【沼津移住者のコミュニティー「umineco」メンバーとの語らい】「ラブライブ!サンシャイン!!」から生まれる新しい「聖地移住」の在り方とは

静岡新聞論説委員がお届けする、アートやカルチャーに関するコラム。今回は、沼津市への移住者でつくるグループ「umineco(うみねこ)」が9月15日に同市大手町の新聞店「NewStand+」で開いた「オープンカフェ」を題材に。筆者はゲストスピーカーとして招かれた。(文=論説委員・橋爪充)

オープンカフェは「新聞活用講座」として開催した。新聞の読み方のヒントを解説する読者プロモーション局の担当者

沼津市を舞台にしたアニメ作品「ラブライブ!サンシャイン!!」をきっかけに同市へ移住した人々が2023年に設立したuminecoは、定期的な交流会や勉強会など行い、地域の実情について学びを深めている。情報のやりとりはSNSのDiscordで行っているが、登録者は200人を超えている。この日は、作品と沼津市の関係の深まりを過去の新聞記事で紹介してくれというオーダーだった。

筆者は2015年3月から2019年3月まで、沼津市にある静岡新聞社東部総局編集部に在籍し、「ラブライブ!サンシャイン!!」が沼津の街に浸透していく過程をつぶさに取材した。現時点から振り返っても、これはかなり幸運なことだったと言える。

「ラブライブ!サンシャイン!!」と沼津の関わりを新聞記事で紹介する筆者

テレビ放送第1期が2016年7月スタートで、しかも静岡新聞社と一体で事業活動を進める静岡放送(SBS)での放送だったこと。さまざまな人の縁があり、沼津市を訪れるファンたちとかなり早いタイミングで接触できたこと。最大の幸運は、本作が語るに値する作品だったことだ。

2018年1月4日付静岡新聞で、本作と沼津の関わりをテーマにした見開き特集をつくった。いま、この紙面を見ると取材に基づいた年表の2015年2月28日に「プロジェクトがスタート」とある。この日発売の「電撃G'sマガジン」(KADOKAWA)の見開きページに沼津市内浦のビーチが掲載されたことを指している。

筆者はこの日付の2週間後に辞令を受けて沼津市取材活動をスタートさせた。そして2016年3月に「ラブライブ!サンシャイン!!」関連の取材を始めた。2019年3月の本社への異動までに、50本以上の記事を書いた。

この間に、沼津市民は本作をはっきり認識し、低下気味だったシビックプライドを高めていったと思う。「沼津、いいところですよね」というファンたちの言葉が、商店街の店主たちにどれだけ力強く響いたことか。

そして今、沼津市に移住したファンが100人規模で存在する。彼らは沼津を愛し、沼津のために何かできないかを考えている。今回の「オープンカフェ」でそのことを強く感じた。これも「作品の力」と言えるだろう。

「聖地巡礼」から一歩進んだ「聖地移住」の在り方は、アニメファンや行政の関係者だけでなく、一般の市民の関心も高い。沼津に集った「ラブライブ!サンシャイン!!」のファンが、その新しいモデルを作ってくれるのではないかと期待している。
 

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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