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リニア 国土交通省専門家会議 実名化議事録⑤

国土交通省専門家会議 第5回 議事詳報

2020年8月25日:国土交通省

 ※この議事詳報は国土交通省が公開した「議事録」に、静岡新聞社の傍聴等の取材を補足してまとめました。「議事録」や会議当日の配布資料は 同省ホームページ でご覧になれます。



 (森宣夫国土交通省鉄道局環境対策室長)
 開催に先立ち、前回7月の有識者会議後に、国土交通省鉄道局長に上原が着任しているので、鉄道局長の上原より、ご挨拶を申し上げる。


地元の理解得られていない

 (上原淳国土交通省鉄道局長)
 7月より水嶋の後任で着任をしている鉄道局長の上原と申し上げる。よろしくお願い申し上げる。リニア中央新幹線静岡工区については、ご存じの通り、リニアの早期実現と環境への影響の回避、軽減を両立させることを静岡県、JR東海、国土交通省の共通認識として、国土交通省が調整役として、これまで関与させていただいていたものである。私は水の問題は地域の住民にとって、極めて重要な問題であって、真剣に対応していく必要があると考えている。この会議では、これまで静岡県とJR東海との間で行われてきた議論をしっかり検証していく、特に大きな2つの論点である「トンネル掘削による大井川中下流域の地下水への影響」、そしてもう1つは「トンネル湧水全量の大井川表流水への戻し方」について、本日も議論をいただきたい。私の理解を申し上げると、JR東海はこれまでトンネル掘削箇所と大井川中下流域までは距離が離れていることや、地層の状況等によりトンネル掘削による中下流域への地下水には影響しないという説明を続けてこられたが、地元からは根拠について異議があるとして、結果として理解が得られていない状況にあると思っている。この有識者会議では、JR東海の水収支解析モデルを用いて、トンネル掘削による地下水位の低下の影響範囲を示すとともに、福岡座長のご指導により、大井川に関する実測データを用いて、中下流域の地下水への影響を総合的に評価してはどうかということで、科学的、工学的な見地からの議論が行われているものと認識している。
 本日の第5回の会議においても、これらに関する検討の結果がJR東海の方から示されるものと認識している。また、トンネル掘削、トンネル湧水の大井川への戻し方については、JR東海はトンネル湧水を導水路トンネル及びポンプアップによって全量を大井川に戻すこととしているが、畑薙山断層帯の存在により、工事の一定期間、山梨県側に流出することが大きな課題となっている。トンネル湧水の全量を大井川に戻すとの約束を果たすということで、工事の手法の改善を求められていると認識している。本有識者会議で一般的なトンネル掘削の方法が示されるとともに、先進坑を活用したポンプアップと工事中の山梨県側への流出を極力軽減する工事手法について、本日、JR東海の方から説明が行われるものと認識している。
これからもまだ、JR東海には有識者会議から様々な指示があると思うが、本日の委員の先生方には忌憚(きたん)のないご意見をいただき、精力的な議論をお願いしたい。よろしくお願い申し上げる。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 本日の第5回会議では、前回の議論を踏まえ、「大井川水資源利用への影響回避、低減に向けた取組み(素案)」のうち「大井川流域の現状」「水収支解析」「畑薙山断層帯におけるトンネルの掘り方」についてJR東海から説明いただき、議論したいと思う。それでは、議事(1)について、JR東海から資料の説明をお願いする。


下流地下水位は年平均で安定

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料2の説明
 最初に資料2「大井川水資源利用への影響回避、低減に向けた取組み(素案)」の表紙裏面の目次をご覧いただきたい。本日説明する内容について赤字で記している。議事に従い、説明の順番は1.大井川流域の現状の(3)「大井川の水利用の沿革と現況」に追加した地下水位の変動要因、次に目次右下に記載している当社が実施した水収支解析の中で追加した解析範囲の南側境界付近の低下量、続いて、目次の中段にある(3)「計画段階における水資源利用への影響評価」の順に説明していく。
 p26、27については、前回の会議で説明した内容である。p27のグラフ(大井川下流域の年平均地下水位)等から大井川の扇状地における地下水は安定しており、渇水期においても河川水の影響で地下水障害を起こした事例はないと説明したところ、丸井委員より「その理由として、この地域の地下水が降雨により涵養されているということが分かれば、トンネル工事による影響は考えられないので、地域の住民の方が安心するのではないか」とのご指摘をいただいた。
 p26に赤い丸で示した扇状地内の15か所の地下水位を地区別にみると、水位に変動が見られる井戸があるので、その変動要因を探るため、「降水量」「大井川の流量」「井戸の深さ」との関係を調査した。調査の項目や分析の方法については、大東、沖、丸井、徳永委員から指導いただきながら分析を進めた。
 今回追加した内容は、p34以降となる。p34については、後ほど説明するので、最初にp35をご覧いただきたい。p35については、これからの説明の中で、扇状地内の上流、中流、下流という区分けを行っているため、その区分線を表している。
 p36では、上段のグラフに静岡県の15か所の観測井について2002年から16年までの地下水位と降水量の経年変化をグラフ化した。青い棒グラフが「降水量」、折れ線グラフが15か所の観測井の地下水位の変化を表している。また、折れ線グラフの中で、点線で示しているのが下流の井戸の水位である。
 p37のグラフは、扇状地の中で上流、中流、下流ごとに地下水位の平均値との差分を見ている。扇状地の中でグラフの最も下にある下流の井戸は安定しており、上流の井戸の方が変動幅が大きいことが分かる。
 p38、39は1年間の中での月別変動について取水制限が発生した08年、13年とその間の2年について表したものである。例えば、08年をご覧いただくと、下流の井戸の水位は安定しているが、地下水位の標高が高い上から4つの折れ線の上流の井戸や、標高15m、10m前後の中流の井戸については、降水量が多い時に地下水位が高く、降水量が少ない時に地下水位が低いことが分かる。
 p40は、降水量と地下水位の相関を表したものである。上の2つが上流、中流の井戸で、これについては一定の相関がみられる。下流は安定していることが分かる。
 p41は、神座地点の河川流量との関係を表している。河川流量を棒グラフ、地下水位を折れ線グラフで示している。
 p42については、河川流量と地下水位の相関を表したものであり、上2つの上流、中流の 井戸においては一定の相関がみられ、下流は安定していることが分かる。
 p43は、井戸の深さとの関係を表している。上の図は、降水量と地下水位の相関係数の大きさが井戸の深さによって変わるかについて調べたものである。下の図は、神座の流量と地下水位の相関係数の大きさが井戸の深さによって変わるかについて調べたものである。両方の図とも、井戸の深度が浅くなるに連れて降水量や河川流量との相関が高い傾向がみられた。
 p34の最後の文章にある通り、これらのデータ等を踏まえると、大井川扇状地の地下水に関して、次のことが言えると考えている。
 「扇状地内の地下水位は年平均でみると安定している。月別の地下水位は、扇状地内の下流では安定しており、上流、中流では一定の変動がみられる。その要因としては、降水量や大井川の河川流量による影響を受けていることが考えられる。ただし、大井川の河川流量については、上流域のダムにより管理されており、一定の流量が確保されている。その結果、渇水期においても河川水の影響で地下水障害を起こした事例はない」ということである。


