
(橋本)岸田文雄首相は13日、過去の税金滞納を認めた神田憲次財務副大臣を事実上更迭しました。神田氏が代表取締役を務める会社が保有する土地・建物の固定資産税を過去に滞納した経緯が発覚し、国会審議への影響は避けられないと判断しました。
(山田)14日付の静岡新聞朝刊でも取り上げられてますね。解説をお願いします。
(橋本)神田さんは、当選4回、衆院愛知5区の選出です。党内では最大派閥の安倍派に所属していて、大分県出身。名古屋市に事務所を持つ税理士として活動していましたが、2012年の衆院選に立候補して初当選しました。
ところが2013年から2022年までの間に、自分の会社が所有する名古屋市内のオフィスビルの固定資産税と都市計画税を滞納して、4回にわたって差し押さえを受けていたことが、今月の報道で明るみに出ました。
ご本人は、2013年から国会議員としての国政の業務が忙しくなって、督促状などへの対応は税理士事務所のスタッフに任せていたので、自分は関知してなかったと説明してます。
(山田)信じるか信じないかはあなた次第…ですかね。
(橋本)財務省の主要な業務に予算編成がありますが、もう一つ重要な業務として税制をどうしていくかというところも考えています。副大臣は国民に対して、税金をしっかり納めるよう呼びかける立場なので、当然、「副大臣が税金をちゃんと納めてないのは何事だ、役職にはふさわしくない」と批判を浴びて、辞めざるを得なくなりました。
辞めた形にはなってますけども事実上は首相の方から「辞めてください」という求めがあってそれに応じたということだと思います。
(山田)政治の世界で言う「事実上更迭」って、どういうことなんですか。
(橋本)「事実上」と付いてるのは、形としては自分で辞表を出してそれが受理されたので、「自分で辞めました」ということになるからです。しかし、実質は任命権者から「もうあなたは役職にふさわしくないからやめなさい」という指示を受け、辞めさせられたということです。
(山田)2012年に衆院選に立候補して当選し、2013年から22年までの間に滞納が4回あった。
(橋本)4回もということなので、あまりにも多いし、しかも税理士じゃないですか。税金に一番精通している方なので、その方が自分の納めるべき税金を納めてなかったというのは「私は知りませんでした」では済まないですよね。
(山田)税金のプロなのに。現在副大臣だったわけですよね。
(橋本)今年9月の内閣改造のときに任命された26人の副大臣のうちの1人です。そのとき副大臣26人、政務官28人が任命されましたが、不祥事で辞めたのは神田さんで3人目。しかも10月下旬から、立て続けに3人辞めたということになります。
(山田)どんな方がいましたっけ。
(橋本)最初は文部科学省の政務官だった山田太郎さん、その次が法務副大臣だった柿沢未途さんですね。山田さんは女性問題、柿沢さんは少し前にあった江東区長選での公選法違反事件に関与した疑惑で辞任しました。
岸田政権にとっては大きな打撃
(山田)そもそも岸田政権がいろいろ言われている中、9月に選んだ人たちに立て続けに不祥事があり、岸田首相としても痛手ですよね。(橋本)大きな打撃になると思います。岸田内閣は、一昨年10月の政権発足以来、支持率が今最低に落ち込んでいるんですね。30%を切ったと言われてます。
この3人の辞任はそれにさらに追い打ちをかけるんじゃないかと。この後、いろんな世論調査が行われると思いますが、そこでも厳しい数字になるんじゃないかと思います。
岸田首相は来年秋に、任期切れで自民党総裁選を控えています。衆院解散・総選挙をやることによって自分の求心力を高める目的があると言われますが、そういう意味で、本人としては総裁選の前に解散したいと考えているわけです。
選挙は勝たなくてはいけないので、勝てる時期がいつかをずっと見極めようとしていたんですが、そのうちにどんどんスケジュールが厳しくなってきました。スケジュールの問題に加えて、自分の内閣の支持率が下がっていますから、解散して総選挙をした場合に、議席を大きく減らす可能性がありますよね。
(山田)そうですね。
