大自在(10月5日)「考える葦」

 「人間は考える葦[あし]である」は、17世紀のフランスの思想家で数学者や物理学者としても知られるパスカルの有名な言葉である。葦は日本の水辺でも見られるイネ科の多年草。「豊葦原[とよあしはら]の瑞穂[みずほ]の国」は遠い昔から日本の美称だ。
 葦は「よし」とも読む。葦の茎を編んだ日よけは葦簀[よしず]で、猛暑のこの夏は特にありがたみを感じた人もいるだろう。「あし」は「悪[あ]し」に通じて縁起が悪いと、「よし(善し)」に言い換えられたとされている。
 浜松市の佐鳴湖には人間の背丈以上に伸びた葦が所々に群生している。秋が深まると目にする葦の刈り取り作業は、今や風物詩になっている。
 湖水の浄化を目的に葦が人工的に植栽され始めたのは30年近く前。葦は水質汚濁の一因となっている窒素やリンを成長の過程で吸収してくれる。毎年、地元の小中学生も協力する刈り取り作業は、翌年の葦の成長を促すために行われる。
 佐鳴湖は、化学的酸素要求量(COD)を指標とする全国湖沼水質ランキングで2001年から06年まで連続で最下位だった。危機感を募らせた官民の関係者は、汚名返上に向けてさまざまな対策を講じてきた。順位は一進一退を繰り返しながらも上昇傾向にある。19年以降はワースト10に佐鳴湖の名前は見当たらない。
 葦は水が汚れている湖という悪しきイメージの払拭に貢献する善き植物ともいえる。佐鳴湖では「あし」ではなく「よし」と言うべきか。ただ、葦の浄化能力には限界がある。さらに順位を上げていくには、今後の「考える葦」の取り組みにかかっている。

いい茶0
あなたの静岡新聞 アプリ
地域再生大賞