南側の地下水位低下は一定範囲で収束

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料3-2の説明
続いて説明するのは、当社が実施した水収支解析の中で追加した解析範囲の南側境界付近の低下量についてである。前回会議では、トンネル掘削に伴う地下水位低下量の予測結果を示したところ、森下委員から「上流域の問題が中下流域に影響しないのであれば、その根拠が重要である」とのご指摘をいただいた。また、徳永委員からは「トンネル掘削による地下水位の低下について、現在の解析範囲で南北方向の断面を計算し、その結果を見て、更に南側をどう考えるかの見解を得てはどうか」とのご意見をいただいた。さらに、大東委員からは「解析条件によって引っ張られている可能性があるかを検討するように」とのご意見をいただいた。
 これらの意見等を踏まえて検討した結果について、資料3-2「当社が実施した水収支解析」のp42をご覧いただきたい。トンネル掘削に伴う地下水位の低下が南北方向にどのように広がっているかについて示すために図の赤い線の断面における地下水位低下量を計算した。
 その結果がp43である。茶色線が地表面、薄青線がトンネルがない場合の地下水位の予測結果、濃青線がトンネルがある場合のトンネル掘削完了20年後の地下水位の分布である。前回会議で示した、トンネル掘削による地下水位低下量は薄青線が濃青線になるまでの低下量である。図の中で右下にある西俣斜坑、また計画路線と示した本坑や先進坑に近い所ほど地下水位低下量が大きく、トンネルから離れるに連れ、低下量は小さくなる状況がお分かりいただけるかと思う。 いずれは、薄青線と濃青線が重なる、つまり、そこから先は地下水位低下は起こらなくなると予想している。
 p44はトンネル掘削に伴う地下水位低下の状況について今回、低下量予測1メートルから5メートルの範囲を追加した。最も色が薄い範囲が低下量1メートルから5メートルである。また、黒い線で示しているのが解析境界である。また、今回新たに解析境界付近の地下水位低下の状況を詳しくみるために、赤い断面での地下水位低下量図を追加した。断面は①から④までは南北方向、⑤ が東西方向である。
 p45からは、各断面におけるトンネル掘削完了10年後と20年後の境界付近の低下量予測を示している。
 p46は①山梨県境付近(東側)断面のトンネル掘削完了20年後である。上の図は、解析境界から北側3000メートルの範囲を示しており、下の図は境界付近の拡大図である。解析境界に向かって低下量は収束しているが、境界部では約13メートルの低下量があると予測をしている。図において濃青線は薄青線に比べて13メートル下がっているということである。
 p48は②山梨県境付近(西側)の断面のトンネル掘削完了20年後である。上の図をご覧いただくと、解析境界より北側2000メートルの地点で低下量は収束している。
 p50について③椹島付近の断面である。上の図は解析境界から北側3000メートルの範囲を示しており、本線トンネルの影響はこの範囲では収束しているが、赤い枠の中において導水路トンネルによる地下水位低下が見られる。下の図の拡大図を見ると、解析境界より北側300メートルで地下水位低下が収束している。
 p52について④長野県境付近の断面である。上の図は解析境界から北側3000メートルの範囲を示しており、この範囲で地下水位低下は収束している。
 p54について東西方向の断面である。導水路トンネル部を除いて、本線トンネルによる地下水位低下が収束している。また導水路トンネルにより地下水位低下が見られるが⑤断面より南側にある解析境界では収束している。以上の予測結果を踏まえての考察をp26に記載した。
 p26の4つ目のポツの文章であるが、南北方向の地下水位予測値の低下量は、解析範囲の南側境界に向かって低下量は小さくなる傾向にあり、南側境界付近で特異な変化は見られなかった。また、東西方向についても同様に特異な変化はなかった。これらのことから、境界条件が境界部で地下水位予測値の計算結果に影響を与えていることはなく、低下域の範囲が解析範囲より大きく外側に広がっていることはないと考えている。
 p27の冒頭の文書について、①の断面については解析範囲の南側境界においても地下水位の予測値の低下が確認されるが、低下量は南側境界に近づくに連れて小さくなっている。この解析範囲内における低下傾向を考慮すると、解析範囲の南側境界の外方において、低下量は一定の範囲内で収束すると考えている。水収支解析における解析範囲の南側境界付近の低下量については以上である。


成分調査で分析を進める

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)※資料2の説明
 続いて資料2「大井川水資源利用への影響回避・低減に向けた取組み(素案)」についてである。p5(3)計画段階における水資源利用への影響評価、1)上流域の地下水位低下による影響評価についてである。トンネル掘削に伴う地下水の湧出により、河川流量が減少するとともに、地下水位が低下することが予想される。中下流域の地下水は、主に降水や河川水により涵養されていると考えられ、トンネル湧水を大井川に流すことで、河川流量の減少を防ぎ、中下流域の水資源利用への影響を回避することができると考えている。一方、トンネル掘削による地下水位低下により、上流域から中下流域にかけての地下水の連続的な流れが阻害され、中下流域の地下水涵養量が減少するのではないか、上流域の地下水位低下により中下流域の地下水位が低下し、地下水利用に支障を来すのではないかとの心配を承っている。上流域の地下水位低下によって、中下流域の地下水利用に支障をきたす可能性については、次の①~③により、極めて低いと考えている。
①については、前回会議までに委員が発言した内容を元にしたものである。上流域から中下流域にかけて地下水が連続的な流れを有し、中下流域の地下水を涵養する主要な流れになっていると考えるには1×10-7m/秒程度の透水係数を前提とすれば、動水勾配が不足しており、上流域の岩盤内の地下水の多くは、中下流域に達するまでに河川に流出していると考えられる。
②、③はこれまでに当社の見解として静岡県に提出している内容である。②については、大井川上流域から河口にいたる広域的な地質モデルにより専門家から鉛直方向の連続性が卓越していることから、上流域の帯水層が中下流域まで伸長していることは考えにくいという見解をいただいている、ということである。
p7の③について、これまでの文献調査により、中下流域の地下水は大井川の表流水が地下に浸透することにより涵養されている内容を確認しているということである。その下の(ア)~(ウ)に簡単に紹介しているが、(ア)は下流域の観測井の温度分布を見たところ比較的深部まで地下水温度の季節変動が見られたこと、(イ)は井戸から採取した地下水の溶存イオン分析を行ったところ、ほとんど同じ水質組成を示し、同一のものである大井川表流水から供給を受けていると考えられること、(ウ)は複数地点で一斉同時流速観測を行った結果、表流水の一部は地下水流となっていくことが推察される、といった内容である。
p8~p13については、その文献の一部を抜粋したものである。p13について、上から2つ目のポツの文章であるが、仮に上流域から中下流域にかけて地下水が連続的な流れを有し、それが中下流域の地下水を涵養する主要な流れになっているとすれば、中下流域の地下水は上流域の地下水と同じ溶存成分を示すとともに、涵養年代は現在の上流地下水よりも古いということになるので、その傾向が見られるかどうかについて、現在進めている成分調査等において分析を進める。調査の内容等については、p14以降に資料として付けているが、内容については次回以降の会議で説明させていただく予定である。また、中下流域の地下水について、先ほど、大井川流域の現況の説明の中でデータにより現況を示したところであるが、今後も大井川の上流域から中下流域にかけて複数の観測井でモニタリングを行い、トンネル掘削によりこれまでと異なる動きがないかということをしっかり観測していく。説明は以上である。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ここまでの説明に関して委員の皆様から自由にご質問、ご意見をいただきたい。


委員の指導で作り上げた資料

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
 JR東海の二村次長からの説明の中でもいろんな委員の先生方からアドバイスをいただいた、こういう指摘をいただいたという説明があったが、これらの資料のそれぞれ表紙のクレジットが「東海旅客鉄道株式会社」となっている。最初の段階ではJR東海が単独で作った資料となっているわけだが、その後、皆様方の様々なアドバイス、ご指導を受けてブラッシュアップしているということで、これは決してJR東海単独で作成したものではなく、委員の皆様方のアドバイスやご指導等を受けてここまで作り上げてきているものである、ということを追加で申し上げさせていただきたい。


上流から下流まで水循環としての連続性はある

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 ただいまJR東海から丁寧な説明をいただき、前回より進んだなという感想を素直に述べ たいと思う。私としては、上流域と中流域、下流域の地下水の連続性だとか、あるいは中流域、 下流域の地下水がどこから涵養されたかということに対して質問をしていたところであるが、それに対して一定の回答が得られたものだと思っている。端的に言えば、上流域と中流域、下 流域においては地下水の帯水層として水理学的な連続性はないものの、水循環としての連 続性はある、という考えを示していただいたものと思っている。よって今後は、例えば、一番 最初に上原局長から山梨県側に水が流れてしまう可能性がある、という工事の指摘もあった が、水量の季節的な変動や経年変化だとか地下水位のそれを示されていたが、例えば、その低 水期になるべく影響の出る工事をぶつけないようにして、水に影響を与えないような工事の工程というのも、今後は考えられる資料になっていると思うので、今後、より精度の高い説明 になっていけばありがたいと思います。繰り返しになるが、水循環としては連続性を持って いるのでモデルの検証を踏まえて今後の計画に生かしてもらえるとありがたいと思っている。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ただいまの件はお話を聞いていて、ぜひそうしてほしいと思うので、ご検討お願いしたい。


鉛直方向の連続性が卓越する根拠は

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 資料2のp5について、ここで「上流域の地下水位低下による影響評価」ということについて影響はないという立場での根拠であるが、この下の②の文章がもう一つ分からない。鉛直方向の連続性が卓越しているということだが、これはどういう根拠から言われているのか。


付加体だから鉛直方向の優位性が卓越

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 p6に示しているように大井川の地質モデルを作成した。作成に当たっては産業技術総合研究所が発行している5万分の1、20万分の1の地質図を用いて、広域的な地質の分布というのがこれで表現されていると考えている。この地域は付加体であるということから、その地層は鉛直方向の優位性が卓越しているので、水の流れは基本的には横方向に広域的な流れを有しているということではなくて、鉛直方向の中で水がいったん地表に出たり、そこから下に潜ったりというような地下水の流れをしているので、上流域から下流域まで地下水がずっと地下の中を通って連続的に流れているということは考えにくいということである。


