
洋輔さん(左)とSPACの宮城聰総監督
「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」とは?
今回、洋輔さんが訪れたのは、JR東静岡駅近く、グランシップにある「静岡芸術劇場」。SPAC芸術局長の成島洋子さんが、さっそく劇場を案内してくれました。成島さん:この芸術劇場と、日本平にある舞台芸術公園を拠点に、俳優や演出をする人、舞台や衣装を作る人、お客様に向けて広報や営業する人などがひとつの劇団として、年間を通して活動しています。
洋輔さん:そんなSPACの皆さんがゴールデンウイークにイベントをされるんですね。
成島さん:はい。今年はSPAC設立30周年ということで、これまで毎年開催していた国際演劇祭を『SHIZUOKAせかい演劇祭2025』に一新。たくさんの人に楽しんでいただける企画をご用意しています。

駿府城公園全体が「PLAY! PLAY! PLAY!ガーデン」になり、プレイ=遊ぶ・演じる・楽しむと、演劇のテーマパークのようにさまざまな切り口で楽しめる仕掛けです。パフォーマンスやダンスはもちろん、俳優やアーティストによるワークショップ、静岡の食が味わえるガストロノミー広場や、パーソナルモビリティの試乗会など盛りだくさんな「PLAY!WEEK」になるそう。
なかでも成島さんのおススメが、SPACの新作野外劇「ラーマーヤナ物語」。その舞台稽古を、洋輔さんも見学することに。
人の手が創り上げる壮大な叙事詩「ラーマーヤナ物語」
今回の「せかい演劇祭」のプログラムの一つ、SPACの新作野外劇「ラーマーヤナ物語」。古代インドの英雄ラーマを中心に、超能力を持つ動物や神秘的な武器が登場する冒険譚です。壮大な物語をSPACの舞台に組み立てているのが、脚本、演出も手掛ける芸術総監督の宮城聰さん。舞台では、俳優が稽古の真っ最中。宮城さんのもと、せりふや細かい動き、タイミングまで、何度もくり返しながら作り上げていきます。巨大な人の足が行き交う中を、サルのハヌマーンがあたりをうかがいながらすり抜けたり、大きな鳥の翼を何人もの俳優が操演したり、それに合わせて太鼓が打ち鳴らされたり。

洋輔さん:皆さんの熱気と集中力、すごいですね。ドキドキします。
稽古の合間に、ラーマーヤナ物語について宮城さんに話を聞きました。
洋輔さん:まるでゲームの世界を感じさせる世界観ですね。
宮城さん:そうなんです。今の時代、映像ならCGで作れそうなことを、俳優が生身で、しかも目の前で何のトリックもなく、壮大な世界に見えるかどうかを、みんなでトライしてるところです。
宮城さんが狙うのは観客の想像力。神秘的な物語を小道具や音楽を工夫して組み合わせることで「映像で見るよりもさらに巨大な宇宙のようなものが、お客様の頭の中で再現されれば」と話します。
宮城さん:こんなのが空を飛んでいるんだな、(足だけを見て)すごく大きな人が出てきたな、とお客様に想像してもらう。そのために舞台にカケラみたいなものを出す、そういう手法です。視覚より想像力の方が大きなものを見られることを証明できれば。

