把握できると考える。技術的にも水文学的にも問題ない。


地下水学の観点からは難しい

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 この議論はもう少し難しいのではないかと考えている。先ほどの江口技術審議官のご質問は「地下水等の成分分析だけで分かりますか」ということだが、安定同位体は、高い所の降った水ということは言うが、それが1回地下に入ったかどうかとは言わない。主成分もそこは言わず、年代も若いとしか言っていないため、私は、成分分析等というものだけから、上流に降った地下水が1回川に出て、また涵養していると言う事は難しいと思っている。実は先ほどおっしゃっていた、水循環の概念的な理解に基づいて考えると、1回上流側で入った地下水が河川に出て行き、それが流れてきていると考えるのが最も地下水学をやっている人間の観点からすると、合理性が高いというところが論拠ではないかと思うが、丸井委員はいかがか。


上流の降水が地下に入ったかは議論の対象ではない

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 今私が答えた質問は、上流域に降って涵養した水が下流域に到達するという、水循環が保たれているかどうかだと思って回答した。上流域にもたらされた降水が地下に入ったかどうかは議論の対象でないと思って回答したものである。質問はそうではないか。


成分分析から河川水が涵養したとまでは言えない

 (委員・沖大幹東大教授)
 私が勝手に申し上げると、たぶん、江口技術審議官が困っているのは、③のところにどこまで書いていいのか。つまり、あくまでも成分分析で分かった事だけを③に記載するとした時に「一旦流出して河川を通じてというところまで書いていいですか?」というご質問であったと思われる。なので、トータルのプロセスについて異議を挟んでおられる訳でない。つまり「上流の地下水がそのまま来ていますということはなさそうですよ」というところが成分で分かるが、だけれども、「上流の地下水が川に出てそこから涵養しています。」というところまでは成分分析からは言えないのではないか、ということを徳永委員は述べていた。



 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 議論がずれており失礼した。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ありがとうございました。そうなると、議論を元に戻すのがよいのか。


最後に「水循環概念モデルを介する」という整理が良い

 (委員・沖大幹東大教授)
 要するに「中下流域の地下水は、上流域の地下水が直接移動してきて、中下流域の地下水になっているわけではない」というところまでしか、成分分析では分からない。ただし、以上①、②、③に「全体の水循環を重ねて考える」という話が最後にくるという整理が良いと思う。


水循環の概念モデルを介する

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 最後の「以上、①、②、③により、」の部分に、丸井委員が言われた「水循環の概念モデルを介すると」ということが入ってくるという理解でよいか。


そういう整理で

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 沖委員、ありがとうございます。そういう整理をしていただくのが、①、②、③と全体を総合的に考えるということであり、進め方としては、福岡委員がおっしゃっていたような考え方で進んでいくのだと思うし、丸井委員の考えも同じだと思う。


水循環の概念図を次回に向けて作成

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 それではただ今の委員が言われた考え方で③は整理していただきたい。本日の会議では、中下流域の地下水への影響について議論し、静岡市の水収支解析及び化学的成分分析の結果から、大井川中下流域の地下水への影響に対する実測データや各種分析からの総合的な考察まで議論した。この有識者会議で得られた結果については、利水者等の地元の方々にご理解いただくことが重要になる。そのため,JR東海はこれらの化学的・工学的データに基づく検討の結果を利水者等に分かりやすく説明するための、先ほどから議論が出ている「水循環の概念図」を作成いただき、次回の会議で議論したいと思うが、みなさんいかがか。次回の会議に、もう少し市民向けに、市民が分かっていただけるような、専門的な分析効果をうたったものを含め、解析結果も使いながら、水循環のモデルを次回に向けて作っていただくということでお願いしたいが、よろしいか。では、そういうことにさせていただきます。また、JR東海から説明があったが、本日の化学的データに基づく成分分析の結果については、継続的なモニタリング調査をお願いしなければならないと思っているので、この点については、委員の皆様として如何か。継続的に分析を続けていただきたいと思うので、よろしくお願いする。その他、追加でご意見等はあるか。


JRと静岡市のモデルの違い、検討は

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
 先ほど、静岡市とJR東海のモデルの違いで「どうしてそんなに違うのか」であるとか、委員からもその点をどう捉えるかがポイントだという話があったと思うが、この差についてさらに検討する必要があるのかについてお聞かせ願いたい。