決めつけで誤解を与える

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 そこのところであるが、この図3-2を見ると、それぞれの層群の境界線が書いてあって、基本的にはこのようにかなり垂直に近い方向になっているわけで、ただ、それは付加体なので層群中で整然と縦に地層があるわけではなくて、色々な地層がある。それを層群境界に平行な層に沿った方向に水が流れると決めつけておられる根拠は何か。これはちょっと誤解を与えるのではないかと思う。追加の根拠があればお示しいただきたい。


地下水は断層でいったん地表に

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 これは広域的に見た場合に地下水がどういう流れを示しているのかということを示しており、例えばp7のように、これは模式的に示したものであるが、途中で赤く示しているような断層がある。ここは断層があって、遮水性が高いというか水を通しにくい層というのがいくつかあるので、そういうところではやはり、水が地下の中をずっと通っていくというよりもいったん地表に湧水して、またそこから下流域に流れていくという流れを有している、というように考えたということである。


その方向に水が流れる根拠は

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 断層の部分についてはそうかもしれないが、その断層がどこまで連続しているか、あるいは地下で新しい同じ走向傾斜を持ったものが現れるかもしれないということもある。私がお尋ねしているのは、その地層の中でその方向に水が流れるという何か根拠はおありなのか、という質問なのだが。当然、付加体の中で褶曲(しゅうきょく)構造もあるし、いろいろな破砕帯もあるのだが、この方向である、という前提でお話をされているのだろうか。


広域的に見れば表せる

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 p7の図は、模式的に示したものであり、委員がおっしゃるように付加体があって、かなり乱された地層の中では、必ずしもこういったような整然とした地下水の流れがあるとは言えないと思うが、広域的に見た場合にはこういうことで表せるのではないかということである。


新たなデータを得て解析を

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 大きく見ると、こういう図が出てきてしまうが、水の流れはミクロな部分で見ないと、どう流れているかというのは分からない訳である。全体の構造がこうなっているから、その方向に流れるということにはならないと思う。だから、図3-4とか図3-2というのはかなり誤解を招く表現であると思う。ここに、「地下水を専門とする公的機関、専門家に依頼し」とあるが、このことに関しては地質学、特に付加体を専門とする専門家の方に意見を聞いていただきたいと強く思う。
 もう一点、「公開情報を使って」と書いてあるが、この南アルプスの付加体の地下の情報については実際にはほとんど分かっていない。ボーリングなどをしてやっと分かるという状況であるので公開情報は非常に少ない。なので、「公開情報を使って」というと客観性があるような感じであるが、実はそうではない。ここで新たなデータを自ら得ていく、それによってきちっとした解析を行うという姿勢を出していただきたいと思う。
 ここに書いてあることだとか、あるいはその次のページのp7に書いてある既存の文献を援用していることになっているけれども、不十分だと思う。ここで知りたいことは、上流部の地下水の挙動が中下流域に影響を及ぼすのか及ぼさないのかという、まさにそこのところピンポイントの命題なので、似たような既存の文献を出してそれが傍証になるということにはならないと思う。それから、先ほど同位体を使った調査については次回以降説明されるとおっしゃっていた。この後に方法論についても今日は説明しないのか。


同位体の説明は次回以降

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 同位体の説明についてだが、資料は付けさせていただいているが、次回以降にさせていただきたい。


データに基づく解釈の提示を

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 静岡県の専門部会にも一部の参考資料、文献は出てきていたが「中下流域への地下水への影響はほとんどない」というのは一つの作業仮説である。そのために、いろいろな文献を集めてきたとしても今の段階では作業仮説なので、解析によって明らかにしていく必要がある。そのうちの一つとして、同位体比分析であるとか、不活性ガスを使って行う化学的方法があるが、上流から中下流域までを解析範囲として科学的、定量的に評価するという一つのスキームを示していただく必要がある。いろいろな状況証拠をたくさん重ねるのではなくて、こういう調査によってこういうデータが出ることによって、それはこう解釈されて、上流域の地下水が中下流域に影響する可能性は何パーセント未満である、というようなことを示す必要がある。


モニタリングで確認できる

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 今日お示ししたのは、p5~7の①から③を総合的に考えると、上流域から中下流域までの地下水の流れは、中下流域の涵養の主要な流れにはなっていないということである。成分分析については我々でやっていくが、これまで文献調査で得られている中身を自らの手で確認するということであり、この結果が出ないからと言って、主要な流れになっていることが確認できないということまでは考えていない。ただ、全くないのかと言われたらそこまで証明することはできないので、p13に書いたようにモニタリングは行っていく。観測井を上流域、中流域、下流域に用意し、トンネル掘削によって、今、中下流域のデータが得られているその動きが変わることはないのかということについては、しっかりとモニタリングをすることによってトンネルの影響の有無を確認できると考えている。


流量予測と地下水位の議論を

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 水収支解析の境界条件の話もあったので、水収支解析(流量予測)の境界条件と地下水位の議論をさせていただきたい。


概括的な影響を見るには意味ある情報

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 境界の部分については、前回、私がこういうデータの見方をして見たらいかがか、ということを申し上げたことに関して、丁寧に見ていただいて、状況がどういうふうになっているかということについて示していただけたということで、そこはありがとうございました。私も先ほど、丸井委員が言ったことと同じ意見を持っており、モデルそのもの自体の精度の議論とは別に、トンネルの影響がどういうふうに広がっていくかということを概括的に見るという意味では、意味のある情報を提供いただけたと考える。すなわち、今回の境界のところまで影響が与えられないという解析になっているところがあり、一部、境界を設定しているところまで地下水位が低下するという予測になっている。ただ、それは境界に近付くに連れて、地下水位の低下量が小さくなっていることから、地下水のトンネルに向かって流れる、流れなどの影響を考えるという意味では、それは小さくなっているだろうという解釈をされているということについては、地下水学の一般的な考え方と整合していると考える。境界は影響面にしているということなので、境界の影響が全くないという主張がやや強いような発言になっていて、境界を切っているので影響はあるのだと思うが、境界のところの地下水位の変化があることを見つつ、それを合わせて解釈をするという立ち位置で評価されているということは、今の情報から議論ができる内容になっていると考える。そういう意味で言うと、概括的な地下水影響を見るという意味での影響範囲が、今回評価しているところから、はるかに南まで下がるというようなことを考えるということを積極的にする理由はないと考える。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 大東委員はいるか。大東委員はこの境界についてご意見はあるか。
 (※大東委員がオンラインでつながらず)
 つながらないようなので、他の委員どうぞ。


付加体で帯水層概念導入は不適切

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 p5の②の表現は私もやや適切でないと思う。そもそも付加体の四万十帯と言われるところの地下水の流れを議論するに当たって、一般的な帯水層の概念を導入して議論することが不適切だと思っている。亀裂性の岩盤の中を通ってきているということなので、透水性の高い帯水層が存在し、それがどういう方向を向いているからどういう風に水が流れていくという議論をしていることが、ある意味、理解を妨げることになっている。亀裂性の岩盤なので、上下流側の流れもある可能性は十分にある。ただ、岩盤の透水性自体が大体これくらいの値であるというような理解をしているとすれば、それがどれくらいであり得るかという形で議論をしていくことが良いと思う。帯水層のような概念を導入してそれが立ってるから、上下流には流れませんという説明は理解が難しくなる気がする。


縦断図は縦横の縮尺比が違う

 (委員・西村和夫東京都立大理事)
 鉛直、水平と区分けで描いてあるが、縦断図では縦横の縮尺比が違う。実際はこんなに立っていない。あくまでも相対的に水平、鉛直というざっくりの世界で判断すれば、鉛直側が卓越しているという意味だと思う。実際は横に間延びして頭の中で描かなければいけない。表現は気を付けた方が良い。


データで捕捉して

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 森下委員が疑問符を投げ掛けた地質の構造や境界条件の話もあったが、水循環としての連続性は担保されているというところがある程度分かってきた。今回作ったモデルは、地表面の形態や地表面の地質という情報が分かった上でモデルを作って、しかも他のデータから類推して、水循環の連続性というのがある程度わかったので、それを証明するような水質的なデータ、同位体等のデータで補足していただいてモデルをブラッシュアップしていただくのが良い。各論だけを議論していると、いろんなことをやらない限り分からないと思うので、総論を念頭に、次にどんなデータを取るというところで議論を進めていただきたい。


