
国内製、安定供給可能な新タイプ飼料
「木から牛のエサを作っています」と話すと、皆さんに驚かれますが、実は牛の主な栄養源であるセルロース(繊維)は、紙の主成分と同じなんです。そもそもは紙の原材料である木材チップの用途拡大策を検討する中で、「成分が同じなら、飼料として活用できるのではないか」というアイデアが生まれたのが開発のきっかけです。
日本製紙バイオマスマテリアル事業推進本部 バイオマスマテリアル販売推進部長代理 岩崎和博さん
2013年から研究開発を始め、2015年からは国内の研究機関と共同で、有効性に関する研究を重ね、2019年からは畜産・酪農家の協力を得て実証実験を行ってきました。その結果、「元気森森」はトウモロコシ並みの高いエネルギー量を持つうえ、牧草に比べて消化率が高いことから、エネルギー摂取効率が高い飼料であることがデータで裏付けされました(※注)。純度の高いセルロースを抽出
消化率が高いのは、牛が消化できないリグニンという成分を取り除いた、純度の高いセルロースだからです。紙パルプを製造する際も、木材チップからリグニンを取り除く処理を行っており、その技術を応用しました。.jpg)
25年2月現在、北海道から九州まで全国22件の畜産・酪農家やTMRセンター(混合飼料を製造、販売する拠点)で採用されています。
製紙会社である私たちが、全くの異分野に参入したので、当初は分からないことばかりでした。牧場では飼料をミキサーに入れて、他の飼料と混ぜて牛に与えることが多く、牧草は「ロールベール」という形に梱包されているのが一般的ですが、「元気森森」は当初、紙と同じようなシート状の製品しか用意してありませんでした。酪農家の方から「使いづらい」と指摘を受け、2021年に宮城県の岩沼工場に新たな梱包設備を導入し、現在はシート状とロールベール状の2種類の製品を作っています。

「元気森森」シート(左)とロールベール(右)
「林畜連携」で環境保全に貢献
「元気森森」の原材料は紙パルプと全く同じで、森林の間伐材や原木を製材する際に出る端材が中心です。森林を保全するには、適度な伐採・間伐が欠かせません。「元気森森」が原材料の国内調達にこだわっているのは、国内森林の環境保全につなげる目的もあります。また、輸入乾牧草のように天候や為替の影響を受けることが少ないため、安定供給を図ることができます。私たちは「元気森森」を通じて、林業と畜産をつなぐ「林畜連携」を進め、持続可能な農林業に貢献したいと考えています。※注 独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)「飼料の公定規格」木材クラフトパルプと国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構「日本飼料標準成分表」2009年版の数値に基づき自社比較
牛の乳成績向上に手ごたえ 片野牧場(函南町)
「丹那牛乳」の主要な生産者の一つである函南町の片野牧場は120頭の乳牛を飼育しており、2023年9月から「元気森森」を導入、1頭につき1日2️㌔を牧草やコーンなどを配合した飼料に混ぜて与えています。社長の片野恵介さんは「牛の健康状態の向上に手ごたえを感じている」と話します。「元気森森」を知ったのは、丹那地区で「酪農王国オラッチェ」を経営する酪農王国社長西村悟さんの紹介がきっかけ。西村さんは「元気森森」の協力牧場募集を知り、「輸入飼料が高止まりする中、持続可能な酪農を進めるためにちょうどいいと思い、すぐに片野さんに相談した」と明かしました。

「『元気森森』を導入し、牛の乳成績に変化が見られた」と話す片野さん(右)と西村さん
導入後、乳脂肪率に変化
ただ、サンプルを見せられた片野さんの率直な感想は「牛が食べるとは思えない」。それでも、先行して導入している牧場で牛の乳量・乳質アップなどの結果が出ていると聞き、「試験だけなら」と、少量与えてみたところ、意外にも牛は抵抗感なく食べたため、量を徐々に増やしていきました。「元気森森」導入から2~3か月後、生乳のデータに変化が表れ、乳脂肪率が上昇したことが確認されました(グラフ1)。また、牛は暑さに弱いので、夏場はストレスで食欲が減退し、乳量が減りがちですが、片野牧場では2024年7~9月の平均乳量がいずれも前年を上回る傾向が見られました(グラフ2)。片野さんは「昨夏は猛暑だったにもかかわらず乳量が下がらず、むしろ上がったのには正直驚いている」と振り返ります。

牛の乳量・乳質を高めるには、牛が健康であることが欠かせません。特に、牛が持つ4つの胃のうち、ルーメンと呼ばれる第1胃が重要で、ルーメン内が酸性に傾く「ルーメンアシドーシス」という状態になると、セルロースを分解する微生物が死滅してしまうため、消化不良になり、乳房炎や食欲減退、乳脂肪率の低下を招くとされています。一方、「元気森森」は消化速度が穏やかなため、ルーメン内のpHを一定に保つ傾向があります(特許第5994964号)。酪農家歴20年の片野さんは「これまでの経験と生乳のデータを踏まえると、『元気森森』が牛の健康状態の維持改善につながっていると感じている」と話します。
持続可能な酪農業を目指す

牛を手厚く世話する片野さん=函南町の片野牧場
夏場の暑さを和らげるために、牛舎にウオーターベッドを導入するなど、牛の健康維持にひときわ気を遣っている片野牧場。現在は従来の配合飼料に「元気森森」を上乗せして与えているため、飼料代は若干増えましたが、片野さんは「牛の乳成績を考慮すると、コスト的には十分に折り合いがついている」と評価します。片野牧場では町内のカット野菜工場で捨てられていたニンジンやゴボウの皮を餌に混ぜるなど、食品残渣(さ)の活用にも取り組んでいます。西村さんも「輸入飼料にいつまで頼ることができるか将来は不透明。丹那地域の酪農を持続させるためには、今のうちからさまざまな対策を講じて備えることが大切。国産飼料『元気森森』が広く普及すれば、食料自給率アップにもつながる」と期待を寄せています。
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■日本製紙「元気森森」
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使用事例は日本製紙グループHPへ