終盤戦の快進撃。PO徳島戦の勝利へ”安間ジュビロ”を支えるゲームチェンジャーの存在

サッカージャーナリスト河治良幸

リーグ最終戦でサガン鳥栖に勝利し、5位で昇格プレーオフに進出を決めたジュビロ磐田。安間貴史監督が就任してから、磐田は7試合で5勝1分1敗というJ2最高勝率の数字を残している。その理由は複合的だが、短期間でチームが大きくギアを上げた背景には、途中出場で試合の流れを変える“ゲームチェンジャー”の存在が欠かせない。ただベンチに置くだけではなく、安間監督は全員に明確な役割を示し、責任と自覚を植え付けている。

スタメンには「ベンチには試合を決められる選手がいる。だからスタートは自分の役割を全うしてくれ」と伝え、体力の出し惜しみを許さない。ハードワークの基準が全員に共有されることで、チーム全体の強度が底上げされた。山形戦で角昂志郎のクロスに合わせて劇的な同点弾を決めた、センターバックのヤン・ファンデンベルフは安間監督が指揮した全ての試合にフル出場しているが、ゲームチェンジャーの価値をこう語る。

「スタートから出た選手たちが身を粉にしてチームのために戦う姿を見ているし、途中から入る選手の特長も性格も理解しています。最後の30分、新しい血が入ることで相手にとって脅威になっている。自分の経験でも、これほどゲームチェンジャーがスタメンと同じように戦い、同等のクオリティを持って気持ちをピッチに持ち込んでくれるチームは無かった。本当に素晴らしいチームだと思います」

安間監督は交代について「スタメンの選手は分かっていても、途中で代えられるのは不愉快だと思う。でもチームが勝てばいい。スタメンはスタメンの仕事をしろ。それをコントロールしようとするなら使わない」と語る。その方針をベンチメンバーもいる前で伝える。役割が明確だからこそ、選手は与えられた時間で全力を尽くす。安間監督の信頼もさることながら、やはりJ1昇格という明確な目標がチームの矢印を一つに向けていることは間違いない。

ゲームチェンジャーの象徴的な存在がマテウス・ペイショットだ。愛媛戦、山口戦、鳥栖戦でアシスト、山形戦では待望のシーズン10点目を決め、すべて途中出場で結果を残している。また愛媛戦と山口戦ではオウンゴールを誘発し、実質的な貢献は数字以上だ。安間監督は彼のクオリティの高さを認めつつ、相手との接触で倒れた後になかなか起き上がらない”悪癖”や、守備の二度追い、オフの動き直しなどを改善点として、全体ミーティングで本人に伝えた。もちろんペイショットだけに求めるのではなく、全員に同じ基準を示すことで、ペイショットの意識改革を促した。

そのペイショットはゲームチェンジャーの役割について「全員で勝つということを監督もよく言っていて。途中から入る選手がここ最近、試合の流れをいい流れに持ってってる。(井上)潮音だったり、(川﨑)一輝だったり、(川合)徳孟だったり。すごいパワーがある選手たちなので。スタメンに繋いでもらったバトンをしっかり勝利、勝ち点に変えられている」と語る。

川﨑も終盤の流れを変える重要なカードだ。山形戦では右からのクロスでペイショットへのアシストを記録し、最終節の鳥栖戦では終盤に同点とされた直後、投入からファーストプレーのロングフィードが、リカルド・グラッサによる決勝点の起点となった。「自分の役割は理解している。ハードワークしつつゴールやアシストに関わる。泥臭さが持ち味」と川﨑。正確なキック、スピード、ゴールへの貪欲さがチームに火を点ける。

井上はゲームチェンジャーの中でも異質な役割を持つ。現在の3−5−2の中盤の守備強度が肝であり、スタメンの中村駿、金子大毅、上原力也の攻守に渡る貢献は大きい。井上は彼らの誰かからバトンを受ける形で投入される。もちろん守備強度を落とさないように振る舞いながら、攻撃ではライン間で受け、キープし、アクセントを加える。山形戦の同点弾も井上がセカンドボールを拾い、角へ繋いだボールが起点だった。

18歳の川合は安間監督の”初陣”となった甲府戦でスタメン出場。決勝点になったスーパーゴールが話題を集めたが、徳島戦で0-4の大敗を経験。その後はスタメンからは外れていたが山口戦、山形戦、鳥栖戦と終盤に流れを引き寄せる役割を担った。相手陣内の密集でもボールを扱う技術が突出している川合は「自分に合った特長を見せられれば、流れを変えられる」と自信をのぞかせる。ロス五輪を目指すU-22日本代表の10番は、プレーオフのヒーロー候補だ。

鳥栖戦で2トップとしてスタメン起用された角も、それまでの数試合はゲームチェンジャーとして勝利に貢献してきた。試合を前へ進める推進力は代えの利かない武器で、勝負所の落ち着きと感性の鋭さも心強い。どういう形で起用されても、攻撃で違いを生み出す存在になりうる。

さらに為田大貴、グスタボ・シルバ、佐藤凌我、ブラウンノア賢信、森岡陸など、試合の流れや相手の狙いに応じて投入できるカードが揃う。グスタボは安間監督の初陣となった甲府戦でスタメン起用されたが、アキレス腱の違和感により、ここ数試合を欠場していた。

本来グスタボはスタメン候補にもなりうる実力者で、安間監督も「だから甲府戦でスタートから起用しました」と認めるが、彼がいない危機的な状況を残りのメンバーで乗り越えてきた事実もある。「今、彼がいなくても交代選手を増やせて、数字も出てきているので。(グスタボが)それをどう上回るかになってくる」と安間監督。この数試合にいなかった分、徳島側も対策しにくい存在であり、磐田に強力なプラスアルファを与えるオプションとして、影のキーマンと言える存在かもしれない。

安間監督体制の磐田は、スタートメンバーとベンチメンバーの両方に明確な役割と信頼を共有し、90分を通して勝利のために戦い抜けるチームを作り上げた。昇格プレーオフのファイナル進出がかかるアウェーの徳島戦で、改めてゲームチェンジャーたちの存在価値が試される。
(文:サッカージャーナリスト河治良幸)
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タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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