既存データをどう使うか工夫を

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 先ほど森下委員が言っていたことに関してだが、状況証拠をたくさん持ってきてもなかなか答えに至らないというところがあり、それに関して大井川の流域の現状をJR東海が自らの手を動かされてどういうふうに考えるか。その中で、どういう状況になっているかを整理されていると理解している。それが今日の前半で話していただいたことだと思うが、それに基づいて、今までJR東海が考えていたことのどの部分が、JRが手を動かして、既存のデータを解析することも大切だと思うので、そういうことをした上で、何がどこまで、より積極的に言えるかということを、考えを出して整理した上で、今議論している資料2の取り組みの中のJR東海の考えについて述べていただくことで、何もないではないかということで議論が進まないという段階を超えられるのではないかと思う。そこは、整理されたものをどう使うかという観点で、JR東海に少し工夫していただくことができないか。


指導をいただきながらやっていく

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
 現状のデータを収集してそれをどう活かすかと、新たな分析をどうやっていくかということについては、委員の方々のご指導を頂きながらやっていきたいと思っている。


データをどう使うかの考えを示して

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 私が言いたかったことは、そういう分析をされた結果としてJR東海が上流にトンネルを掘った結果、どういうふうに下流側の影響を評価する上で使えるのか、もしくはこういう形で考えているというようなところまでおっしゃっていただくことが必要ではないか。データを整理していくことは我々でできるが、その結果をどう使うかというのはJR東海が考えること。そこに入っていて結果を見せていただくことが大事だと思う。そういう意図で申し上げた。


トータルで何が見えるか

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 上流で水収支解析をやって、中下流域では地下水位等のデータを使って整理をした。それらをトータルとして考えたら、いったい、どういうふうな考えの元でそれをつなごうとし、あるいは、そこから何が見えるのかを徳永委員は言おうとしているのではないか。


今後の調査と既存データを関連づけて示す

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 前回と今回で地下水位のデータを出させていただいた。今回はもう少し細かく地区別に降水量、水量と相関があるかを見てきた。概して言うと、この地域の地下水位が安定していることが分かってきた。ただ、細かく見ると、上中下流とあって、場所によっては水量の影響を受けているところがある。一方で、先ほど話があったように、大きな意味での上流と下流がつながっているかということは、①~③の理由で考えにくい。特に③の成分分析の話は、これまでのデータもあるが、我々が今後やっていく。そして、今日示しているが、どうやら地下水というのは表流水に涵養されているのではないかということが読み取れそうなので、そこを補完していくようなことについて根拠を持って説明していきたい。説明に当たっては、独りよがりにならないように、先生方のご指導を受けながらまとめていきたい。我々がやる調査と、これまで行ったデータを関連付けてお示しできるようにしていきたい。


解析をつなげるのが重要

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 今のお話で、ぜひ強調して調べていただきたいのは、解析の精度の問題はあるものの解析はやったということで、境界条件の持っている意味、境界がどんな地下水の流れがあるか分かったということで、今の影響は、JRが言っているのは、トンネルによって地下水があるということと、それはトンネルのない状態に近い状態になるという答えを出した。それから、下流の方では、地下水の今までの長い観測データを見ると地下水位は、大井川独特の河道システムで安定しているということ。表流水も前回、前々回で議論されたように、ダムで貯留した水を2つのダムで送り出しており、それを発電所で受けて分配している。だから、水の利用上安定している。
 さらに、川の水が、ここにも書いてあるように、長島ダムや畑薙ダムからの水が川に供給されていることで、全体としては、下流の水利用は渇水時であっても、だいたい大丈夫ではないかということである。それと解析をどのようにつなげるかがこれから非常に重要になる。その辺は今後ぜひ、つないでいただきたい。トンネルを掘っても、(中下流域の)地下水には影響を与えないということと、下流が安定していることの両者をさらに確かなものにする方策を考えることが望まれていると思う。その辺、どのようにお考えか。


一体的な解析は難しい

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 一体的な計算、解析、シミュレーションは難しく、これまで得てきたデータをどのように読み、そこに計算を合わせるということだが、データの読み方については、地下水の水位の変化や過去の文献による水温の変化を十分読み切れていない。我々が読み切れていないデータについても、ご指導いただきながら読んで、これまでやってきた調査、解析を合わせて、今後、工事中にどうモニタリングをしていくかにつなげていければと思う。


データの科学性を考えて

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 そうですね。私も一委員として申し上げたいのは、やっぱり、データの持っている科学性をしっかり考えていただきたい。データをやらないと科学的でないと思っているとしたら、それも難しいが、それだけではない。累積された観測データからどんな科学的、工学的な知見が得られるかを、もう少し大事にして、地域の理解を得るようなことをしていく必要があると強く訴えたい。


化学的なデータを使って証明を

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 徳永委員の発言内容について、水循環としての連続性があることについて、もう少し強く言いたい。森下委員のモデルも踏まえて、水循環の連続性を考えて、下流域では大井川から水が入って行くよりも、地域の雨が地下水を涵養しているとのニュアンスとして受け取れる説明があったが、水循環の連続性をしっかり示してほしいということは、物理的な数字のゲームではなくて、化学的なエビデンスを取ってほしいという意味でもあることをまずは伝えたい。例えば、下流域は浸透している涵養域からの距離が多いので、浸透してからの時間が経過しているから、水位変化としては平滑(平均)化しているという見方もある。そのため、物理量だけで議論するのではなく、化学的に同位体を使えば、その場で降った雨なのか、上流からきた水が溜まっているのかはわかる。よって、その場で降った雨だけで涵養されているエビデンスをしっかり示して、しかも水位が平滑化しているということを言えば、水資源としては安定しており、川の上流域の水がトンネルで抜けたとしても、下流域に影響がないということをしっかり言える。今後地域の住民の皆さんが安心できるような、しっかりとしたエビデンスを取っていただきたいと思う。今までJR東海は、数字のデータや物理量のデータをよく使って説明しているが、化学的なデータは使っていない。そこをもう少し考えていただき、水循環の連続性をどう担保するか、あるいは、どう証明するかを示せると、より安心できる説明になると思う。


静岡市の解析も検討に加えて

 (委員・大東憲二大同大教授)
 解析領域の境界条件について、水位低下が広がるかどうかについてであるが、今回データを示していただき、一部境界条件の影響もあるが、もう少し下流域まで広がっている可能性のあるエリアが見つかったということでいいと思う。結果的には、それほど大きな低下は広がらないだろうという印象を持った。先ほど、中下流域を含めた水循環の話があったが、丸井委員も言っていたように、水循環はタイムスケールが重要であるので、降った雨が川に出て下流に流れていく非常に速い水循環もあれば、非常に深い岩盤に浸み込んだ水がゆっくりと流れていき、最後に地下水として利用される水循環がある。このように、水循環といっても、時間スケールを考えた水循環で、上流域でトンネルを掘った時に出てくる地下水が、下流域にいくまでにどれくらいの時間がかかるのかを含めた議論をしたほうがよいとの印象を持った。JR東海からの調査結果で、中下流域には影響はいかないだろうとのことであった。多分そうだろうと思うが、それでは納得していただけないというこれまでの経緯もあるので、ヒアリングでもう少し広い範囲で解析できるようなことをやってはどうかと提案した経緯がある。ただ、いきなり新しいシミュレーションモデルを使って解析するのは大変なので、良い方法はないかいろいろと考えていたところ、静岡市が地下水流動解析を行ったという情報を入手した。それを見ると、最近一番使われているGETFLOWS(ゲットフローズ)という統合型の水循環のプログラムで、中流域までを含めた地下水の流動解析を行っていることが分かった。そのモデルの作り方やパラメータの入力の仕方は検証しなければならないが、少なくとも広範囲の解析領域で地下水の流動と表流水の涵養を含めたモデルを作って解析しているようなので、それをこの会議でも検証してみてはどうかと思った。今まではJR東海のデータだけを見て議論をしているが、もう一つ別に有効な結果が得られるモデルがあるので、そちらのデータも有識者会議の中で取り上げて検討に加えてはどうかと思っている。


次回以降の検討に加えて

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 解析境界付近の地下水位の挙動に及ぼす水収支解析範囲の影響検討の結果、概ね問題がないのではないかとの意見が多かったが、解析範囲について不十分との意見もあることから、南北方向により広い範囲で行った静岡市によるゲットフローズのモデルによる結果と比較してはどうかとの意見が出された。私もJR東海の水収支解析モデルについて、さらなる理解を深めるために、静岡市の解析結果と比較することは重要であると思うので、次回以降の検討に加えていただきたい。それでは、議事(2)について、JR東海から資料4の説明をお願いする。


