はじめての富士登山!どんな準備が必要ですか?富士宮山岳会・前会長の工藤誠志さんに聞きました

「人生で一度は富士山に登ってみたい」

突然ですが、あなたは富士山に登ったことがありますか?

筆者はずっと「人生で一度は富士山に登ってみたい!」という思いを抱えていました。ところが、3年前コロナ禍に突入…。「このまま一生、登らないで終わるのかな…?」と思いながら数年過ごしていました。

が、今春からコロナも5類に移行!国内外の旅行客が急増し始めました。富士山世界遺産登録は今年で記念すべき10周年!

そんな中、静岡新聞社編集局の記者が「富士登山のポイント」を専門家に取材すると聞きつけ、筆者も「はじめての富士登山」についてのアドバイスを聞かせてもらおうと同行しました!

お話をうかがったのは静岡県の「富士宮山岳会」前会長の工藤誠志さん。初富士登山は中学2年生のとき、富士登山回数は約200回という、国内外の登山をして半世紀以上のベテランです。

富士宮山岳会・前会長の工藤誠志さん

登山保険やレジャー保険の加入について

筆者:「はじめての富士登山」にあたってどんなことに気をつければいいですか?

工藤さん:登山口によって頂上との標高差は違いますが、標高差の大きいルートほど、時間をかけて登るようにしましょう。

例えば、富士宮口を登るとしたら、1泊2日の日程の計画が良いです。富士宮口は標高差1400mと、高山病にかかりやすい場所です。そのような場所ほど、ゆっくりと体を慣らしながら登山をするようにしてください。

今年も山小屋の予約が開始され、人気の宿・日程がもうすでに埋まってきています。途中で一泊する旅程を考えている人は、早めに山小屋を確保しておくのをお勧めします。

また、事故が起きる可能性も考え、保険に入っておくことをおすすめします。「登山保険」や「レジャー保険」は安いもので数百円からあるので、事前に調べて入っておきましょう。

最近では、WEBで手続きが完了するものもあります。富士登山は、転倒、落石、高山病などの事故や病気になりやすい山なので、山岳保険に入ることも検討して下さい。

また、登山する前には、運動をして体調を整えていきたいですね。体力づくりのため、日常でできるトレーニングとしては「階段の上り下り」などもおすすめです。

高山病にならないために…

工藤さん:富士山は標高が日本一高い場所。行く前に高山病への対策をしておく必要があります。とはいっても、体質などの関係もあるので、「必ず事前にコレをやっておけば大丈夫」というものがあるわけではないのですが…。

もし実際に登るまで時間があるのなら、近くの低山登山をしたり、標高の高い場所に行ったりして、なるべく高いところに長くいる機会を増やすことをおすすめします。いわば「高地トレーニング」ですね。体が高地に慣れ、高山病になりにくくなります。

また、「水泳」やマスクをしての「ランニング」など肺を鍛えるためのトレーニングも高山病対策になります。

直前にできる高山病対策としては、登る直前でもいいので5合目でなるべく長く過ごすことをすすめます。標高が高いところは酸素が薄いので、歩き出す前にその高さに体を慣れさせる時間をかけることが大事です。

もし時間に余裕があれば、5・6合目の宿で1晩過ごし、身体を慣れさせてから登るのがおすすめです。その点からも、夜間に往復する「弾丸登山」は好ましくないです。

実際に登るときのペースとしては、山小屋がある場所ごとに休憩を取る(およそ30分〜1時間間隔)など、気をつけて行うことで高山病にかかりにくくなります。また、定期的に水分を補給することも大切です。

筆者:女性のほうが高山病に強いと聞いたことがありますが。

工藤さん:経験上その傾向はあると思いますが、身体の構造的なものだけでなく、男性のほうが早く登りたがる人が多いのも原因なのではと思っています。

最低限必要な装備は?


