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熱海土石流2週間 日常いつ戻る

 熱海市伊豆山の大規模土石流は、発生から2週間が経過しました。現場で行方不明者の懸命の捜索が続く一方、被災者は生活再建に向けて少しずつ進み始めています。これまでの経過と最新の情報をまとめました。
 〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・尾原崇也〉

依然15人不明 重機本格投入 捜索加速へ

 熱海市伊豆山の大規模土石流の発生から17日で2週間。これまで主に手作業だった現場に15日から、重機が本格投入され、行方不明者の捜索は加速する見通しだ。一方、土石流の最上部の土砂が不安定なため静岡県などが警戒を続け、住宅が損壊を免れた人も含め、被災現場への立ち入り規制が続く。二次災害リスクが、復旧や支援を阻んでいる。

前日から中型重機が使用可能になり、作業が迅速化した捜索現場=16日午前、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
前日から中型重機が使用可能になり、作業が迅速化した捜索現場=16日午前、熱海市伊豆山(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
 警察、消防、自衛隊による捜索活動は1300人態勢で行われた。小型と中型の重機計19台を投入し、倒壊家屋が密集する場所でがれきの撤去に当たった。現場には依然、濁った水が流れ込み、作業が一進一退を繰り返す場所も少なくない。「行方不明者を早く、親族に会わせてあげたい」。捜索に当たる関係者は言葉に力を込める。
 被災者の避難生活は長期化の様相だが、生活再建支援に向けた動きも出始めた。
 県によると、県と熱海市が市役所に開設した住まいに関する相談窓口の予約件数はこれまでに計71件。15、16の両日で20組が相談に訪れた。ただ、被災者生活再建支援法に基づく支援金の給付やローン減免、仕事、通学といった多様な相談にはまだ応じられていない。市は7月中に罹災(りさい)証明書を順次発行する方針で、その前提となる家屋の被害調査にドローンの空撮写真を活用する方向だ。
 市によると、504人が避難所になっている市内ホテルに身を寄せている。県は、盛り土崩落箇所への雨水流入防止など二次災害を防ぐ応急対策を講じるが、1カ月以上かかる見通しだ。
 市社会福祉協議会は15日夜、災害ボランティアの事前登録を一時停止した。既に約3800人が登録してくれたものの、活動開始のめどが立たないため。担当者は「心苦しいが、被災者のニーズを聞きながらボランティアができる活動を探りたい」と述べた。
〈2021.7.17 あなたの静岡新聞〉

7月3日の災害発生から16日までの経過表

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被災者、住宅の悩み深刻 「もう戻れない」 「仮住まい入居いつ」

 熱海市伊豆山で発生した大規模土石流で、静岡県と市が市役所内に15日開設した「住まいの相談窓口」には、被災者のさまざまな悩みが寄せられた。県は公営、民間賃貸住宅への入居時期の目標を「8月いっぱい」としているが、入居に必要な罹災(りさい)証明の手続きが始まっていないのが実情。生活再建の道のりは険しい。

被災者の住宅に関する相談に応じる静岡県職員=15日午後、熱海市役所
被災者の住宅に関する相談に応じる静岡県職員=15日午後、熱海市役所
 県によると、同日訪れた被災者10組のうち9組が住宅の流失や一部損壊などの被害を受けた。「避難所にはいつまでいられるのか」「仮住まいにはいつ入れるのか」。被災者の問いに、県の担当者が今後の流れや各種補助制度などを説明した。
 ただ、実際の被災状況が確認されない限り、公営住宅などに入居することはできない。市によると、罹災証明の手続きが始まるのは7月下旬の見通し。通勤、通学、通院先との兼ね合いや地域コミュニティーの継続に不安を感じる被災者も多いという。
 市によると、15日だけでも52件(午後4時時点)の相談申し込みがあった。県建築住宅局の星野浩二局長は「責任を持って住宅を確保し、被災者の安心につなげたい」と話す。

 苦渋、移住やむなし
 熱海市役所に15日開設された「住まい相談窓口」を訪れた会社員志村信彦さん(40)=同市伊豆山=は、倒壊家屋が密集する岸谷(きだに)地区の自宅が土石流に流された。現在は市内の実家に身を寄せている。妻(39)、長男(7)、長女(4)は市内の妻の実家で暮らしている。
 「家族4人で生活できることが第一。子どもの学校のことも踏まえて、新学期までに決められたら」と今後の生活を見据える。
 土石流発生当時、自身は長男と外出中で、妻と長女が在宅していた。土砂で家に閉じ込められた妻子を助けてくれたのは近所の住民たちだった。
 「感謝しても、しきれない。ばらばらになりたくない思いはある」と話す一方、「今はあそこに住み続ける思いはない」と苦しい胸中を明かした。
〈2021.7.16 あなたの静岡新聞〉

お堂半壊も「逢初地蔵」ほぼ無傷 被災住民「奇跡」 心慰める

 大規模土石流で大きな被害を受けた熱海市伊豆山の浜地区で、長年信仰の対象とされてきた地蔵が無傷で残り、被災で疲弊した住民の心を慰めている。

浜地区で無傷で見つかった「逢初地蔵」=16日午後、熱海市伊豆山(地域住民提供)
浜地区で無傷で見つかった「逢初地蔵」=16日午後、熱海市伊豆山(地域住民提供)
 古くから「逢初(あいぞめ)地蔵」の名で住民に親しまれてきた。木彫で大きさは1メートルほど。大量の土砂が押し寄せて損壊した「逢初橋」から南へ30メートルほど下った場所で、お堂の中に安置されている。
 土石流災害でお堂は半壊したが、地蔵はほぼ無傷の状態で残っていた。付近一帯は現在立ち入り規制区域に指定されている。地元住民は「周囲にこれだけ大きな被害が出ている中で、まさか無傷とは」と驚きを隠さない。
 地元住民によると、制作者や設置年数などは定かではないが、少なくとも50年前には安置されていたという。多くの住民が小さい頃から身近に感じ、住民有志が毎月、念仏をあげるなどしていた。
 逢初地蔵を長年管理する伊豆山浜生協会は規制解除後、すぐにお堂の修復や地蔵の手入れを行いたいとしている。代表理事の中田正さん(59)は「奇跡だと思う。これを励みに地元のみんなで乗り越えたい」と話した。
〈2021.7.17 あなたの静岡新聞〉
地域再生大賞