一定期間、トンネル湧水が流出

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
資料4畑薙山断層帯におけるトンネルの掘り方・トンネル湧水への対応(素案)について説明する。
p1を確認いただきたい。1.南アルプストンネルの計画概要についてである。南アルプストンネルは山梨県~静岡県~長野県に至る総延長約25kmのトンネルで、静岡県と長野県の県境付近の赤石山脈高峰部におけるトンネル土被りを極力小さくするような縦断線形として計画した。トンネルの土被りが大きく、トンネル上部にある地山がゆるんだ状態にあると、土被りに相応した山の重みがトンネルにかかり、トンネルの掘削が難しくなる。
  p2について、中央新幹線は、リニア方式を採用しており、最急勾配である40パーミルを生かして、土被りを小さくしていくが、それでも最大土被りは1400メートルとなる。表1に示す、これまで国内のトンネル工事で最大であった1300メートルを超える大きさとなる。一般にトンネルは両坑口付近から掘削を進めて行くが、トンネル延長が長くなる場合、トンネルの途中に斜坑を設置し、複数の工区に分けて工事を行う。南アルプストンネルの場合、静岡県内では2か所に斜坑を設置し、両斜坑は地上部から下向きに掘削をする。続いて(2)畑薙山断層帯の概要である。静岡県と山梨県の県境付近には畑薙山断層帯があり、これまで当社が実施したボーリング調査の結果から、約800メートルの範囲において破砕質な地質が繰り返し出現することを確認している。
 p4について、畑薙山断層帯におけるトンネル土被りは約800メートルと大きく、破砕質な地質に遭遇した際には、高圧突発湧水や大きな土圧の作用がトンネル掘削に影響を与える可能性がある。
 p5について、2.山岳トンネルにおける一般的な考え方についてである。山岳トンネルにおいて、トンネル湧水は自然流下により処理することが基本である。行政界にまたがって山岳トンネルを計画する場合は、可能な限り行政界を頂点とする山形に設定し、トンネルの建設においては、トンネル中間部に設定した頂点に向かって上向きに掘ることが一般的である。山岳トンネルの掘削工法については、日本では最も実績があるのはナトムである。南アルプストンネルは、静岡県と長野県の県境付近にトンネルの頂点があり、静岡県と山梨県の県境付近の畑薙山断層帯のトンネル掘削は、一般的な考え方に基づけば、山梨県側からナトムで掘り進めることになるが、この掘り方では静岡県内のトンネル湧水が工事の一定期間、山梨県側に流出することになる。これまで、静岡県と対話する中で、工事期間中のトンネル湧水を山梨県側に全く流出させない対策として、導水路トンネルの本線取り付け位置を山梨県境付近とすることや、畑薙山断層帯の掘削方法について、これまでの考え方によらないトンネルの掘り方の検討を求められている。
 p6について、3.工事期間中のトンネル湧水を山梨県側に全く流出させない対策について検討した。最初に、(1)山梨県境付近への導水路トンネルの取付けについてである。図5を確認いただきたい。紫の点線で示しているのが、県境付近で本線に取り付ける導水路トンネルの計画線である。赤い範囲で示しているのが、畑薙山断層帯の想定位置である。本導水路計画案は、延長約20キロメートルの北側半分の区間において、土被り約500メートルから1100メートルで約10キロメートルにわたって畑薙山断層帯に沿ってトンネルを掘削することになる。このような条件下では、トンネル掘削時において、約10キロメートルにわたって高圧湧水が出て大きな土圧が作用する可能性が高いため、トンネル掘削は極めて困難になると考える。また、供用後においても、断層や破砕帯と並行する区間は、維持管理上の要注意箇所となることから、それが10キロメートルにわたって続くことは避けなければならないと考える。続いて、図6を確認いただきたい。導水路トンネルの計画線をもう少し東側にずらし、畑薙山断層帯にかからないようにする案である。オレンジ色が導水路トンネルの計画案である。山梨県境付近には標高2500メートルに達する山々が連なっており、この稜線下では、導水路トンネルの土被りが約1300~1400メートルと極めて大きくなり、その区間が約5キロメートル連続する。
 p8について、南アルプストンネルの本線において土被りが1300メートルを超える区間が約800メートルあるが、本検討案ではそれよりもさらに大きく条件が悪くなることから、トンネル掘削は極めて困難であると考える。また、この導水路トンネルは、畑薙山断層帯のトンネル掘削を開始するまでに完成する必要があることを考えると、本検討案は避けなければならないと考えている。続いて、(2)静岡県側から最新の機械掘削技術を用いたトンネル掘削の検討についてである。畑薙山断層帯を静岡県側から山梨県側に向かって、ナトムにより下向きに掘削すると、破砕帯に遭遇した際に高圧突発湧水が発生して、切羽周辺が水没するリスクがあり作業員の安全性に問題がある。一方、トンネル掘削技術に関しては、より少人数で、高速で掘削する機械掘削が採用される傾向にあるので、静岡県側から山梨県側に向かって下向きに機械掘削することについて検討した。最初にTBMについてである。南アルプスの上流域では、過去に水力発電所の導水路トンネルをTBMで掘削した事例がある。
 p9に示すように2つの発電所で緑色に示す導水路トンネルをTBMで掘削している。いずれの導水路トンネルも最大土被りは500メートルを超えているが、地質のもろい区間が連続することはなかった。また、湧水量は最大で毎秒約0.1トンを記録した区間があるが、トンネル全体では大きな湧水はなく掘削できている。
 p10について、一部の地質がもろい区間ではTBMの掘進が止まり、復旧に時間を要している。畑薙山断層帯では地質がもろい区間が繰り返し出現し、TBMに大きな土圧がかかり動きが拘束されると掘進できない事態になると考えられる。続いて、地質がもろい区間でTBMを用いたトンネル事例として、東海北陸自動車道飛騨トンネルがある。p11に飛騨トンネルの位置図と地質縦断図を示す。図10の地質縦断図をご覧いただきたい。飛騨トンネルは最大土被り約1000メートルの片勾配のトンネルで、調査坑と本坑を縦断図の右側にあたる白川側から上り勾配で掘削し、当初は河合側まで掘削する計画だったが、赤く塗った森茂断層等で掘削に時間を要し、河合側から迎え掘りを行っている。
 p12について、飛騨トンネルでは最新技術で挑み、本坑に先行する形で調査坑もTBMで掘削したが、森茂断層部で不良地山と大量湧水が連続し、大きな土圧でトンネルが内側に押し出され、調査坑の鋼鉄製のTBMがくぼみ、掘進不能に陥った。一度掘進不能に陥ったTBMが掘削を再開するためには、切羽付近の補強や地盤注入を行う必要があり、再開までに大変な時間を要した。
 p13について、TBMは基本的にトンネル湧水をマシン後方へ排水処理する必要がある。畑薙山断層帯において、静岡県側から下向きにTBMを用いて掘削した場合、高圧突発湧水が発生すればたちまちTBMは水没し、安全上の問題が生じるだけでなく、それ以上の掘進はできなくなる可能性が高いと考えられる。次に、世界における大きな土被りのトンネル掘削事例について説明する。スイスのゴッタルドベーストンネルは、延長約57キロメートルの鉄道トンネルで、最大土被りは約2500メートルもあり、このトンネルの土被りが大きい区間の地質は花崗岩で堅硬緻密な岩石である。
 p14の図11は位置図、図12は縦断図を示した。縦断図に示すように、全延長の約75パーセントをTBMで掘削し、トンネル中間部に最大深さ800メートルの立坑を掘り、そこからもTBMを発進している。ヨーロッパアルプスは、岩盤は比較的安定しており、年間降水量も少ないため、山中の地下水が少ないことが特徴である。日本の地質は複雑でかつ断層が多いことから、断層に起因した大量の湧水が発生することが多く、TBMを用いた安定した掘削はできないと考えられる。
 p15について、都市部での施工に活用されているシールド工法について検討した。シールド工法は、シールドマシン前方で地山からの土圧や水圧を受け止めながら掘削を行い、掘削した後に、圧力(土圧や水圧)に耐えられるコンクリートセグメントを構築して掘削を進めて行くものである。シールド工法は、土圧や水圧に対抗するためシールドマシン自体の強度やマシン端部の止水処理が求められるほか、トンネル構造物は防水構造として大きな水圧に耐えられる強度が求められる。近年では高水圧下での施工実績も積み重ねられているが、最大の記録としても水深100メートル 程度の圧力が限界である。p16について、畑薙山断層帯では、土被りが約800メートルあり、現在の施工技術ではシールド工法による対応は極めて困難であると考える。
 p17の(3)について、静岡県の専門部会の委員から提案のあった先進坑を掘削する前に県境部の地表部から深い井戸で地下水をくみ上げる方法としてディープウェルがある。畑薙山断層帯では土被りが約800メートルあり、もろい地層において多数のディープウェルを正確に掘り、水中ポンプを確実に設置することは極めて困難であると考える。また、ディープウェルを掘削するに当たっては、稜線部付近に大型機械を設置するための大規模な造成工事を行うことになるが、現実的ではないと考える。
 これまでのまとめをp19の結論として述べる。導水路トンネルを山梨県境付近へ取り付ける計画については、畑薙山断層帯に沿って約10キロメートルを掘削すること、又は超大土被り(1300~1400メートル)区間を延長約5キロメートルにわたって掘削することになるため、極めて困難であると考える。畑薙山断層帯(土被り約800メートル)を静岡県側から山梨県側に向かって下向きに機械掘削する計画について、TBMは水没し安全上の問題が生じる可能性が高く、シールド工法は機械装置の製作が現実的ではないと考える。深井戸による揚水についても、地質のもろい区間において掘削して水中ポンプを設置することや、県境稜線部へ施工機械を運び、大規模な造成工事を行うことは現実的ではなく、極めて困難であると考える。
 p20の畑薙山断層帯を山梨県側から掘削する場合のトンネル湧水への対応について、静岡県外へトンネル湧水を流出させない方法を検討したが、いずれも実現に当たっては極めて困難と考える。畑薙山断層帯については、山梨県側からの上向き掘削として計画したいと考えるが、先進坑が貫通するまでの間、トンネル湧水が山梨県側に流れることになる。水収支解析では先進坑が貫通するまでの間、平均で毎秒0.08トンと予測しており、先進坑掘削において以下のような対策をとり、県外へ流出するトンネル湧水量を極力低減する。切羽周辺からボーリングによる前方探査を実施したのち、破砕帯に向けて薬液注入を行いトンネル湧水を低減する。静岡県側から掘削を進める先進坑から、畑薙山断層帯に向けて高速長尺先進ボーリングを行い、ボーリングの口元から湧出する(畑薙山断層帯の)地下水を先進坑を通じて揚水し大井川に戻すことを計画する。
 p21にイメージ図をお示しする。先進坑から実施するボーリングの径は100ミリ程度のため、先進坑掘削時のトンネル湧水全量を集めることはできない。しかしながら、過去に東俣から実施した斜めボーリングで畑薙山断層帯を確認した時のボーリング終了時の口元湧水量として毎秒約0.02トンという実績がある。p21について、高圧突発湧水発生時には、先進坑内の複数箇所にバルクヘッドを構築し、作業員の安全性を確保しながら高圧突発湧水の早期収束を図る。
 p22について、山梨県側からの先進坑が貫通した後は、畑薙山断層帯を避ける位置に設置する横坑の貯水プールを活用して、トンネル湧水を静岡県側にポンプアップする。以上の対策を取りながら県外流出するトンネル湧水量を極力低減する。
 p23について、千石斜坑、西俣斜坑は地形の制約上、地上から下向きに掘削するしか方法はない。両斜坑は一部断層部を含めて下向きに掘削する一方で、畑薙山断層帯は安全上、山梨県側から上向きで掘る計画である。そこで、①千石斜坑の大井川交差部、②千石斜坑の西俣川付近の断層部、③西俣斜坑沿い、④先進坑の畑薙山断層帯部のそれぞれについてトンネル土被りやこれまでの地質調査から得られた情報をp25の表2に整理し、それを基にトンネル掘削の向きについて考察した内容を述べる。①千石斜坑の大井川交差部については、千石斜坑の大井川交差部付近で実施した鉛直ボーリング調査のコアの状況、弾性波探査の結果からは、地質は悪くはないと想定している。しかし、地質は急激に変化する可能性があるため、切羽周辺からのボーリングによる前方探査を実施し、破砕帯を確認した場合は薬液注入等を行って、大井川の水を斜坑内に大量に引きこむことがないようにした上で慎重に下向きに掘削する。②千石斜坑の西俣川付近の断層部については、東俣から西に向かって実施した斜め下向きボーリング調査の結果、西俣川付近の断層部では、破砕質な地質が400メートルにわたり繰り返し出現することを確認した。また、断層部削孔中の口元湧水量は毎分400リットル程度である。切羽周辺からのボーリングによる前方探査を行い、破砕帯を確認した場合には薬液注入等を行い、大規模な高圧突発湧水が生じるリスクを極力小さくしながら、慎重に下向きに掘削する。③西俣斜坑沿いについては、西俣斜坑ヤードから西側へ西俣斜坑計画線に沿うように実施した斜め下向きボーリング調査の結果、地質は中硬岩を主体としており、掘削途中にて、複数の小規模な断層を確認した。口元湧水量は、深度600メートル以降では毎分1200リットル程度で継続した状態となった。湧水量が多い区間では、地質がもろい懸念があるため、(切羽周辺からの) ボーリングによる前方探査を実施し、破砕帯を確認した場合には薬液注入等を行い、大規模な高圧突発湧水が生じるリスクを極力小さくしながら、慎重に下向きに掘削する。斜坑共通に言えることは、柔軟性をもった線形をとることができるため、大規模な断層が確認された場合は(斜坑の)平面線形を含め変更するなど柔軟な対応を図る。④先進坑の畑薙山断層帯部については、東俣から東に向かって実施した斜め下向きボーリング調査の結果、畑薙山断層帯では破砕質な地質が約800mにわたり繰り返し出現することを確認し、孔壁崩壊や掘削停止が繰り返し確認された。また、断層部削孔中の口元湧水量は毎分2000リットル程度に達している。千石斜坑や西俣斜坑でも断層と交差するが、先進坑の畑薙山断層帯部は日本の活断層に記載のある周知の活断層であること、ボーリング掘削時において回転停止が繰り返し確認されるようなもろい地質であり、湧水量が多い破砕帯である可能性が高いことから、大規模な突発湧水が生じるリスクが大きいと考えられ、上り勾配で掘削する考えである。説明は以上である。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ここまでの説明でご意見ご質問いただきたい。


