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療養中の子ども癒やし支える「ファシリティドッグ」

 静岡県立こども病院が2010年に全国で初めて導入した「ファシリティドッグ」。不安やストレスを抱える療養中の子どもを励まし、癒やしています。初代「アイビー」、2代目「ヨギ」に続き、現在は3代目の「タイ」が病院に常駐。ファシリティドッグの癒やし効果と、「タイ」の子どもたちとの交流を紹介します。

効果に太鼓判 終末期の緩和ケアでも役割 静岡県立こども病院

 療養中の子どもを支える「ファシリティドッグ」の存在が、終末期の緩和ケアや、恐怖を感じがちな治療や処置の場面で、大きな役割を果たしていることが、27日(※2023年7月)までの県立こども病院(静岡市葵区)などによる合同調査で分かった。医療従事者の間で「癒やし効果」は長らく指摘されていたが、病院関係者へのアンケートを通じ、数値で裏付けられた。調査結果は論文として国際科学誌に掲載された。

ファシリティドッグと交流する子ども=静岡市葵区の県立こども病院(シャイン・オン・キッズ提供)
ファシリティドッグと交流する子ども=静岡市葵区の県立こども病院(シャイン・オン・キッズ提供)
 調査はファシリティドッグを育成するNPO法人シャイン・オン・キッズ(東京都)などと実施し、同病院で活動を見た医療従事者ら270人の回答を分析した。終末期の緩和ケアについては癒やし効果があると答えた人が73%で、効果を強く感じた人の割合が最も多かった。自由記述欄には「終末期の子に笑顔がみられた」「子どもが求めていた」「本人や家族が苦痛から逃れ、一家団らんのように見えた」などと記入され、患者や家族に幸福感をもたらすことがうかがえた。
 論文を執筆した同NPO法人研究員の村田夏子さんは「看護師資格のあるハンドラー(ファシリティドッグの指導者)が院内の各部署と連携する体制を整えたことが、緩和ケアで効果を感じている背景にある。カンファレンス(院内の打ち合わせ)などでハンドラーが情報収集し、子どもと関わる頻度などを柔軟に判断している」とみる。
 緩和ケアに次いで高く評価された項目は「処置や治療に対する患者の協力の得やすさ」で、回答者の73%が効果を実感していた。ファシリティドッグが子どもに付き添うことで、子どもが怖がらずに手術室まで歩いて行ったり、痛みを伴う処置にスムーズに対応したりしている。院内の多くの看護師がファシリティドッグの扱い方に関する知識を習得しているため、病院関係者が敬遠せず多用できたことも効果を感じられた背景にあるとみられる。
 同病院は2010年、全国で初めてファシリティドッグを導入し、現在は3代目の「タイ」が常駐する。「犬を見た子どもが今日初めて笑った」などと保護者の評判は良く、新型コロナウイルス禍でも活動を続けてきた。同NPO法人は「癒やし効果が数値化されたので、全国での普及活動に生かしたい」と話している。
 (社会部・大須賀伸江)
<2023.7.28 あなたの静岡新聞>

退院した坂本君や子どもたちと磐田で再会

 療養する子どもたちを支える「ファシリティドッグ」の派遣事業を行う認定NPO法人シャイン・オン・キッズ(東京都)は9日、県立こども病院(静岡市葵区)のゴールデンレトリバー「タイ」と、同病院を退院した子どもたちとの交流イベントを磐田市のゆめりあで開いた。退院した5歳から高校生までの11人とその家族が、サッカーの試合を観戦しながらタイとの再会を果たした。

タイとの再会を楽しむ子どもたち=9日午後、磐田市のゆめりあ
タイとの再会を楽しむ子どもたち=9日午後、磐田市のゆめりあ
県立こども病院に派遣「そばにいてくれたから頑張れた」  参加した子どもたちはタイをなでたり、一緒に写真を撮ったりして交流を楽しんだ。小学1年のころに2度入院した穴山優里さん(8)=富士田子浦小3=は「採血をする時、(タイが)そばにいてくれたから頑張れた」と振り返り「再会できてうれしい。元気が出た」と笑顔をみせた。
磐田の坂本君がきっかけ、サッカーの試合に合わせてイベント  イベントは、肝細胞がんで同病院に入院していた坂本パトリック龍輝君=磐田豊田南中3=がきっかけ。手術費を支援するため募金活動を行ったサッカー女子・静岡SSUボニータ(磐田市)に、龍輝くんがタイの存在を伝えたことで、ホームゲームに合わせて開催が実現した。ハーフタイムでは、タイとハンドラー(指導者)の谷口めぐみさん(37)がグラウンドに登場。会場に詰めかけた観客やファンに、ファシリティドッグの活動を紹介した。
 タイは同病院の3代目ファシリティドッグ。手術室入り口まで同伴したり、リハビリ支援を行ったりするなど、入院中の子どもたちに寄り添う。谷口さんは「退院後の交流機会はなく、子どもたちは元気になった姿を(タイに)みせたいと思っている。イベントを通じて子どもたちを励ますとともに、ファシリティドッグの存在を多くの人に知ってもらえれば」と話した。
(磐田支局・崎山美穂)
<2023.10.11 あなたの静岡新聞>

坂本パトリック龍輝君の療養を支えたタイ

 肝細胞がんを患い、闘病している磐田市立豊田南中2年の坂本パトリック龍輝君(13)の母親らが、生体肝移植のための寄付を呼び掛けている。保険適用外のため、手術などに3千万円が必要。7月末の移植実現を目指し、母の坂本レチーシア・ユカリさん(33)=ブラジル出身=は「息子の命を救うために残された時間は少ない。助けてほしい」と訴えている。

県立こども病院に入院中の坂本パトリック龍輝君。動物好きで、ファシリティドッグとの触れ合いで笑顔を見せる=6月上旬、静岡市葵区の同病院(母のユカリさん提供)
県立こども病院に入院中の坂本パトリック龍輝君。動物好きで、ファシリティドッグとの触れ合いで笑顔を見せる=6月上旬、静岡市葵区の同病院(母のユカリさん提供)
 龍輝君は昨年11月から腹痛を訴えるようになった。当初は便秘や風邪と診断されたが、一向に改善せず、詳細な検査でがんと分かった。音楽が好きで「DJになりたい」と語っていた龍輝君。ユカリさんが夢を応援しようと、今夏にDJスクールに通わせる計画を立てているさなかだった。
 龍輝君は2月下旬から、県立こども病院に入院している。女手一つで兄妹2人を育てているユカリさん。仕事を休職して毎日、自宅と病院を往復し、息子の付き添いと娘の世話を何とか両立している。
 龍輝君は現在、抗がん剤治療を受けている。そんな中でも、病室からオンラインでクラスメートとおしゃべりすると、明るい笑顔を見せるという。ただ、抗がん剤の投与回数にも制限があり、ユカリさんは7月末までに生体肝移植の手術が受けられるよう準備を進めている。肝臓以外への転移は確認されていないものの、腫瘍の数が保険適用の基準を超えてしまっていて、費用は自己負担になる。
 ユカリさんの弟がドナー(臓器提供者)を買って出たが、がんが肝臓の約7割に広がっているため、難手術が予想される。ユカリさんは「龍輝は日本の暮らしや学校の友だちが大好き。これからも日本で成長し、生きてほしい」と願っている。
(八木敬介)
<2022.6.15 あなたの静岡新聞>
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