筆者:
富士登山の際、最低限必要な装備はどのようなものでしょうか?ブランドの登山用品は、高価なイメージがありますが…。

工藤さん:ブランドものにこだわるより、靴底のしっかりとした登山靴と雨具、防寒具、手袋、ライト、小銭(トイレの利用料金や買い物用)は最低限必要ですね。

富士山は、砂石の登山道です。登山靴は、砂が入りにくいように足首部分が高めで、靴底のしっかりしたものを。更にスパッツで足首をカバーし、砂が靴の中に入らないようにすると良いです。

雨具は、上下分かれているレインコートを。山頂は平地の気温より20度以上低くなるといわれているため、途中で羽織れるような防寒具を持っていると安心です。

手袋は、転んだ際の怪我対策です。軍手でもよいので、何か手にはめていると安全に登山ができます。

紹介したものは、どれもアウトドア用品店や業務用ウェアの専門店などに売っているもので大丈夫ですが、特に靴と雨具は防水機能に優れ、身体にぴったりと合うものを購入したほうが安心です。

レンタルなどの選択肢もありますが、特に靴に関しては足に合うもので、履き慣れたものの方が良いと思います。

ライトは登山に時間がかかり、周りが暗くなったときのためです。可能であればヘッドランプを用意しておきましょう。暗い中でも遠くを見渡しながら両手を自由に使うことができ、便利です。

また、少しでも楽に登山するために、必要なもの以外待たないで、荷物の軽量化を心掛けて下さい。

筆者:酸素ボンベなどは持っていったほうがよいでしょうか。

工藤さん:携帯型の酸素ボンベは、症状が出てしまった人にその場で回復を促す対策には役立ちますが、量が少ないので、楽に登ることにはつながりません。「持っていくのをやめ、荷物の軽量化につなげる」という判断をしてもよいのではと思います。

また、持っていく水なども、「途中からはその場で買ってしまう」方が、重さによる疲労は少なくなります。トイレ用(※使用時に料金を数百円払うことになっています)や水を買うため、「小銭」を多めに持っていったほうがよいと思います。

筆者:ヘルメットや杖などは必要でしょうか?

工藤さん:ヘルメットは、転倒や落石の時には、頭部を保護します。杖(ストック)も、歩行バランスに役立ちますし、体重の分散をさせ、登山も下山も楽になる効果があります。

心配な人は持っていった方が良いかもしれません。ただ、普段使い慣れていない人にとってはどちらも邪魔になる可能性もあり、重さも負担になります。

筆者:その他に必要なものはありますか?

工藤さん:富士山は高度が高い山なので、平地より20度以上寒いです。霧や雨が出れば服や手袋、靴下などに水分が染み込み、体温を更に下げてしまう可能性もあります。服や手袋、靴下の替えを持っていくと安心です。

覚えておいてほしいことの1つとして、高山病の症状を比較的誰でも判断しやすい方法に、唇や爪が紫色になってしまう「チアノーゼ」という現象があります。

疲労感が出て歩きづらくなり、この現象が起きている人は、十分な酸素が血液を通じて体にいきわたってない可能性が高く、下山を促す際の判断になります。

病気でチアノーゼが出る人もいますので、家族や友人などと登山する人は、普段の状態と比較してチェックしてみてください。

「無理だと思ったら早めの下山を」

工藤さんは「誰に対しても言えるのは、登山前にはしっかり休息を取っておき、無理そうだな、と思ったら早めの下山を。他の山より登山道やトイレなどは整備されていますが、富士山は日本一高い山だということを忘れないようにしてください」と呼び掛けています。

ただ、大変な分、日本一高い富士山に登ったときの達成感は格別!とのこと。幸運にも、ご来光を見ることができれば、何度見ても感動してしまうのだとか。

登山の予定がある方は、ぜひ今回ご紹介した「最低限の準備」は必ずしっかり用意して富士登山に臨んでくださいね!(文:小松原みほ)

静岡新聞SBS有志による、”完全個人発信型コンテンツ”。既存の新聞・テレビ・ラジオでは報道しないネタから、偏愛する◯◯の話まで、ノンジャンルで取り上げます。読んでおくと、いつか何かの役に立つ……かも、しれません。お暇つぶしにどうぞ!

あなたにおすすめの記事

人気記事ランキング

ライターから記事を探す

エリアの記事を探す

stat_1