社説(11月10日)三遠南信連携 事業検証し優先順位を

 遠州と愛知県東三河、長野県南信州の自治体や経済団体などの代表が集結する「三遠南信サミット」は10月下旬の開催で30回の節目を迎え、連携強化を改めて確認した。
 県同士ではなく一部地域の県境を越えた広域連携は全国的にも珍しい。連携事業はサミットの最大の目的である三遠南信自動車道の整備促進活動のほかにも産業、文化、防災など幅広い分野に及ぶ。長期にわたる大規模な社会実験ともいえる。
 地域振興の背骨となる自動車道は、全長約100キロのうち開通したのは計40キロ弱で、全線開通の時期は見通せない。「第2次三遠南信地域連携ビジョン」(2019~30年度)の連携事業も随時、事業の成果を検証するべきだ。時代の変化に応じて優先順位を付けることが必要だろう。
 広域観光の推進には今後も力を注ぎたい。南信の飯田市にはリニア中央新幹線の駅ができる。飯田市と浜松市北区を結ぶ自動車道が開通すれば、交通の便は飛躍的に向上する。海の幸、山の幸にも恵まれ、観光地として発展する可能性を秘めている。この30年、サミットは三遠南信の地域資源を見つめ直し、活用策を探ってきた。今後の観光施策にも生かせるはずだ。
 三遠南信は民俗芸能の宝庫といわれる。浜松市の「西浦の田楽」、磐田市の「見付天神裸祭」など国指定重要無形文化財に加え、県や市町村が指定する文化財も多い。今後も保存や継承ととともに、観光資源として日本の文化や歴史に興味がある訪日外国人などを呼び込む手法を考えてほしい。
 愛知県新城市をはじめ磐田市、掛川市などで盛んな「軽トラ市」の集客力にも着眼し、ネットワークづくりを始めた。地域住民だけでなく行楽客も足を運びたくなるような戦略も必要だ。
 各自治体がそれぞれの魅力を高めれば、地域全体のアピール度は増す。連携事業の一つとなっている移住促進にもつながる。
 大規模な自然災害が頻発している近年、防災面での連携は重要度を増している。災害発生時には地域を構成する全39市町村が互いに職員の派遣、食料や資機材の提供、被災者の受け入れができる体制が構築された。コロナ禍以降、控えられている県境を越えた災害ボランティアも圏域内では活動できるよう検討してはどうだろうか。
 サミットを主催する地域連携ビジョン推進会議の会長を16年近く務めてきた浜松市の鈴木康友市長が市長退任を決めた。次期市長には三遠南信最大都市のトップとして地域を引っ張っていく覚悟も求められる。

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