【ジェンダーフリー】性同一性障害の原告が勝訴した経産省トイレ訴訟 でも最高裁の判断が一般化されない理由

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ジェンダーレス・ジェンダーフリー」。先生役は静岡新聞論説委員長橋本和之です。
※SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」で放送したものを編集しています。

(橋本)先日、戸籍上は男性で、女性として暮らす性同一性障害の50代の経済産業省職員が、省内で女性用トイレの使用を不当に制限されたとして、国に処遇改善を求めた訴訟の上告審判決で、最高裁が制限を認めないとの判断を示しました。

(山田)ジェンダーレス、ジェンダーフリーに関するニュースですね。

(橋本)先週ある大学の新聞講座で、朝刊から三つニュースを選び、興味を持ったニュースについて4、5人でディスカッションしてくださいというプログラムを行いました。三つのニュースのうちの1つが経産省のトイレの話題だったんですが、10あったグループのほとんどがこの話題を選んでいたので、今回チョイスしてみました。

(山田)僕の勝手なイメージですが、若い人のほうが関心が高い気がしますね。

(橋本)職員は裁判で、戸籍上は男性だけど女性の容姿で、十分職場に馴染んでいるし、トイレの使用制限は人格権を制限したもので違法だ、と主張して争ってきました。これに対して国は、他の一般職員の性的羞恥心などの問題で不安を感じる人もいるので、制限は合理的ですよ、という主張をしてきました。

一審の東京地裁では制限は「違法ですよ」という判断をしたんですが、高裁では逆に「国の判断は間違っていない。原告の敗訴ですよ」となりました。ですがそれがまた最高裁でひっくり返った、という流れです。

(山田)なぜひっくり返ったんですか。

(橋本)ジェンダー問題については、まだ世論が分かれてますよね。理解度も関心もまちまち。統一された考えが固まっていない状態でどこを見るのかで、裁判所の判断も変わったのかなと。

性的少数者の人権救済を重く見たのか、一般の人たちの感情や不安を重視したのか。その結果判断が分かれた、ということじゃないかなと思います。

最高裁判決は「今回のケース限り」 根拠は“閉ざされた空間”と“周囲の理解”


(山田)これからジェンダーレスの法律ってガンガンできていきそうですが、今回の最高裁の判決はそれに影響しそうですね。

(橋本)ただ、最高裁は判決で「このケースに限ってのことですよ」と言っているんです。例えば一般の公共トイレや公共施設について、この判決が一般化されるのものではない、と注釈をつけているんです。

(山田)なぜなんですか。

(橋本)職場というある程度閉ざされた環境での話だからです。原告の方は経産省に男性として入ったけど、その後性同一性障害と診断され、途中から女性の身なりをして仕事をするようになりました。その過程でちゃんと職場で説明会をして、周りの理解もある程度進んでいて、なおかつトラブルも特になかったという経過がありました。

ところが、トイレも普通に女子トイレを使わせてほしいと言ったところ、制限をされたわけです。例えばこのラジオのスタジオは6階にありますが、今回の職員が6階に勤務していたとすると、女子トイレを使いたかったら4階か8階のトイレに行ってね、5・6・7階でトイレに行きたいなら男子トイレを使ってください、といった形の制限です。

最高裁は、周りの理解もある職場で、この方のようにトイレの使用を制限されるというのは合理的ではないですよね、と判断したわけです。

(山田)周りの理解や職場という制限された環境下での判決ですよと。

(橋本)そうですね。当然「公共施設はどうなるの」という点が問題になりますが、それは別途議論してくださいというのが最高裁の判断です。

先月LGBT理解増進法も成立しましたが、LGBTなど性的少数者の方がトイレに入ってくると不安だ、という人も中にはいます。そこはまだまだ社会の理解が進んでいないと思います。

(山田)今後どうなっていけばいいと思いますか。

(橋本)性的少数者のみなさんが、差別や今回の問題など「性的少数者だから」という理由でいろんな不利益を受けている。それをできるだけ解消して行く方向に社会が進むのは、もう時代の流れだと思います。

一方で、性的少数者が抱える問題が世間に理解されていない、またそういった方たちに不安を感じる人たちがいるのが現状なので、そこを同時に解消していくように理解を進めることが必要です。

あとトイレの問題だと、例えば男性も女性も、もちろん性的少数者も使える「オールジェンダートイレ」というものが、ポツポツ出来始めているんです。こういった環境整備も同時に進めていくということが大事じゃないかなと思います。

(山田)今回のトイレのニュースから、われわれが考えていかなきゃいけない、話し合っていかなきゃいけないところが見えてきますね。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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