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クラフトビールの「聖地」沼津・三島 高まる熱が新たな動き生み出す

 ここ数年、クラフトビール醸造所の誕生が相次ぐ沼津、三島。小規模ながら醸造所が集中するさまは「クラフトビールの聖地」といっても過言ではありません。しかし、活況の反面、各社共通の課題の一つが醸造時に発生するモルト(麦芽)かすの処理。この悩みの種を再利用し、循環型社会の構築を目指そうと共同で動き始めました。沼津、三島のクラフトビール醸造所の動きをまとめました。

モルトかす再利用「循環共生圏」目指す 10醸造所と沼津・三島市が連携

 静岡県内10醸造所でつくる静岡クラフトビール協同組合(沼津市)と、醸造所の多い沼津、三島の両市が19日、官民連携の組織を発足させた。醸造時に発生するモルト(麦芽)かすの飼料としての再利用などを進め、循環型社会の構築を目指す。

ビール醸造の際に出るモルトかす。クラフトビール醸造所では大半が産業廃棄物として処理される
ビール醸造の際に出るモルトかす。クラフトビール醸造所では大半が産業廃棄物として処理される
 新組織は「東駿河湾クラフトビール地域循環共生圏推進協議会」。同日、沼津市内で発足総会を開き、頼重秀一市長が会長に就いた。補助金が活用できる県の「ふじのくにフロンティア地域循環共生圏」の認定を目指す。
 本県は34のクラフトビール醸造所があり、豊富な水を擁する沼津、三島両市には8カ所が集中する。各社共通の課題の一つがモルトかすの処理で、大半が産業廃棄物として処分される。肥料や飼料、食料や化粧品の原料にも再利用できるが、再利用向けには醸造所ごとでは量が不安定で、引受先が見つかりにくいという課題があった。
 組合10社分では年間約300トンが集まるため、まずは脱水機の共同利用などの効率化を構想する。組合の片岡哲也代表理事(柿田川ブリューイング社長)は「モルトかす飼料で育てた畜産物をさらにブランド化したい」と、ビールと合わせた食の提案にもつなげたいと意気込む。
 沼津、三島の両市は企業のマッチングやイベント開催、国立遺伝学研究所(三島市)も発酵技術で連携する。協議会は2024年度に共生圏の申請を予定。県が認定した場合、事業費の3分の2、3年間で最大2千万円を各市に補助する。
 頼重市長は「県東部はクラフトビールの聖地。地域に根付いた産業として観光連携にも取り組みたい」と語った。
(東部総局・尾藤旭)
〈2024.03.20 あなたの静岡新聞〉

高まるクラフトビール熱 醸造所続々オープン 沼津・三島

 沼津市のクラフトビール醸造所「リパブリュー」が(2023年)3月、三島市で缶ビール製造を主体にした新工場を稼働させた。同市では同じ3月に「fete(フェット)三島醸造所」が醸造を開始。近隣の沼津市でも起業が相次いでおり、首都圏以外では異例の「クラフトビール集積地」が出現した形だ。互いに切磋琢磨(せっさたくま)し、品質向上と県東部の交流人口増を目指す。

大規模なモルト粉砕器、約5000リットルの発酵タンク8基を備え、県内有数の規模となったリパブリューの新工場=三島市
大規模なモルト粉砕器、約5000リットルの発酵タンク8基を備え、県内有数の規模となったリパブリューの新工場=三島市

品質向上へ切磋琢磨・交流人口増に期待  リパブリューの新工場「ナチュラル・ルーツ・スタジオ」は同社の新しい缶ビールブランドを展開するための拠点。米国発祥の人気スタイル「ヘイジーIPA」など4種の製造を始めている。
 地下77メートルからくみ上げた水を使い、製造後に残るモルトかすは堆肥化する。使用電力の4分の1を工場の屋根に載せた太陽光パネル50枚で賄う。畑翔麻代表(31)は「パネルをさらに増やしたい。サステナブル(持続可能)な醸造所を目指す」と意気込む。
 4月下旬からビール販売を始めるフェットは、沼津市のレストランバー「アイアイ」の立川大介代表(44)がオーナー。三島市では本格的なレストランの奥に、500リットルの発酵タンク5本を備える醸造所を整備した。
 開業に当たり「甘味果実酒」の免許も得た。「地元の産物を使って地域に貢献したい」と立川さん。表面の傷などの理由で出荷が見送られた沼津市西浦地区のレモンを使った、発泡性果実酒も製造する。「フランス料理に合う酒を提供する」とし、他の醸造所との違いを際立たせる。
 三島市で醸造所が増える一方、JR東海道線の隣駅、沼津でも昨年、二つの醸造所兼飲食店が開業した。酒販店「MUGI」(静岡市葵区)を運営し、ビールイベントも手がける「ZOO」の伏見陽介代表(29)は、2市同時進行の現象の背景について「首都圏から日帰りのビール旅行ができる立地が強み」と説明する。一方で過当競争の恐れもあるという。「クラフトビールという名前だけで売れる時代ではない。製品のブラッシュアップを続ける必要がある」と警鐘を鳴らした。
(教育文化部・橋爪充)
〈2023.04.04 あなたの静岡新聞〉

