
「子曰く、過ちて改めざる、是れを過ちという」
なじみのある論語の一節です。「過ちを改めないのが本当の過ち」という意味。孔子は弟子に、人は勘違いや過ちを犯す生き物だから気付いたらすぐ改めよ、と説きました。乱世の春秋時代、弟子の道徳心が揺らぐことがあったといい、師は教えを逸脱した弟子をこう諭したそうです。
「イラン攻撃は戦争ではない」
米国のイラン攻撃はどうでしょう。「過ちて改めざる」の様相が強まっていると識者が解説していました。米国憲法は宣戦布告の権限が連邦議会にあると規定していますが、議会は決議していないので戦争ではないそうです。トランプ大統領の説明は、軍の最高司令官として差し迫った脅威に対して展開している「大規模な戦闘作戦」です。その脅威とはイランが核兵器製造計画の放棄を拒み、自国や欧州の脅威となる長距離ミサイルの開発を進めていること。自衛権の行使と言いたいのでしょう。なのに、石油製品をはじめとした物流の要衝である海峡を封鎖したり、インフラ施設を総攻撃するとおどしたりと、作戦は支離滅裂に見えてきます。思い起こすと、ウクライナを攻撃したロシアのプーチン大統領も、侵攻の理由を自衛措置と説明しました。東へ拡大し続ける西側の軍事同盟NATOにウクライナが加盟することを阻止し、中立化、非軍事化・非ナチ化させるためとしました。表面的に米ロに共通するのは、他国に「自国への脅威」を行使させないため武力攻撃を始めたこと。ロシアは国際法違反を問われ広範な経済制裁を受けていますが、庶民感覚では米ロの開戦理由が本質的にどう違うのかよく分かりません。
日本が訴えてきた平和外交
日本政府は「力による現状変更は許されない」と訴えてきました。平和外交の正しい姿だと思います。高市早苗首相はトランプ大統領に会いました。なぜこれを機会に力の外交の自制を促し、その姿勢を内外にアピールしなかったのでしょう。ダメなものはダメだと言わない不作為は、言わない自分も愚行に加担することにつながります。世界はもっとダメになっていきます。米軍は空爆でイラン最高指導者アリ・ハメネイ師を殺害しました。トランプ大統領はこの軍事行動の後、イランの新指導体制について「我々が考えていた人物のほとんどは死んでしまった。別のグループはいるが、彼らも死んでいる可能性がある」と述べました。報道からは、流血の惨事の当事者としての祈りの気持ちや深遠な謙虚さは感じず、むしろ他人事のよう。イランを世界最大のテロ支援国家と敵視するトランプ大統領は、故ハメネイ師を「史上最も邪悪な人物の一人」とこき下ろしました。戦闘は「イラン国民だけではなく、米国人や世界各国の人々にとって正義だ」と強調しました。他国の指導者と周辺の要人を事実上皆殺しにした行為は、日本国民にとっても正義なのでしょうか。
冒頭の論語の一節は「間違いのなかから、何を学ぶか」ということです。しかし、人が人の命を奪うという取り返しのつかない行いは、そこから「何かを学ぶ」という人の教えが成り立つのか。分からなくなってきます。トランプ大統領による戦闘行為やその発言は歴史にどう記録し、子供たちに何を教えたらいいのでしょう。
静岡県のものづくり産業
米国のイラン攻撃の後、ものづくり県静岡の行く末に不安をいだく経営者や自治体職員が増えています。静岡新聞は東京商工リサーチの緊急調査結果として、静岡県内の調査対象企業の88%が中東情勢により「マイナス影響がある」と回答したと報じました。影響は卸売り、運輸、製造など広範に及んでいます。なぜ中東情勢が地方都市の経済に影響するのでしょう。製造業に必要な原材料や部品の供給網が国境や政治体制を超え各国に広がっているから。サプライチェーンと言われます。大手メーカーだけでなく、中小企業の製造現場も例外ではありません。たとえ中国の政治体制が不安定でも、米国が法外な関税を吹っ掛けてきても主要国との交易から安易に離脱できないのです。
静岡県内の老朽化した公共施設の改修で、衛生機器や防水施工の部材が調達困難になり、懸念が広がっていると聞きました。中東地域での戦闘の影響は地球規模で拡大し、日本の地域経済をも混乱させています。
世界で約60の紛争
内戦や武力衝突、テロなど世界でいま約60の紛争が進行し、第2次世界大戦後で最多だそうです。国や勢力が、自らが最善と信じる秩序の維持や勢力拡大で戦火を交えています。超大国の権威が失墜し、国際秩序は多極化の様相です。米国発祥の政治リスク調査会社ユーラシア・グループは、2026年版の「世界10大リスク」の前文で米国の現状に警鐘を鳴らしました。米国は自ら、自らが作り上げた国際秩序を解体しつつある。世界最強の国が政治革命の真っただ中にある。ドナルド・トランプ大統領の革命が成功するか失敗するか、そしてそれが米国と世界に及ぼす影響は、一世代にわたって続くだろう。世界中の他の国々にとって、米国は予測不可能で信頼できない存在になった。我々は多くの不安定を目にすることになる(抜粋)
トランプ大統領という異端の指導者に日本はどこまで並走していくべきか、地方からも思いを巡らせてみましょう。
中島 忠男(なかじま・ただお)=SBSプロモーション常務
1962年焼津市生まれ。86年静岡新聞入社。社会部で司法や教育委員会を取材。共同通信社に出向し文部科学省、総務省を担当。清水支局長を務め政治部へ。川勝平太知事を初当選時から取材し、政治部長、ニュースセンター長、論説委員長を経て定年を迎え、2023年6月から現職。










































