「畑薙山断層」ではなく「井川―大唐松山断層」

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 資料4でたくさん出てきた畑薙山断層帯についてだが、この資料のp46は、先ほどは説明されなかったが、この断層帯を把握したノンコアボーリングで、この孔底でまだ断層帯を抜いていない。これは断層帯東側延長方向にまだ破砕帯が続いている可能性があるということでよろしいか。うなずいておられるということはそういうことだと思うが、実はこの畑薙山断層帯という名称の断層は、椹島よりも南にリニアメントとして認識されており、産総研の活断層データベースにも出ているが、このボーリングの場所ではない。南アルプスの地質研究の第一人者である狩野謙一先生は、トンネル掘削付近の断層は、井川-大唐松山断層とみなされると言っており、論文でもそのように書かれている。畑薙山断層というよりは、むしろ井川-大唐松山断層だと思うがいかがか。


諸説あり「畑薙山断層」を使用

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 そのような名称で文献に載っているというのは私どもも承知している。一方で、この断層の扱いというか、名前や場所、活動度については諸説ある。私どもが環境影響評価をする時に、トンネルを掘る周辺の地形であるとか、地質の状況を記載する際、「日本の活断層」という本を基本に書かせていただいたので畑薙山断層としている。一方で、p46の調査結果から、この付近では最低でも800メートルほど破砕質な所が繰り返し出てくるという所なので、トンネルを掘るのは難しい、苦戦するという認識をしている。名前は「日本の活断層」という本を元に畑薙山断層としてきたので、引き続きこの名前を使用したいと思う。


掘削前に地質をよく調べて

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 名称だけの問題ではなくて、畑薙山断層は活断層として登録されているが、井川-大唐松山断層は活断層とは書かれていない。もう少し古い時代の断層というふうに認識されていると思う。いずれも露出は非常に限られているので、JR東海の言う「畑薙山断層」(実際には井川-大唐松山断層だと思われる)については、これから調査を進めていってほしい。断層の性質を知ることはトンネル湧水の事前予測だけでなく工事にも重要であり、トンネル掘削前に地質をよく調べていただきたいと要望する。