 

「モルトかす」有効活用の模索始まる

ご当地ビール悩みの種 土作りに活用 三島  ビールの醸造で大量に発生する麦芽の搾りかす(モルトかす)を堆肥に混ぜ、農地の土壌改良につなげる取り組みをJAふじ伊豆の三島函南地区本部が始めた。全国各地で製造が広がる“ご当地ビール”の生産者にとって、廃棄にコストがかかるモルトかすの処分は悩みの種。農業が盛んな箱根西麓で、有効活用に向けた新たな連携を模索する。

モルトかすを堆肥に混ぜる関係者=5月上旬、三島市
モルトかすを堆肥に混ぜる関係者=5月上旬、三島市
 同本部によると、堆肥にモルトかすを混ぜることで土壌が柔らかくなり、通気性と排水性が高まる。土壌に含まれる酸素が増えれば農産物の呼吸が促進され、良質な作物の生育につながるという。モルトが堆肥の発酵を促進し、有用菌を活性化させることで悪影響をもたらす細菌の抑制効果も期待される。
 一昨年に特産の三島馬鈴薯(ばれいしょ)を使った地ビールの製造を始めた際、JA職員が大量に出るモルトかすを土壌改良に生かせないか考えた。昨年からモルトかすを混ぜた堆肥の成分検査を実施。このほど、三島市内で醸造を開始したクラフトビール専門店「ティールズ・ブリューイング」が同本部の堆肥舎に200キロのモルトかすを持ち込み、約4トンの堆肥に混ぜ合わせた。
 同店代表社員の秋田克彦さんによると、全国的にクラフトビール醸造所が増加する中、「多くのお店がモルトかすの処分に困っている」という。お金を出して廃棄しているのが現状で、「有効活用してもらえるならありがたい。農業が盛んな箱根西麓だからこそ生まれた発想」と語る。モルトかすを混ぜた堆肥は8~9月にセロリの作付けに使用される予定で、市内の生産者は「病害の防除にもつながれば」と期待を込める。
(金野真仁)
〈2022.05.27 あなたの静岡新聞〉

静岡県内初、ビール協同組合の設立は2021年

クラフト6社 組合旗揚げ ビール「聖地」目指し 静岡県内初 共同で仕入れ、市場開拓

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「静岡クラフトビール協同組合」の設立に向け、打ち合わせする関係者=沼津市内(2021年5月17日)

※2021年5月25日 静岡新聞夕刊
 小規模醸造所が集中して全国有数のクラフトビール生産地になっている県東部の製造業者など6社が28日、県内初で全国でも珍しいクラフトビール専門の協同組合を設立する。新型コロナウイルス感染拡大に伴う外食や旅行の自粛ムードで、売り上げ減少に苦しむ中、共同して販売や仕入れなどに取り組む体制づくりに乗り出す。
 クラフトビール製造に参入した大手メーカーとの競合に加え、コロナ禍で主に飲食店への卸売りが不振に陥るなど、各社は厳しい経営環境に追い込まれている。以前からイベント参加などで交流があった各社は、団結して危機を乗り越え、地元業界と地域を盛り上げようと「静岡クラフトビール協同組合」の設立を決めた。
 初代理事長に就任予定の片岡哲也柿田川ブリューイング社長(36)は「県東部は富士山の湧水に恵まれた地域。クラフトビールの聖地を目指す。将来的には全県で仲間を増やしたい」と意気込む。
 新組合は新たな販売チャンネルとして各社のビールや関連雑貨を扱うホームページを作成する予定。製造の際に出るモルトかすを組合が買い取り、飼料として販売することで新たな収益も確保する。
 モルトやホップなどの原材料や資材をまとめて購入することで、仕入れコストの削減につなげる。イベント開催などを通じて、情報発信や業界の交流促進も図る。リパブリューの畑翔麻代表社員(30)は「国内ビール消費量のうちクラフトビールはわずか3%。消費が拡大する余地は十分にある。ローカルながらも多彩なクラフトビールを発信し、市場を開拓したい」と説明する。
 設立に向けた手続きは県中小企業団体中央会が支援した。押尾昌俊東部事務所長(48)は「組合になれば仕入れ先との交渉力や行政への発言力も強まる。このビジネスモデルがうまくいけば、全国的にも注目される」と期待している。
(八木敬介)
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静岡クラフトビール協同組合の構成(2021年5月)
 
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自社製品を手に組合創立総会で意気込む関係者ら=沼津市(2021年5月28日)
地域再生大賞