野外音楽フェスFUJI&SUN 今年の見どころ、特徴は?
富士山の麓でキャンプをしながら音楽を楽しむ野外フェスティバル「FUJI&SUN’23」が5月13、14の両日、富士市の「富士山こどもの国」で開かれます。子ども向けの広大な遊び場が会場とあって、年々家族連れで楽しむ方が増えているようです。今年の見どころやフェスの特徴について出演者へのインタビューを交えながら1ページにまとめます。
木村カエラ、スガシカオら2日間で20組が出演 5月13、14日
キャンプと音楽ライブを中心に、アウトドアコンテンツを幅広く楽しむ野外フェスティバル「FUJI&SUN'23」(静岡新聞社・静岡放送、WOWOW共催)が5月13、14の両日、富士市の富士山こどもの国で開かれる。
同フェスは2019年に同じ会場で初開催。新型コロナ禍を受けた20年は中止したが21、22年は開催した。音楽ステージのほか、アウトドア関連の物販、野外活動に関するワークショップも行う。
◇日程
5月13日午前9時開場、10時半開演 14日午前8時開場、9時開演
◇会場
富士山こどもの国(富士市)
◇出演
EGO-WRAPPIN’(アコースティックセット)、折坂悠太、cero、never young beach、ハナレグミ、優河、吉原祇園太鼓セッションズ、木村カエラ、スガシカオ with FUYU、ブレッド&バター、ROTH BART BARON、ASIAN KUNG-FU GENERATION、岡田拓郎、君島大空、TOP DOCAほか
◇前売り券
県民割引で2日通し大人1万4500円、1日8000円。小中学生2日通し3000円、1日2000円。詳細は公式サイト(https://fjsn.jp)参照。
◇問い合わせ
実行委員会<電03(6427)3281>(正午~午後6時)
ステージは大きな楽器/三船雅也 こんなにアットホームな雰囲気の会場は珍しい /DJ・TOPDOCA
2日目は、シンガー・ソングライター三船雅也が率いるインディーロックバンド「ROTHBARTBARON(ロット・バルト・バロン)」で幕開け。昨年に続いて2度目の出演となる三船に、抱負を聞いた。
「昨年の『FUJI&SUN』は霧に包まれた幻想的な雰囲気の中での演奏でした。一瞬、霧が晴れて富士山が顔をのぞかせた光景は忘れられません。ステージはもう一つの大きな楽器。うまく鳴らせるか、響かせられるか。天候にも左右されるが、今回はあの場所にもう一度帰る感覚です」
「HOWL」は、新型コロナウイルス禍を経ての気付きがあふれているという。
「曲を作っているとき、オオカミが頭に浮かんできました。オオカミがほえるのは孤独からではなく、仲間がいるから。顔が見えなくても、直接的でなくても、つながりが取り戻せるのではないでしょうか。人間も言葉が生まれる以前、身体感覚としてほえていたのかも。現代は言葉に依存し頭で考えてしまう。AI(人工知能)が進化しても、人間のコアな部分に潜っていくのが歌。表面と深層をつなぐ役割があると考えています」
ツアーと同じ7人編成で「FUJI&SUN」のステージに立つ。「HOWL」の流れもくんで10曲程度披露する予定。
「全国ツアーは毎晩異なる空間を、異なる音色で満たしてきました。世界でも自信を持ってステージに立てる仲間。あの爆発力を、スケールの大きなステージで披露したい」
「FUJI&SUN」は、「心が静かになるフェス」とも形容する。
「昨年は自分のライブ後、小高い山で寝転んで音楽を聴きながら夕焼けを眺めました。富士山の雄大な自然、きれいな空気は他のフェスにはない心地よさ。キャンプグッズを購入したり、友人に再会したりして自分自身も楽しみました。フェスはお客さんが自分を解き放つ場所。僕らは、その自由な空間をどう作り出せるか、力量が問われます。非日常をゆっくり楽しんでもらいたいですね」
(教育文化部・岡本妙)
〈2023.05.02 あなたの静岡新聞〉
「こんなにアットホームな雰囲気の会場は珍しい 」 DJ・TOPDOCAさん
2019年の初開催以降毎回出演しているDJのTOP DOCA(トップ・ドカ)さん(46)=富士市=に、同フェスの特徴を語ってもらった。
いろんなフェスに行きますが、こんなにアットホームな雰囲気の会場は珍しいです。「フェス慣れ」していない子連れの方もかなりいらっしゃる。音楽とがっつり向き合う、というよりキャンプや遊び、ロケーションを全部楽しもう、というお客さんが多いのではないでしょうか。
会場では、メインステージの背後にドンと富士山が見えて圧倒されます。ステージとキャンプサイトをつなぐ道はちょっと起伏があって、迷路のよう。でも1日歩き回っていると、どこに何があるかがだんだん分かってくる。会場が自分のものになっていくような感覚が楽しいです。
出演者の音源を“予習”して行くことはありません。それまで知らなかったけれど、生で聴いたら素晴らしい。そんな音楽との出合いがこのフェスのだいご味です。2019年に見たブラジル人音楽家、エルメート・パスコアールが代表格。大人数のアンサンブルにグッときました。