創作の場は、30周年を迎えたSPACの、次の世代へ伝えたいメッセージでもある、と宮城さんは言います。
宮城さん:今回、俳優が30人出演します。ずっと一緒にいる仲間も、新しく加わった若い人もいます。前からいる人から若い人への伝授みたいなものも今回の作品のテーマなんです。
洋輔さん:舞台稽古を拝見したとき、じゃあ始めて、という合図でパチっとスイッチを入れたのかと思うぐらい、皆さんがスッと集中して、舞台上に世界ができあがったので、感動を覚えました。そういう集中力は、集団が共有してつながっていくイメージ、美意識みたいなものから生まれてくるのかもしれない。
宮城さん:演劇って誰かと一緒に作らなくてはいけない、そこが面白いんですね。人と人とのつながりやぶつかり合いの中から、何かが生まれて化学反応が起こる。それを若い人たちにも伝えたいんです。
客席と舞台が一体化する野外劇の魅力
そして、野外劇へのこだわりも。
洋輔さん:『ラーマーヤナ物語』は駿府城公園の特設ステージで上演されるということですが、野外で上演することへのこだわりは?
宮城さん:風が吹けば木のざわめきが聞こえてくるし、薄暗くなった空に鳥が飛べば観客はそっちを見ます。野外でやることによって、俳優は自分たち以外の情報に負けないパワーみたいなのを発揮しなきゃいけなくなります。もう一つは、舞台と客席の敷居が全くない感覚です。観客も風に吹かれ、小雨が降れば同時に濡れる。一つの空間の中に演者と観客がいて、同じ時間を共有しながら時間を一緒に作っていくことこそが、最大の魅力だと思っています。それらを共有しているからこそ、新しい何かが生まれてくる、それが野外劇の魅力ですね。
「ラーマーヤナ物語」のキャストを彩る衣装作り
次に洋輔さんが向かったのは、静岡芸術劇場の衣装室。俳優さんたちが身にまとう衣装は、この部屋で作られます。壁には制作途中の衣装イメージイラストが貼られ、棚には素材となる布やパーツがズラリ。舞台衣装やファッションショーの経験がある洋輔さんも「すごい!工業用のミシンもありますよ!」とテンションが上がります。
話を聞いたのは衣装班チーフの清千草さん。清さん含め3人の衣装班スタッフと、外部スタッフ含めて5人で「ラーマーヤナ物語」の衣装を作ります。
洋輔さん:衣装のデザイン画も見せていただきましたが、インドの物語ということで、布をたっぷり使っていたり、立体的なデザインだったりしますよね。頭の中ですでにイメージができているんですか?
清さん:頭の中で考えて、実際にパーツを作っていく段階で、これはちょっと違うかなと、寄り道をすることもあります。監督の宮城さんと相談して、イメージに沿うように直しながら作りますね。
衣装室にはほぼ完成形が見えているものも。
洋輔さん:透け感があって、目の粗いコーヒー袋みたいな素材が何枚も重ねられていて、すごくカラフル。どんなイメージで考えられたんですか?
清さん:これは老齢のハゲワシ、ジャターユスの衣装です。稽古中に大きな翼をもった人たちが出てきたと思うんですが、その鳥です。みんなで右翼と左翼を演じる際、中心にいる俳優さんが着ます。ワシは自然の中にいるので自然素材を主に使って、クタクタ感が出ると年齢みたいなものも表現できるかなと思って。他にも、例えばハヌマーンというサルとその仲間は、布を裂いて編み込んでメッシュ状にしています。自分たちで身に着けるものを作ったという設定で、自分たちで編んだイメージなんです。

洋輔さん:なるほど!そういうバックストーリーもいろいろ考えながら作られているんですね。
実際に俳優さんが袖を通し、動いてみてから微調整をすることもあるそう。そんな衣装の作り手から見た「ラーマーヤナ物語」の魅力とは?
清さん:ジャターユスの翼を何人もが一緒に動かすように、いろんな役を何人もが協力して演じるところがSPACの舞台の見どころ。野外のステージで衣装がどういった見え方をするのかも含めて楽しんでほしいですね。
洋輔さん:衣装の雰囲気や素材感を楽しめたら、壮大な物語の世界観に入って行きやすくなるんじゃないかな。本番まで大変だと思いますが、めちゃくちゃ応援してます!

宮城聰さんからのメッセージ
今年の「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」は、演劇が街中にしみ出していく企画を用意しています。普段見慣れた景色がちょっと見慣れないものになる、自分が普段いる空間でさえも「こんな楽しいことがあるんだ、こんなに面白い街に住んでいたんだ、なかなか捨てたもんじゃないな」と実感していただけるのではないでしょうか。特に「ラーマーヤナ物語」は老若男女全ての方に楽しんでいただける作品です。ぜひお越しいただければと思います。こちらも注目!「ラクリマ、涙~オートクチュールの燦めき」とは?
「SHIZUOKAせかい演劇祭2025」のパンフレットを見ていた洋輔さんが「タイトルにオートクチュールというワードが入っているのが、僕にビビッと引っかかった」と話すのは『ラクリマ、涙~オートクチュールの燦めき』。フランスのストラスブール国立劇場の作品です。フランス・パリのメゾンやアランソン地方の伝統的なレース工房、インド・ムンバイの刺繍工房を舞台に、英国王妃のウエディングドレスを作る物語です。華やかな世界を支える職人さんの人間模様やドラマは、演劇だけでなくファッションに興味がある人も必見です。<DATA>
■SHIZUOKAせかい演劇祭2025
2025年4月26日(土)~5月6日(火・休)
静岡芸術劇場、舞台芸術公園、駿府城公園ほか
『ラーマーヤナ物語』4月29日、5月2〜6日 会場:駿府城公園 紅葉山庭園前広場
『ラクリマ、涙 〜オートクチュールの燦めき〜』5月4〜6日 静岡芸術劇場(グランシップ内)
SPACホームページ