山梨流出湧水の定量的指標を

 (委員・大東憲二大同大教授)
 今回、トンネル掘削の方法をいろいろ検討されており、下り勾配で掘ると突発湧水で水没する可能性があるということについては、作業の危険を防ぐに当たり、一番必要なことだと思う。そういうことで、最終的にp21、22のところで先進坑を掘りながら、できるだけ湧水を静岡側に持っていくという、今考えられる水を山梨側に流さない方法というものを考えられたのだと思う。しかし、これが作業の安全上の最善の方法だとして、採用した時に、どれほどの水が山梨側に流れるのかという定量的な指標を一つ用意されていた方がいいのではないか。先進坑貫通後には静岡側にポンプアップで持っていくが、そこに至るまでに、どれくらい流れていくのか、その量を示すことが静岡県の人たちへの説明になると思う。


幅を持たせて定量的に議論

 (沢田尚夫JR東海中央新幹線推進本部副本部長)
 検討の方向としては委員の言った進め方で進めていきたいと考えており、今日のところはまず、この山梨の県境の部分を上から下向きに掘っていくことはなかなか難しいということをまずはきちんとご説明したいということで、こういう資料を用意している。私どもの結論としては、ここはなかなか難しいので、上向きに掘っていきたいということだが、そうなると、委員も言っていたが、ある一定期間トンネルの湧水が山梨側に流れてしまうということになる。その評価をしなくてはならないと思うので、そこをもう少し定量的に、次回以降ご議論いただけるような資料を用意していきたいと思う。これまでも静岡県の専門部会の中では、どれくらいの量が出るかという、数字を使ってお話ししてきたので、そういった数字をベースに資料を作っていこうと思っているが、それは解析結果で出てきた数字であるので、それが本当に正しいかという議論もあるかと思うので、少し幅を持たせながら議論いただけるような形にしていきたいと思っている。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ありがとうございます。委員、こういうご回答でよろしいか。


今までの調査結果を基に

 (委員・大東憲二大同大教授)
シミュレーションでやるというのがこれまでずっと言ってこられたことであるが、シミュレーションはどうしても仮定を基にした計算結果なので、今言われた少し幅を持ってということだが、できるだけ今まで調査した結果を基にして、これくらいの量が山梨側に出る可能性があるという皆さんが納得できるような説明をそういう資料を作っていただけるとありがたい。


電気探査の実施は

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 資料4のp32について、ここまでは説明されなかったが、弾性波探査の速度分布ということで、地質の評価をしているということだが、同じような目的で比抵抗調査があるが、このような調査は実施していないのか。比抵抗調査は電気探査の一種類である。


電気探査はやっていない

 (二村亨JR東海中央新幹線推進本部次長)
電気探査で水の帯水状況がどうなっているのかということはやっていない。


重要部分で電気探査の検討を

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 比抵抗調査をすると破砕帯などはもうちょっときれいに把握できると思う。周波数を変えることで深度方向のデータも取れるので、重要な部分ではそれも検討すべきと思っている。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 他にはいかがか。この件に関して委員、ご専門の立場として何かあるか。


定量的に示すのは非常に難しい

 (委員・西村和夫東京都立大理事)
 今日の資料について、細かいことを言えばいろいろあるが、前から申し上げている通り、トンネルの施工では確定的なことは地質が読めていないのでなかなか言えない。基本は施工する前の調査というのは、事前のある程度ざっくりの評価をして、あとは施工の態勢、工法を考えながら掘る。掘りながら事前調査を含めて対応していくというのが基本である。そういう意味では、今日の資料には概略的ないろいろな説明が書いてあるが、これは問題ないだろうと、こういう考え方でいいだろうと思う。問題なのは畑薙山断層だが、調査の結果などを見させてもらっているが、ここは確か、前後は粘板岩である。砂岩なんかが入っているが、粘板岩は非常にくせがあって、多くのトンネルで粘板岩なんかを掘っているが、事前調査よりも必ずといって良いほど状況が悪い。事前の調査での支保、トンネルの支え方のランクがあるが、大体半分以上は支保を重厚にしないと持たない、そういう非常にくせのある岩盤である。そういう意味では、ご説明の中でもかなり苦労はあるかもしれないというお話をされていたが、粘板岩に挟まれている断層帯で一部に粘板岩が入っており、そういう意味では非常に苦労が多い。反面、繰り返しになるが、事前に地質を読むことは非常に難しい。あくまでも現状の施工の計画として、また施工管理の考え方として提示いただいて、もうちょっと詳しい内容を。それをどういうふうに公開していくかの必要もあると思うが、どういうステージ、段階で評価してそれをフィードバックしながら、施工時調査、事前調査、あとモニタリング、施工管理になると思うが、それを繰り返していくという、そういうステージもきちっと提示していくことが大事だと思う。街中の近くのトンネルなんかでもそうだが、掘っていく時に今どこに切羽がありますかと。切羽とはトンネルの一番先端のことであるが、どういう状態かを地元の人たちにフィードバックするためのいろんな工夫をやっていく必要がある。トンネルどこを掘っているのか分からなくて不安だと。そういう意味で、ここは山の中だが、水の問題に対しても、施工の中でどういうふうに水が出てきているのか、どういう対応作業をしているのかという、その全体の流れの提示。基本から言えば、先進坑の施工からの流れというものが本来あって、各ステージごとにどういう調査をして、どういうデータが得られたか、それに対して施工管理をどういうふうに考えていくかという、大きな話ではそこから始まらないと本来いけない。不確定要素があるからこそ、このステージでちゃんとそれまでのデータをベースに、施工なり施工管理を考えていくということである。例えば、水の問題をどういうふうに評価していくかというのは一つの点で。それは先程の水の解析のモデルのチェックにもなるわけである。そういうことを本当は大きな枠組みの中で、各ステージごとに施工管理の段階を本当は示していくと、地元の方々に対しての責任を果たすことにもなるんだと。それがまず第一点である。
 それから水の戻し方というところは、やはりどうしても多少は県境を越えてしまうのは確かだと思う。絶対にゼロにはできない。解析は止水とか何も対策をしないモデルになっているが、実際の施工においては止水対策をしながら掘っていくことになる。そこにギャップが出てくるが、それを現時点でどの程度の水が県境から出ていくかということを定量的に示すことは非常に難しいと個人的には思う。ただ、どのくらいの量を想定しているということは示せると思う。それは、やはりその想定を超えないように、施工管理していくことになるのだと思う。例えば、今、私がどのくらいだと言えと言われたら、多分言えないと思うが、何らかの数字は概略でも示す必要はあるのではないかと思う。


次回に向けて検討を

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 ありがとうございました。いろいろと意見をいただいたが、今日、JR東海から畑薙山断層帯におけるトンネルの掘り方と湧水への対応ということで素案が出てきたが、だいたい、この原案はやむを得ないということで、いろいろ検討したと。いろいろなデータを出して、比較検討されているということだというが、大東委員から戻し方の点について、どういうふうに考えるのかという意見に対して、次回に向けて議論するということも含めて、ご了解いただけるか、よろしいか。はい、それでは、まずはどういう方法で具体的に、今の西村委員からの指摘による難しさはあるけれども、次回に向けての検討をお願いしたい。ありがとうございました。今日の議題は以上の2つであるが、何か言い残したことはあるか。


上流から下流に涵養されているのか

 (委員・沖大幹東大教授)
 1つ目の議題に戻るが、発言し損ねたので確認したい。皆さん言っていた通り、資料2のp6の図3-2やp7の図3-4で説明するのは、鉛直方向には層構造が卓越しているので下流に行かないという説明は分かりにくいというのは私もそうかなと思うが、森下委員が言ったのは説明が分かりにくいということなのか、そうではなくて実際には、やはり上流の地下水が下流に直接かなりの量が涵養されているという考えなのか。


上流地下水の下流への影響量を示して

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 まず質問の前半の地層うんぬんについては、分かりにくいというよりは不適切である。後で徳永委員も言われたが、帯水層というイメージで捉えられるものではない。かなり古い付加体であるので、こういう図を出すとかえってマイナスだと私は思っている。その程度の論理なのかと誤解される。次に質問の後半についてだが、私は上流の地下水のかなりの部分が下流に行くという前提で質問しているわけではない。皆さん、上流の地下水は中下流にあまり行かないだろうという専門家としての認識を示されたわけだが、それは現時点では作業仮説だと私は先ほど申し上げた。じゃあ、それをどのようにして、不確実性はあるにしても、どれくらい定量的に表されるのか。地下水の流動解析なんかを行いつつ、いろいろなデータを取り入れつつ行う必要がある。水文学は私の専門ではないが、最近の論文を読んでいると、データ同化ということが言われていて、地下の状況はよく分からないけれども、他のデータを組み込みながらその精密さを上げていく方法がある。今後行うべき解析は、上流部で行われた水収支解析と同じようなことをやるのではなく、上流域だけでなく中下流域まで含めた系において、その上流の地下水が下流にどれだけ影響を及ぼすのか。及ぼす量は少ないとしても、それはどのくらいなのかということを示すことが重要ではないかということを申し上げた。


