独身者が損をするの?
井手:新年度に入って、「独身税」という単語が出てくるようになり、ネットでも戸惑いの声が上がっている印象です。そもそもこの「子ども・子育て支援金」とはどういう制度なんでしょうか?堀:少子化の深刻な事態を受けて、政府は2024年度から「異次元の少子化対策」というのを進めています。その対策を進めるためには毎年3兆6000億円の安定財源が必要です。この財源として政府は、既定予算の組み替えや歳出カットなどで2兆6000億円を、あと1兆円については、2026年度から子ども・子育て支援金を創出して国民や企業から拠出するということです。
井手:国民に負担してもらうという制度ですが、なぜこの「独身税」という言葉が独り歩きしてしまっているんでしょうか?
堀:その言葉の方が注目されていますね。子育てをしない独身者であっても保険料を徴収され負担が増えるのに、直接的な恩恵を受けるのは子供がいる人に限られるということで「損ではないか」という理由から、SNS上では批判的に「独身税」と言われています。
しかし、この急激な少子化が続くと、人手不足による国力低下や社会保障費の国民負担の増加など、悪影響は全国民に及びます。そうしたことから、直接的な恩恵はなくても、少子化対策は巡り巡って恩恵があると言われているのです。
井手:私も独身ですが、「子どものために払ってもいいかな」と前向きには捉えています。ただ、やっぱり当事者意識の差から生まれた「独身税」という言葉があるんだなという印象です。
サラリーマンの場合、徴収は5月から始まっている
井手:では、私達の給料からは具体的に、いくらが、いつから引かれるんでしょうか?堀:サラリーマンの方が一番早く、5月のお給料から天引きされ、社会保険料に含めて徴収されています。1人当たりの平均額が大体550円ぐらいです。
国民健康保険に加入されている方は、1月当たりの平均額は加入者1人当たりおよそ200円で、1世帯当たりの単位で言うとおよそ300円。それから75歳以上の方の後期高齢者医療保険に加入の方は、1人当たりおよそ200円ということです。
国民健康保険や後期高齢者医療保険の徴収開始時期は、6月から7月頃に納入通知が送られてきますが、静岡市の場合は、4、5月は徴収がないので、令和8年度の子ども・子育て支援金を含めた国民健康保険料の第1回目の納期限が7月7日となっています。
井手:その後、毎月あるということですか。
堀:そうですね。毎月あります。
井手:私も先日、給料が入ったので、明細を見てみました。「子ども・子育て支援金」という項目がなかったんですが、そういった場合もあるんですか。
堀:保険料に含まれていて金額も550円程度ですから、気づかれなかった方も多いかと思います。
井手:気になる方は、明細をじっくり見てみてもいいかもしれません。
妊娠中から子どもが大きくなるまで、子育て世帯を手厚くサポート
井手:一般的な年収だと、月にいくらぐらいになるのかも気になります。堀:例えば、サラリーマンの多くが加入している協会けんぽの場合、年収600万のサラリーマンですと、毎月の給料から430円程度、夏と冬のボーナスからそれぞれ860円程度ということで、年間ではおよそ7000円ぐらいの負担になるという試算です。
井手:負担額はこれからどんどん増えていくこともあるんでしょうか?
堀:子ども・子育て支援金は、2028年度に3兆6000億円の安定財源確保を目指していて、それまでは特例国債を発行して不足分を補っています。子ども・子育て支援金も2026年から3年にわたって負担額が徐々に増えていき、2028年度以降は未定です。毎年どのぐらい負担が増えるかというと、こども家庭庁によると1人当たり月平均額で100円程度の増加になると言われています。
井手:今後も増えていく可能性はあるということなんですね。どのような用途で使われるんですか?
堀:主な用途としては、既に実施されているものもあります。2024年10月から、児童手当の所得制限が撤廃されて、支給期間も中学生から高校生の年代まで3年間延長されています。3番目以降のお子さんの支給額も、全期間3万円に増額されています。
出産一時金については既に3年前の2023年、42万円から原則50万円に引き上げられているんですが、さらに2025年4月からは、妊娠中もお医者さんの費用がかかるということで、妊娠時と出産時にそれぞれ5万円が支給される制度が始まっているんですね。
さらに、今年10月から、国民年金保険を払っている家庭でお子さんが誕生した場合、お子さんが1歳になる誕生日の前月まで国民年金保険料が免除されます。令和8年度の国民年金保険料が月額1万7920円なので、夫婦合わせて3万6000円ほどの国民年金保険料負担が免除されるということになっています。
井手:つまり、子供を持つ家庭においてはかなりの支援があるということですよね。
堀:そうですね。
井手:これを単に税金として集めるのではなく、医療保険に上乗せしているのはなぜでしょう?
堀:税金では、「少子化対策のための増税です」と言われても、実際何に使われたのかわからず、増税感だけが残ってしまうということがあります。しかし、医療保険に上乗せすることで、使途がはっきりするため、少子化対策のための拠出だと意識できるということですね。負担する国民の理解も得やすいという理由から、政府は保険料として徴収しているのだと思います。
将来への雇用の不安を取り除くことが、少子化対策には不可欠
井手:堀さん、これで日本の少子化に歯止めがかかるでしょうか?堀:子育て支援の経済支援としては必要なことなんですが、子供を産み育てようという動機付けにはちょっと遠いんではないかと思います。
子供を持ちたいと思う人がためらっているのは、雇用が安定せず賃金が上がらないため将来に展望が見出せず、将来に対する不安があるからなんです。
人よりも企業の利益を最優先する現在の自由主義経済のもとで、人件費の削減に努めた企業の内部留保(企業がため込んだお金)は、この10年間だけでも2倍近くに上っています。2022年の内部留保は、国の一般会計予算の4.8倍の582兆円まで膨らんでいるんですね。しかし、私達の給料は実質的に30年間上がっていないんです。
それから、企業は非正規雇用で働く人を増やしてきましたが、非正規雇用で働いていると給料は最低賃金に張り付いて、ベースアップも期待できませんし、いつ職を失うかもわからない状況です。
日本で少子化対策として最優先で取り組むべき施策というのは、将来に対する雇用の不安を取り除くことに尽きるのではないかと思います。
井手:今後もあんまり楽観視はできないですね。堀さん、ありがとうございました。










































































