【アルテュス監督「サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行」】障害があるアマチュア俳優11人に「当て書き」した脚本が驚異的

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は、静岡では12月26 日から静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリー、磐田市のTOHOシネマズららぽーと磐田で上映中のアルテュス監督「『サムシング・エクストラ! やさしい泥棒のゆかいな逃避行」を題材に。

フランスの2024年年間興行収入第1位を記録した作品。1080万人動員ということで、フランス国民の7人に1人が見たという、2025年の日本に置き換えると「国宝」級のメガヒットを記録した作品である。

障害者がそのままの役柄で映し出されている。ダウン症や知的障害のある人物を演じたのは、実際にその障害があるアマチュア俳優11人。本作はオーディションで選ばれた彼らに当て書きされた脚本で作られたという、そして、それがコメディーとして成立している。彼らは優れたコメディアン、コメディエンヌが持つ「くすりとさせられる」表情や身ぶり手ぶりを、自然に表現している。

「障害」とされている何かが、その人を形作る要素の一つであり、それこそが「サムシング・エクストラ!」(何か特別なもの)なのだ。12月に観た映画では河合健監督「みんな、おしゃべり!」もそんなことを感じさせる一本だった。

内気だがサッカーボールに執着するバティスト、常に仮装するボリス、メイクやファッションがおしゃれなマヤヌといった、目につきやすいキャラクターも秀逸だが、ほとんどしゃべらないが黙々と手を動かすギャッドや、常に「置いていかれる」車椅子のソソも存在感を放っている。画面の中で「常にそこにいる」印象が残る。

宝石店に強盗に入った親子が、障害者施設のサマーバカンスのバスに間違って乗り込む、という奇想天外な展開の中で、障害者俳優11人を公平に扱っている。「機会均等」を貫いているのに物語が破綻していないのは驚異的だ。ヒューマンドラマとしての作法は王道と言っていい。豊かに枝葉を伸ばしながら、幹が太くまっすぐ伸びていく。監督・脚本・主演を務めたのは、フランスの人気コメディアンのアルテュスだが、この「誰も取り残さない」ストーリーの妙がとても素晴らしい。

野外の長テーブルを囲む食事シーンが何度か出てくる。「誰もが等しくそこにいる」を象徴する場面だと感じた。

(は)

<DATA>※県内の上映館。12月29日時点
シネプラザサントムーン(清水町、2026 年1月30日から)
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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