熱海土石流と盛り土 関係究明へ
熱海市伊豆山の大規模土石流では発災当初から、起点の逢初(あいぞめ)川上流部にあった「盛り土」との関係に注目が集まり、国や静岡県、熱海市は因果関係を究明する姿勢を示しています。これまでに分かってきていることをまとめます。
初期の情報をまとめた 「熱海土石流 盛り土との因果関係は」(7月6日掲載) の続編です。ぜひあわせてご覧ください。
〈静岡新聞社編集局TEAM NEXT・松本直之〉
川勝静岡県知事 盛り土は「条例違反」 原因と手続き検証へ
熱海市伊豆山の大規模土石流災害で被害を拡大させたとされる起点付近の盛り土の工法について、静岡県は13日、盛り土の崩壊や流出を防ぐために定めた県土採取等規制条例に違反し、土石流発生の一因になったとする見解を発表した。関係部署でつくる2チームで発生原因究明と行政手続きの検証を第三者を交えて進める。

県は土石流の発生について、①7月1~3日の積算雨量が過去10年間で最高の449ミリを記録②盛り土の高さが通常より高い35~52メートルなのに崩壊を防ぐ適切な工法を採用せず―という複合的な要因だとしている。
川勝知事は検証作業に関して「公的な情報は全て公開するのが基本的な姿勢。目下の条例を厳しく改めることが目的だ」と説明した上で、崩落した盛り土の行政手続きについて「条例上、罰則が(事実上)なかったこともあり、指示にとどまった。2度と被害が起こらないようにする」と法令を見直す考えを示した。罰則が厳しい法整備の必要性にも改めて言及した。
同条例を巡っては、山林に土砂を不正に埋め立てる問題が県内各地で相次いでいたことから、違反事例の共有に向けて県と県内35市町が6月末に連絡会議を設置したばかりだった。一部市町からは届け出制になっている県条例を許可制に変更するよう求める声も上がっていた。

<メモ>県土採取等規制条例 宅地造成や林地開発、廃棄物処理などの法律の網に掛からない盛り土や切り土、土の埋め立てが対象。面積1ヘクタール未満の場合、工法などを記した計画書を市町に届け出る必要があり、技術基準に合っているか審査される。基準に違反した場合、市町は計画変更や工事停止の命令を出せるが、従わない場合の罰則は「罰金20万円以下」で実効性がないとする見方もある。市町が独自の条例を制定すれば県条例に優先される。
崩落面に人工物露出、産廃か 残存盛り土には亀裂確認
熱海市伊豆山で発生した大規模な土石流の起点付近で、崩落した盛り土の断面に産業廃棄物とみられる多くの異物が露出していることが、12日までの静岡新聞社の取材で分かった。崩落せずに残存している盛り土の地表部分に亀裂が入っている様子も確認した。

異物を現地で確認した静岡大防災総合センター長の北村晃寿教授(地質学)は「赤色と青色の平板状の物質は青瓦の破片と推定される。明らかに人工的な異物だ」と指摘。亀裂については「今後、小規模な崩落は確実に起きる。それが続くことで斜面の角度が増大すると、より大きな崩落が起きても不思議ではない」と説明する。
これまでの県の調査によると、土石流の起点付近を巡っては2010年8月、市から連絡を受けた県が盛り土の中に産業廃棄物の木くずの混入を確認し、神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)に撤去を指導。同年11月に木くずが搬出されたことを確認した。11年2月、土地は現所有者に渡ったとされる。断面に確認できる異物が埋められた時期は明らかになっていない。
流出土砂「大半盛り土」/時速30キロ超か
熱海市伊豆山の大規模土石流災害を巡り、静岡県は8日、発生後に取得した逢初(あいぞめ)川流域の詳細な地形データを踏まえ、流れ下った土砂の総量が約5万5500立方メートルとする分析結果を発表した。盛り土があった土石流最上部以外では地盤がほとんど削られていないことも確認した。県庁で記者会見した難波喬司副知事は、下流に流出した土砂の大半が盛り土だったとする見解を示した。

分析結果によると、土石流最上部は5万5500立方メートルの土砂が減少。その約400メートル下流側の砂防ダム(容量4200立方メートル)付近には7500立方メートルの土砂が堆積した。ダムを乗り越えた土砂は相模湾まで流れ下っているのがデータで裏付けられた。難波副知事は「(流れ下った土砂の)かなりの部分が盛り土とは言える」と説明した。
県は土石流発生直後の現場の状況から土砂総量を約10万立方メートルと推定していたが、修正した。
県は盛り土付近の土地改変状況を確認するため、05年以降の土地状況や土砂搬入を示す写真や映像の提供を呼び掛けている。提供先は県土地対策課メール<tochitaisaku@pref.shizuoka.lg.jp>。問い合わせは同課<電054(221)2223>へ。
〈2021.7.9 あなたの静岡新聞〉
■土石流 時速30キロ超か 京都大が撮影動画分析
熱海市伊豆山で発生した大規模土石流が、時速30キロを超えるスピードで住宅を押し流したとする試算結果を、京都大防災研究所の松四雄騎准教授(水文地形学)が8日までにまとめた。住民らが撮影した動画や画像などを分析した。
土石流の起点の画像から、松四氏は2回か3回の土石流が発生したとみる。このうち被害の大きかった2回目のものとみられる2カ所から撮影された動画に着目した。
付近の建物と、流されるがれきの動きから土石流の速度を割り出すと、急勾配の場所では時速29~32キロに達し、海に近く傾斜が緩やかな場所でも時速約22キロだった。
2回目は1回目より大規模で、経路が湿って滑りやすくなっていたことも影響し、速度が増した可能性がある。
松四氏は「人の足より速く、避難するには流れと直角に逃げるか、頑丈な建物に上るしかない」と指摘。起点には盛り土の一部が残っており「3日より少ない雨でも崩れるかもしれない」と監視の必要性を強調した。
〈2021.7.9 静岡新聞朝刊から〉
識者評論 静岡大・岩田特任教授「極めて特異な災害」
熱海市伊豆山で発生した大規模土石流は、逢初川上流部で崩落した盛り土が被害を拡大したとされる。人工的に造成した地盤が地震や豪雨で崩れる災害は過去にもあるが、5万5千立方メートル超の土砂が下流まで一気に流れ込み、人家の密集する地域を襲うような災害は全国的にみても「極めて特異」だと言える。

不適切な盛り土などの土地改変については今後、国も災害の再発防止に向けた法令改正などの検討を進めるだろう。今回と同様の問題は伊豆半島の他の地域をはじめ、県内外に点在している。人命に関わるだけに、施工済みの土地に対しても法の規制が適応される制度にするべきだ。
発災から1週間がたち、今後は安否不明者の捜索活動とともに、被災者の生活再建がより重要となる。これからの暮らしに不安を抱いている人は多いはずだ。復興の立ち遅れを防ぐためにも、航空写真を活用した罹災証明書の早期交付や住宅の復旧に向けた準備など、行政は先の見える施策を加速させる必要がある。
〈2021.7.10 あなたの静岡新聞〉⇒元記事「熱海土石流発生から1週間 捜索難航、住民の生活再建険しく」