目的が違うため議論の必要なし

 (委員・大東憲二大同大教授)
 先ほど申し上げたが、この2つのモデルは、そもそも目的が違うため、どちらが正しくどちらが間違いかと示すことができないモデルである。そのため、JR東海はトンネルを工事するための湧水量を算定するために使われるようなモデルであり、静岡市は地表部にどれだけ影響が出るのかというのを重点的に捉えているモデルである。当然、地盤の透水係数も全然違うし、中間だとかそういったことでは全然ないと思う。要は、不確実性の高い現場で工事をする際に、何か仮定をしておかなければ影響は分からないため、それぞれ、JR東海も静岡市もやっているということである。そのため、実際に工事をやってみないと分からない。冒頭にも申し上げたが、現在は環境影響評価手続きの中の事後調査の途中である。事前調査した段階で最大限分かる事を評価し、工事をやりながらその影響予測が正しいのか、あるいは外れたのか、ということを検証しながら工事を進めていくプロセスに今あるという認識で進められるといいと思う。従って、この2つのモデルが違っているから、どうだこうだという議論にしない方がいいと思っている。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 今の大東委員からの指摘についていかがか。


地下の情報が分かった上でモデル化していない

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 私も同じ感覚を持っている。例えば、静岡市が実施されたモデルについても、断層をどうやって評価するかとか、亀裂系の岩盤をどう評価するかとか、たくさんのモデルができると思う。それに基づいて、計算した結果は少しずつ違うけれど、本日、2つのモデル見た時に一定程度言えることは、かなり違うモデルをやっているが、影響範囲の及ぶ先は、このあたりのところまでという計算結果となっているという意味での類似性があるというところを議論したと思う。大東委員がおっしゃるとおり、地下の情報が非常によく分かった上でモデル化したものでなく、いくつかの想定の下で計算をしたもので、どういう影響がでますか、というところをみながら実際は進めていって、影響を最小化するように現場の計測で対処していくであるとか、前から申し上げているが、計算結果から、どういうことが現象として出てくることが想定され、そこをきちっと見ておくことで、問題があるかないかということを確認していきましょうというような準備をするということに使えるツールにはなっていると思っている。今のモデルをいくつかの違うやり方をして、どっちがいいですかというような議論をしていかない方がいいのではないかと私も思う。


次回はトンネル湧水の全量の戻し方と山梨側の定量評価を議論

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 江口技術審議官、そういう方向でまとめる事にしたいが、よろしいでしょうか。ありがとうございます。次回の会議では、もう1つの論点である「トンネル湧水の全量の大井川表流水への戻し方」について議論したいと思うが、その際は、前回の座長コメントで示したようにJR東海には山梨県側に流出するトンネル湧水の定量的な評価について整理して説明していただきたい。また、これと併せて、戻されるトンネル湧水の水質・水温等に関するリスクとその対処などについても説明いただき、議論したいと思う。この件については、次回の会議ではかりたいと思うが、いかがか。よろしいでしょうか。異議なしということですので、次回はJR東海から2つのテーマについてよろしくお願いします。


内容踏まえた座長コメント作成

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
本日も長時間にわたり議論ありがとうございます。資料7について、一番下に第7回と書いてあるが、次回の開催については、今後の資料作成の状況や皆様のご都合を踏まえ、開催させていただきたいと思う。詳細については、事務局より追ってご案内する。次回の会議では、座長から話があったが、トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響に関し、本日の検討をわかりやすく説明するための水循環の概念図について、また、前回とりまとめた座長コメントにもあるが、「トンネル湧水の大井川への全量の戻し方」についても議論することになる。なお、この後、記者ブリーフィングもあるが、今回の会議においても、会議の内容を踏まえ、より正確性を期すために座長コメントを出したいと思う。その準備に当たり、座長はじめ、各委員の先生方にも前回同様にご協力いただきたいと思うので、この会議後に控室に移動してもらいたい。前回は座長コメントの作成に時間を要したが、今回は座長に随所、随所でとりまとめていただいているため、前回ほど時間はかからないと思うが、効率的に進めたいと思う。また、座長コメントについては、記者ブリーフィングで配布するとともに、ウェブで参加されたオブザーバー、報道関係者の方々にも作成次第メール等で送付させていただく。


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地域再生大賞