【「フリーキーショウ」の「ヒカシュー」ライブ】毎年恒例の静岡ライブ。ロック的ダイナミズムが満ち満ちていた

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は昨日、 11月15日に静岡市葵区のライブハウス「フリーキーショウ」で開かれた音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)、打楽器奏者佐藤正治さん(同)が在籍するバンド「ヒカシュー」のライブを題材に。

毎年恒例となった静岡市内でのヒカシューのライブ。12日の大阪から始まった東海道ツアーの最終日の演奏は、ロック的ダイナミズムに満ち満ちていた。この会場でヒカシューを見るのは3回目だが、これまでで最も力感があった。

特にリズム隊の牽引力が凄まじかった。佐藤さんの力強く踏むバスドラと、坂出雅海さんのうねるベースが絡み合うビートは、聴き手の腹の底の底にまでこだました。

新メンバーに纐纈之雅代さん(アルトサックス、バリトンサックス)を加えた編成だが、もともと在籍していた他の5人は還暦をとうに過ぎている。巻上さんのステージ上の発言によると、三田超人さんは70歳を迎え、巻上さん本人もあと2カ月ほどで同じ年になるという。

それなのに、と言っては失礼だろうがあえて言わせていただく。このように「音楽への興味」を全身から発散し続けられるバンドは世界的にも希有ではないか。ステージを見ていると、メンバーが互いの出す音に、いまだ「興味津々」であることがよく分かる。即興を多用するバンドだから、と言うこともあるだろうが、音源のアレンジに従って演奏する楽曲が多かった今回のライブでも、顔と顔を見合わせ、音を心底楽しんでいる様子が伝わってきた。

結成47年目に新しいメンバーを加えること自体、このバンドの思考の自由さを物語っている。しかもバンド史上初の女性だ。例に出して申し訳ないが、ローリング・ストーンズは欠員を補充する形でバンドとしての機能を保っている。それはそれで立派なことだが、ヒカシューは違う。この期に及んで新しい「色」を加えているのだ。躊躇なく、それをやってのけている。まさに「オルタナティブ」な姿勢と言えるだろう。

ライブは、一昨年5月に亡くなった美術家イリヤ・カバコフさん(旧ソ連ウクライナ出身、作品はイリヤ&エミリア・カバコフ名義で発表)にささげた2024年のアルバム「雲をあやつる」と、12月に出る新作「ニテヒナルトキ 念力の領域」からの楽曲が中心だった。

後半は「人間の顔」「キメラ」など「懐かしめ」の曲も多数。アンコールの「びろびろ」では、何のてらいもなく2本指を掲げて「ピース」とやる巻上さん。このてらいのなさがバンドの強さに直結しているのだと確信した。

(は)

<DATA>
巻上公一さんが主催する「 第7回熱海未来音楽祭」の開催が近づいている。

※主な演目
▼11月29日(土)
ワークショップ「巻上公一の声の冒険ワークショップ」
時間:午前11時~正午
会場:起雲閣音楽サロン
講師:巻上公一

熱海の街を舞台にしたダンス×即興演奏のパフォーマンス! 「LAND FES」
時間:午後1時~午後2時半
受付:受付場所=EOMO store前(熱海市銀座町6-6)
出演: 西山友貴(ダンス)、イルマ・オスノ(ペルー民族舞踊)、若羽幸平(舞踏)、大野慎也(ガイダ、アコーディオン)、星衛(チェロ、和笛、電子獅子舞)、サム・ベネット(パーカッション、ボイス)

対談「続・くるぶしからのど仏を通って熱海行き」
時間:午後3時~午後3時45分
会場:起雲閣音楽サロン 
出演:町田康(作家、音楽家)、巻上公一(音楽家)

ライブ「天ノ橋 地獄巡 熱海に参上」
時間:午後4時~午後5時
会場:起雲閣音楽サロン 
出演:天鼓(ボイス)、内橋和久(ギター、ダクソフォン)、巻上公一 (ボイス、テルミン、尺八ほか)

ライブ「合縁奇縁(あいえんきえん)」
時間:午後5時45分~午後6時45分
会場:起雲閣音楽サロン 
出演:中西俊博(バイオリン)、佐藤正治(パーカッション)、本藤美咲(バリトンサックス)

▼11月30日(日)
※主な演目
ワークショップ「熱海の迷宮道先案内人〈白いカモメ〉をつくろう!」
時間:午前10時半~午前11時半
会場:Eomo storeアトリエ   
講師:長峰麻貴(舞台美術家・造形教育研究家)

口琴のミニWS付き 熱海未来パレード 《波間から迷宮へ ― 口琴パレード ―》
時間:午前11時半~午後0時半
受付場所:EOMO store  
出演:長与江里奈(ダンス)、 佐藤正治(パーカッション)、サム・ベネット(パーカッション)、星衛(チェロ・和笛・電子獅子舞)ほか

ライブ「人形と鍵盤の白黒の行方」
時間:午後1時40分~午後2時40分 
出演:黒谷都(人形演劇) 、纐纈之雅代(サックス)

ライブ「緻密な一音に震える世界 佐藤允彦ソロ」
時間:午後3時半~午後4時15分
会場:起雲閣音楽サロン   
出演 :佐藤允彦(ピアノ) 

ライブ「巻上公一と熱海サンビーチ」
時間:午後5時~午後6時  
会場:起雲閣音楽サロン
出演:巻上公一(ボイス、テルミン他)、坂口光央(シンセサイザー)、サム・ベネット(ボーカル、パーカッション)

フィナーレ「境界賛歌 Anthem at the Edge」
時間:午後6時20分~午後7時20分  
会場:起雲閣音楽サロン
出演:佐藤允彦(ピアノ)、黒谷都(人形演劇) 、纐纈之雅代(サックス)、巻上公一(ボイス、テルミン他)、坂口光央(シンセサイザー)、サム・ベネット(ボーカル、パーカッション)

■チケット料金など詳細は公式サイト(http://www.makigami.com/atamimirai.html)を参照。参加申し込み、問い合わせは電話(080-5447-5151)、メール(makigamioffice@gmail.com)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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