流量予測はかなり不確実

 (委員・沖大幹東大教授)
 よく分かった。ただ、私がここで最後に申し上げたのは、この会議の最初の2、3回では、水収支モデル(流量予測)というのはかなり不確実で、地下のパラメータも分からないし、そこで出てきた数字はなかなか信頼がおけないなという議論に、ものすごく私たちは時間を使ったと思う。それを思い起こすと、でも、最後はシミュレーションの結果を信じるのか、それともやはり観測データの方が信頼できるのか。


流量予測を行うという意味ではない

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 すみません。そういう解析、上流でやったようなシミュレーション解析(流量予測)を行うというような意味では全くない。最終的には上流から下流までを含めた系で、水の流動モデル、概念を考えて、そこにいろいろな地下水の観測データを入れ込んでいって精度を高めていくという、そういうことが必要だろうと思う。それから先ほど言われていた地下水の酸素、水素同位体比あるいは不活性ガス濃度から涵養標高と滞留時間を出していけば、その概念モデルに組み込むことは非常に可能であるし、重要なデータになると思う。そういうことをやって、中下流域に影響を及ぼすのは上流の地下水の内の1パーセントなのか10パーセントなのか、それくらいのことは言えるのではないかということで申し上げた。


地下水の需給に負荷はないのでは

 (委員・沖大幹東大教授)
 ありがとうございます。もう1つだけよろしいでしょうか。下流の地下水の変動の図があったと思う。資料3-1のp37の図3.15である。その少し前にも雨と比べたのがあったと思う。地下水だけ見ているが、大事なのは02年から16年にかけて長期的なトレンドはない。すなわち、季節変化はあるものの、ものすごく雨が多い年も少ない年も元に戻るということである。ということは、普通に考えると扇状地帯がそのまま海に到達しているこういう地域では、かなりの地下水が表流水にならないでそのまま海に、多い年はそのまま海に行って、少ない年は海に流出する量が少ない。あるいは、川に出ているのかもしれないが、バランスしていると考えられるのではないか。地下水汲み上げ量の方は1980年ころからずっと減ってきており、もし汲み上げ過ぎで地下水位が下がっている状況だったとしたら、近年地下水位は上昇傾向となるはずだが、そういうのも見えない。ということは、地下水の需給に負荷がかかっている状況ではないというように見えるが、德永委員としてはどうか。


非常に難しい質問で答えにくい

 (委員・徳永朋祥東大教授)
 非常に難しい質問をされており、そうです、そうではありません、ということは答えにくいが、1つ重要なことは、先ほど、委員が言ったように、p37の2002年から16年までの平均との差分を見ているということなので、時間とともに地下水位が下がっていると、それはトレンドとして影響は見えるはずだが、見えていないということは、これは非常に重要な情報だと考えている。すなわち、この十数年間どういうプロセスで安定していたかについては、もう少し検討しないといけないが、結果として地下水位が変わらないように場が振る舞っていたということをデータが言っているということは、非常に重要なことだと思う。丸井委員としてはいかがか。


年周期で地下水はそれなりに確保

 (委員・丸井敦尚産業技術総合研究所プロジェクトリーダー)
 個人的には静岡県の環境審議会の中で地下水の適正利用に関わる委員をやったことがある。静岡県内では東部と中部と西部の3つの地域に分けて、3年くらいずつ、地下水の資源量や流動についてのトレンドがどうなっているかというのも含めて調査してきた。この結果によれば、県内としては工業用水等の利用が減っているので、沖委員が言ったように、だんだん地下水位が高くなって資源量が増加しているというのが一般的な傾向である。しかしながら、大井川の下流域の所は比較的、扇状地の地下水が安定していると考えられ、流量が確保されているので、降水量によらず地下水位の年変化の周期として安定している場所であり、地下水の流れがそれなりに確保されている場所と認識している。


データの理解が深まった

 (座長・福岡捷二中央大教授)
 どうもありがとうございました。本日の会議では議事(1)、議事(2)について議論して、議事(1)については、大井川の実測データや水収支解析について理解が深まってきた。また、議事(2)については、トンネルの掘り方について今回具体的に議論があり、提案されたもので検討していこうということになったが、今後も引き続き、山梨県側に出ていく水の量も含めて検討を続けていくということになる。それでは最後の議事(3)に入りたいと思う。事務局より資料5の説明をお願いする。


トンネル湧水をどう戻すかを次回に

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
 資料5についてだが、今日、第5回が終わり、次回、第6回となる。毎回のことであるが、第6回については、今日もいろいろご指摘あったことを受けて、JR東海の方で、資料作成等を行っていただく。各委員の先生方のご予定等もあるため、調整しながら次回の日程については決めさせていただきたい。それから、議事(2)の大井川の水の戻し方のところで、今日JR東海から説明があったのは、いわゆる工事中に畑薙山断層を掘る時に、どういうやり方で掘るのか、またその時に水はどれくらい出るのかなどであった。これは工事中の話であるが、その前段として、そもそもトンネル湧水を大井川にどう戻すのかということについては、導水路トンネルとポンプアップを併用して戻すという基本のところがある。この基本のところが、実は今回の資料であまり書かれていないので、これは基本のところなので、次回に向けてここはちゃんと書き込んで、全体的には、こうやって戻すんですよということは示された方が良い。



 (座長・福岡捷二中央大教授)
 次回に向けてお願いしたい。


会議後に委員は控え室へ

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
 ありがとうございます。今日も活発にご議論いただいたが、この後、また記者ブリーフィングを行う。7月16日に開催された前回会議後も記者ブリーフィングを行ったが、本日もだいぶ議論を深めていただいたが、議論の内容についてより正確性を期すために座長コメントを出したいと思っている。その準備のために、大変恐縮だが、座長はじめ各委員の皆様にもご協力いただきたいと思うので、この会議終了後、控え室に移動いただき、ご協力いただきたいと思う。また、ウェブ参加されている委員におかれましても、このまましばらくお待ちいただければと思う。なお、作成した座長コメントについては、ブリーフィングの際に配布させていただくとともに、ウェブで参加されているオブザーバーや報道機関の皆様にも作成し次第、メールで配信させていただくということを考えているので、よろしくお願いする。今後の進め方については以上である。


生物多様性の議論の方針は

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 確認だが、資料5の今後の進め方の一番下について、生物多様性については静岡県の専門部会での今後の議論を見極めつつ対応とある。これはどのようなことか。というのも、7月31日に静岡県の専門部会が開催された。その専門部会は、地質構造・水資源専門部会と生物多様性専門部会の合同会議として行われた。その部会で事務局と私の方から7月16日、前回の有識者会議の内容について概略を説明したところ、上流域での地下水の低下予測については生態系に重大な影響が考えられるため、有識者会議においても議論してほしいという要望が生物多様性部会の方からあった。ところが、この資料5には「静岡県の専門部会での今後の議論を見極めつつ」と記載があったので、その趣旨と今後の対応方針についてお尋ねしたい。


生物多様性は県の議論後に

 (江口秀二国土交通省鉄道局技術審議官)
 ありがとうございます。この有識者会議は、まずは先ほど申し上げた、大井川への表流水の戻し方と、中下流域の地下水への影響について、これをまとめましょうということである。なぜ、この点を取り上げたのかというと、この2つのテーマについては、今まで専門部会で議論されたが、なかなか議論がかみ合わないというところがあり、また流域の方々も非常に懸念されているということで、この点について先行的に議論を行っているわけである。一方で、生物多様性についても、先ほどのご説明のように7月31日にそういう議論がされたというのは承知している。今回、このモデルで影響について示されたが、こういった生物多様性への影響をどういうふうに考えるのかというのは、我々も当然考えなくてはならないと思っている。ただ、県の生物多様性の専門部会が最近開かれていない状況だと承知しているので、ある程度、専門部会でJR東海との間でやりとりがあって、それである程度こういうことで議論しましょうとなった時に、有識者会議で取り上げるのではないかと思っている。そのように考えているが、タイミングは専門部会での議論を見ながらということで考えている。


生物多様性の議論は暗礁に

 (委員・森下祐一静岡大客員教授)
 生物多様性専門部会が最近開かれていない理由だが、実はある意味暗礁に乗り上げているということである。「専門部会の方でやってください」と言われても、暗礁に乗り上げている。有識者会議では47項目のうち2つのテーマが特に重要な課題として挙げられているが、生態系の問題もそれと同じかそれ以上重要で難しい問題として残っている。それについて、今この場での回答は結構だが事務局の方で今後の進め方について是非ご検討いただければと思う。


いい茶0
地域再生大賞