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まち全体で大規模水害防ぐ「流域治水」 静岡県内でも強化へ

 気候変動の影響でダムや河川堤防の能力を超える大雨が降るようになり、大規模な浸水被害が頻発している近年、まち全体で水害を防ぐ「流域治水」の取り組みが各地で進んでいます。静岡県内の自治体でも、昨秋の台風15号などによる甚大な被害をきっかけに対策を強化する動きがあります。1ページにまとめました。

2度の台風で2河川が甚大被害 磐田市が協議会設立へ

 磐田市の草地博昭市長は(10月)4日の定例記者会見で、昨年9月の台風15号などで周辺地域が甚大な浸水被害に見舞われた敷地川と一雲済川の流域治水対策を検討する二つの協議会を静岡県と設立すると発表した。激甚化・頻発化する豪雨災害に備え、近年の気候変動を踏まえたハード・ソフト対策を盛り込んだ水災害対策プランを本年度末までに策定することを目指す。

鋼矢板を土に埋める最終作業が進められている敷地川の決壊箇所=7月上旬、磐田市
鋼矢板を土に埋める最終作業が進められている敷地川の決壊箇所=7月上旬、磐田市
 同市では、台風15号と今年6月の台風2号に伴う豪雨で、敷地川の堤防が2度にわたって決壊した。一雲済川流域でも護岸の損壊や氾濫があり、周辺で浸水被害が広がった。市と県はこうした被害状況を踏まえ、本流の河川改修だけに頼らず、流域一帯で協働して効果的に防災・減災を図る対策を模索する。対策推進協議会の設立は一雲済川流域が10月下旬、敷地川流域が11月中旬を予定している。敷地川の協議会には袋井市も加わる。
 プランは(1)氾濫をできるだけ防ぐ(2)被害対象を減らす(3)被害の軽減、早期の復旧・復興の三つの視点で、河川の流下能力向上や排水路の機能強化、雨水貯留施設の設置、住まい方の工夫、避難体制の強化などの対策をまとめる方針。
〈2023.10.05 あなたの静岡新聞〉

浸水危険地域の建築を制限 2021年「流域治水法」成立

 まち全体で水害を防ぐ「流域治水」関連法が(2021年4月)28日、参院本会議で可決、成立した。浸水被害の危険が著しく高いエリアは許可なく住宅建築などができないようにする。ハザードマップ(避難地図)を大きな川だけでなく中小河川でも作成し、リスクを事前に周知。雨水を一時的にためる川沿いの低地を保全する仕組みも設ける。一部を除き10月末までに施行する。

 気候変動でダムや堤防の能力を超える大雨が降るようになり、大規模な浸水被害が多発。河川法など9本の関係法律を一括で改正し、開発規制や避難対策などを総動員、被害を最小限に抑えるまちづくりを目指す。
 建築許可制とするのは、川幅が狭いなど氾濫が起きやすい河川の周辺。都道府県知事が区域指定し、住宅や病院、高齢者・障害者向け施設は、居室の高さや強度を確認した上で許可する。最近の豪雨は住宅で多くの死者が出ており、浸水や倒壊のリスクを減らす。
 川沿いの水田などに雨水をためれば河川への流入量を減らせるため、指定エリアの開発行為は届け出制にする。民間ビルの地下に雨水貯留施設を設ける場合、費用を補助したり、税制面で優遇したりする。
 小規模な川でも氾濫被害が増えており、都道府県には中小河川の浸水想定区域を設定するよう求める。
〈2021.04.28 静岡新聞夕刊紙面から〉

巴川の浸水被害踏まえ静岡市 県に遊水地など早期整備要望

 静岡市の難波喬司市長は(9月)20日、静岡県庁に川勝平太知事を訪ね、県の2024年度予算編成に対する要望書を提出した。重要事項として、県が管理する2級河川巴川の流域治水対策の推進と、政令市が対象外になっている市町向けの県単独助成事業の取り扱いの見直しを求めた。市によると、市長が県に対して予算の要望活動を行うのは05年に政令市に移行して以来初めて。

川勝平太知事(左)に予算要望書を手渡す静岡市の難波喬司市長=20日午後、静岡県庁
川勝平太知事(左)に予算要望書を手渡す静岡市の難波喬司市長=20日午後、静岡県庁
 巴川については、22年9月の台風15号に伴う豪雨で、流域で甚大な浸水被害が発生したことを踏まえ、麻機遊水地(静岡市葵区)第2工区や河口水門の早期整備を求めた。巴川の浸水被害を軽減するために県が整備を進めている麻機遊水地は全4工区のうち第1、3、4区の計約109ヘクタールの整備が完了し、10年から最も広大な第2工区93ヘクタールの整備を進めている。水門は河川整備計画で41年までの整備目標が明記されている。
 県単独助成事業の見直しについては難波市長は「静岡市民がほかの市町の県民と同様の県税を負担していることを鑑みると、この取り扱いは市民に説明できない」と述べ、今後県単独助成事業を新設する場合に政令市も助成対象に加えるよう求めた。浜松市の中野祐介市長も12日、同様の内容で川勝知事に要望した。
 川勝知事は巴川の対策については「しっかりとやりたい」と同調した。県単独助成事業の取り扱いの見直しに関しては、03年に静岡市と締結した基本協定書の内容であり、慎重な姿勢が必要との認識を示しつつ、「両(政令)市長から(要望が)来ている。膝をつき合わせて前向きに検討していく」と応じた。
 難波市長は要望後の取材で「県と政令市は率直に意見交換することが大事」と述べ、今後も予算要望を続ける考えを示した。
〈2023.09.21 あなたの静岡新聞〉

静岡県、重点対策流域を追加 長期視点で減災へ

 静岡県は激甚化する豪雨災害に対応するため、流域全体で被害軽減を図る「流域治水」の考え方を取り入れた水害対策を強化する。昨年9月の台風15号による浸水被害を踏まえ、新たに県中部と西部の5流域を重点対策流域に追加した。従来型のハード整備だけにとどまらないさまざまな対策を組み合わせたプランをつくり、効果的な減災につなげる。

「重点対策流域」一覧
「重点対策流域」一覧
 5流域は興津川、庵原川、巴川、安倍川、都田川。地元自治体などと流域治水協議会を設置し、河川の氾濫を減らしたり、早期復旧を図ったりする「水災害対策プラン」を策定する。近年の豪雨被害を分析し、気候変動による氾濫リスクも加味して短期、長期の視点で対策をまとめる。
 全国各地で想定を上回る規模の豪雨災害が相次ぐ中、水害対策をダムや堤防だけに頼らず、避難態勢づくりや開発規制などを組み合わせる流域治水の考え方をプランに取り入れる。雨水を一時的にためたり、地中に浸透させたりして洪水を防ぐ施設の整備、河川改修、ハザードマップの周知、防災情報の共有化といったメニューを盛り込み、流域が一体となった効果的な治水につなげる。
 重点対策流域は以前から対策を進める10流域と合わせて計15流域となった。先行する流域では馬込川(浜松市)など既にプランを策定済みのところもあるが、台風15号被害を踏まえて見直し作業も進める。取り組みの実効性を高めるため、策定後も関係者の情報共有を図り、対策の進捗(しんちょく)状況を確認する。
 県によると、台風15号による床上浸水家屋数は1974年の七夕豪雨以降で最大規模の被害となった。河川企画課は「気候変動により水害が激甚化、頻発化している。早期にプランを策定し、被害の軽減を図っていく」としている。
〈2023.05.13 あなたの静岡新聞〉
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