(橋本)地方選が最近行われていますが、自民党には厳しい結果が出ているので、国政でも大きく議席を減らす可能性があります。そうすると、岸田首相が責任を問われる立場になります。来年の総裁選を目指しているのに、その前に選挙をやって負け、責任を問われて辞任しなくてはいけなくなるのでは本末転倒です。だから、なかなか選挙をやる時期を見通せないという状況になっています。
解散の時期としてよく言われるのは、国会の冒頭や会期末です。来年1月に通常国会を開きますが、その冒頭か、それが終わる6月頃が解散の時期としてあり得ると思います。ただ、世論調査で内閣支持率30%を切ると、「危険水域」だと言われるんです。今その状況ですので、ここで選挙というのも難しいです。
(山田)盛り返すことができれば良いですけどね。
(橋本)自身の政策等が認められて盛り返せればいいですけど、今の状況が続くようだとちょっと解散を打てないんじゃないかということだと思います。
(山田)経済対策もどういうふうに、効果が出るか。内閣改造の話も、前の「3時のドリル」でしていただきました。
(橋本)9月の内閣改造の時に少し取り上げましたが、まず閣僚を変えてその後、副大臣と政務官を任命したんです。閣僚には過去の内閣でも最多の5人の女性を起用し、「さすが女性活用」ということで、「頑張ってるな」という感じになったんですが、その後発表した副大臣と政務官では、54人いるうちに1人も女性を任命しなかったんです。
批判を受けるのは分かっていても、1人も女性を起用しなかった理由としてよく言われているのは、自分が来年の総裁選で勝つために派閥の支持が欲しいからだ、ということです。派閥からは「この人を副大臣にしてください、政務官にしてください」という要望が来ていますから、それに応えた結果、女性は1人もいなかったという状況になったとみられています。
総裁選で勝つために考えた人事が、結果、悪い方向に行っています。女性問題で辞めた文科省の政務官は、教育行政に携わる立場ですよね。同じく辞任した法務副大臣は、公選法という法律に違反した疑惑が持たれている。しかも今回の神田さんは財務省の副大臣であり、もともと税理士なのに、過去に税金を滞納していたわけです。
女性を起用しなかったことで批判を浴びた時、首相が繰り返したのが「適材適所」という言葉で、「この任務にふさわしい人を選んだ結果だ」と説明したんです。でも、これじゃもう、それぞれふさわしいとされたテリトリーで不祥事を起こし続けているということになりますからね。
(山田)これだけ不祥事が続いてるじゃないですか。選ぶ前に調べられなかったんですか。
(橋本)「身体検査」という言葉を聞いたことがあると思います。小泉純一郎内閣の頃から盛んに言われるようになったんですが、内閣改造などの時に、スキャンダルがない人かどうかを事前に調べて、「この人は大丈夫だろう」ということで任命するんです。今回もおそらく行われたんですが、それが甘かったということじゃないかと思います。
(山田)そういうことなんですね。
派閥の言いなりになったことが裏目に
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(橋本)今回、人事が固まったのが遅くて時間がなかったということも言われているようですが、もう一つは、ある程度派閥を信用したということもあると思います。派閥から言われた人に対して「この人はふさわしくない」とは、ちょっと言いにくい部分もあるんじゃないでしょうか。そういうことが重なってこういう結果になったと。
(山田)ちょっと派閥の言いなりになりすぎて、いろいろ甘いところが出てきてしまったということですね。
(橋本)なぜ派閥の言うことを聞くかというと、来年秋に総裁選で再選したいからです。だけど、言うことを聞いたがために、こうして不祥事が相次いで、結果的に自分の支持率が下がってしまった。党内では「岸田さんのもとでは次の選挙は戦えないよね」という話になってくる可能性があるのではないでしょうか。そうすると、「やっぱり自分が総裁を目指します」と言う人が出てくるかもしれない。
(山田)今日の解説を聞いて、何かちょっとかわいそうになってきました。良かれと思ってやったことが全部駄目な方向に行っている。
(橋本)今のところは裏目に出てるということで、なかなか厳しいんではないかなと思います。
(山田)というわけでとても勉強になりました。今日の勉強はこれでおしまい!