
4月30日、NPBファームリーグ・くふうハヤテベンチャーズ静岡が発表した新加入選手の名前に関係者がざわついた。社会人野球の強豪・NTT東日本で正捕手してプレーし、U-23(23歳以下)侍ジャパンでは主将を務めた野口泰司捕手が10日に行われたトライアウトを受験し、入団が決まったからだ。
今季、捕手登録の選手は3人のみだったくふうハヤテにとっては、活躍が待ち遠しいまさに即戦力。高校、大学、社会人と3度のドラフト指名漏れを経験した苦労人は、覚悟を持って静岡の地に足を踏み入れた。期待の新戦力に今後の展望や自身の強みを聞いた。
(SBSアナウンサー・松下晴輝)
退路を断った野球エリート
野口選手は 2001年2月7日生まれの24歳。チーム内では、巨人から派遣中の山田龍聖投手や深谷力捕手(静岡・飛龍高出身)、松田憲之朗内野手らと同学年。いわゆる“ミレニアム世代”だ。
愛知県出身で身長は180cm、体重96kgと体格も良く、パワフルな打撃や強肩も魅力のまさに“強肩強打”の捕手。愛知・栄徳高から名城大へと進み、卒業後は、都市対抗野球2度の優勝(前身含め)を誇る社会人野球の強豪・NTT東日本で正捕手の座を勝ち取り活躍、2024年はU-23(23歳以下)侍ジャパンで主将を務め、『WBSC U-23ワールドカップ』優勝に大きく貢献した。

「野球エリート」と呼ぶにふさわしい華々しい実績を持つ野口捕手だが、高校、大学、社会人とこれまでに3度、ドラフト指名漏れを経験している。そこで、“四度目の正直”となるドラフト指名に向けて、退路を断った。
4月10日に行われた野手・捕手トライアウトを受験した野口捕手。「バッティングよりは、スローイングの速さやブロックといった守備能力のレベルの高さを見せたかった」と手応えは良かったと語る。NTT東日本を3月で退社すると、公園やバッティングセンターで自らを磨き続けてきた。
1年通じて12球団と真剣勝負
野口捕手が“勝色”のピンストライプのユニフォームに初めて袖を通したのは、5月3日の中日ドラゴンズ戦。チームの扇の要を務める以上、チームメイトとのコミュニケーションは欠かせない。取材したこの日も、練習では複数の投手の球を受け、積極的に話しかける姿が見て取れた。
実はトライアウトを受験するまで、「くふうハヤテ」というチームについてほとんど知らなかったという野口捕手。ただ、2軍とはいえ、1年間を通してセ・パ12球団と真剣勝負する球団の姿に「プレーの質の高さを感じたし、ここなら自分もさらに向上できる」と確信したという。

ベンチ入りした試合では早速、守備から戻る選手へハイタッチで迎え入れ、チーム最年少の松本陣内野手(静岡・知徳高出身)に肩組みをされ、白い歯を見せるなど、チームに溶け込もうとしている。試合後にそのシーンについて話を聞くと「ちょっと舐められてるのかな」とおどけながらも、「先輩・後輩関係なく絡みにきてくれる選手が多いのでありがたい」と笑顔だった。新天地では、イジられ役からボケ・ツッコミまで「すべてこなせます」とチームの良い雰囲気づくりにも一役買ってくれそうだ。
チームの柱に、そしてドラフト指名へ
くふうハヤテの大きな目標のひとつは、ドラフト指名だ。実績は十分ながらも、これまで3度の指名漏れを経験している野口捕手にとっても、チームに加入する上では、大きく意識したという。
2024年、阪神タイガースから育成指名を受けた早川大貴投手は、レギュラーシーズンでの活躍はもちろん、7月に行われるフレッシュオールスターやシーズンオフのフェニックスリーグと、くふうハヤテの選手だからこそ得られるアピールの場を生かし、羽ばたいた。
経験豊富な“即戦力捕手”は、多くのチームが喉から手が出るほど欲しい存在のはず。まずはシーズンでどんな活躍を見せられるか、注目だ。

チーム合流から間もないがファンや首脳陣からの期待の声は高まっている。赤堀元之監督も「バッティングも力強いし、試合を作れるリードや肩といった魅力もある。楽しみな選手に来てもらった」。静岡の野球ファンを魅了するようなプレーと、新加入でもチームを引っ張るキャプテンシーを見せられるか。まさにチームの柱となる活躍が待たれる。