今年の出演者ではEGO-WRAPPIN’のアコースティックセットが楽しみですね。ボーカルとギターのシンプルな編成だけに、中納良恵さんの歌声の素晴らしさが一層際立つはず。僕も13日に出演します。1960年代の(ジャマイカの)「スカ」が中心です。フェスの会場なので、皆さんがよく知っているカバー曲も織り交ぜようと思っています。
(聞き手=教育文化部・橋爪充)
〈2023.04.11 あなたの静岡新聞〉
地元フェス出演に思い「いつもより温かい気持ち」 アジカン後藤正文(島田市出身)
2日目の最後に演奏する4人組バンド「ASIAN KUNG―FU GENERATION」(アジアン・カンフー・ジェネレーション、以下アジカン)のボーカリストでギタリストの後藤正文(島田市出身)に、自身の“フェス観”、地元フェス出演への思いを語ってもらった。
「(フジロックと同じ年に)エアジャムも始まった。2000年前後には、仲間内ではフェスに行くのが当たり前になっていました。そうこうしているうちに自分たちのデビューが決まって。04、05年あたりは日本中のフェスに出ていましたね。邦楽のフェスが市民権を得たのはこの頃ではないでしょうか」
それから約20年。各地のフェスは地域に根付いた文化として認知されるようになった。
「フェスが飽和状態に陥って、どこに行っても(出演する)顔ぶれが変わらない時代もありましたが、今はいい意味でローカル化していますね。国内各地にさまざまなテーマを掲げるフェスがあります。音楽だけではなく、地元の物産やおいしい食べ物を打ち出して、それぞれに趣向を凝らしてやっている」
03年にバンド主催の「ナノムゲンフェス」を始めた。初期はライブハウスが会場だったが、徐々に規模を拡大し、05年以降は洋邦アーティストを招いて横浜アリーナで開催した(14年まで)。「フェス」という言葉には思い入れがある。
「『フェス』と名付けたのは、あこがれのような気持ちからでした。ユートピア的な場所ができるんじゃないかというロマンがあった。フェスは十数時間、ただ音楽を聴くだけの場所じゃない。長丁場なので、食事やトイレも含め、心地よく過ごせる空間かどうかが大事なんです」
アジカンのベーシスト山田貴洋は富士宮市出身。二人が出身県のフェスに出演するのは7年ぶりという。高い評価を得た22年の10作目のフルアルバム「プラネットフォークス」でコラボレーションしたROTH BART BARONとの共演にも期待がかかる。
「会場は富士サファリパークの奥と聞いています。富士山の近くは気分が上がりますよね。静岡に帰るのも久々ですし、選曲は『みんなが見たいアジカン』を考えて決めたい。地元の友達もキャンプがてら遊びに来ているそうです。いつもより温かい気持ちで演奏できるのではないでしょうか」
(教育文化部・橋爪充)
〈2023.04.25 あなたの静岡新聞〉
親子でハマる音楽フェス その魅力は?
※2022年6月3日あなたの静岡新聞より
増える家族連れ 過ごしやすく
5月中旬に富士市の「富士山こどもの国」で開催された「FUJI&SUN(フジ・アンド・サン)」は、子ども向けの広大な遊び場が会場。イベントとしての企画に加え、動物への餌やり体験や大型遊具の開放など、既存の設備を使ったさまざまな遊びが定番で、親子連れの支持が厚い。
子ども対象のアクティビティも充実する。今年は初めて、ヤマハ発動機(磐田市)の協力で親子バイク教室を開催。バイク初挑戦の小学生たちが、保護者のサポートを受けながら基本操作を学び、実際に走行を体験した。
会場では、この日が子どもの「フェスデビュー」と話す人も。5歳と2歳の息子をキャンプ用の簡易ベッドに座らせ、少し離れた場所からステージを楽しんでいた鈴木晋二さん(42)、紗織さん(32)夫妻=東京=は「フェスはずっと好きだったが、子どもができて控えていた。こういう場所なら子どもも楽しく過ごせると思って参加した」という。
泊まり客用のキャンプサイトも、ファミリー用の大型テントに対応した広い区画がある。プロデューサーを務めるWOWOW事業局の前田裕介さん(45)は「小さな子どもがいても無理なく楽しめる環境と、子どもにとっても楽しい空間づくりを意識している」と語る。
今年の来場者アンケートでは、5割近くが子ども連れを含む「家族連れ」と回答した。コロナ禍での中断を挟んで3回目の開催となったが、子どもを伴う来場者は「回を重ねるごとに増えている印象」という。
苦境から復活の兆し
コロナ禍は音楽フェスに大きな打撃を与えた。音楽フェスの市場動向を調査するぴあ総研(東京)によると、国内で流行が始まった2020年にはほとんどのフェスが中止になり、19年に330億円あった市場規模は97.9%減の6.9億円に激減した。21年も、一部で開催方法を模索しながら再開する動きが出たものの、市場の8割が消失したままの苦境が続いた。
今年はいわゆる「四大フェス」がそろって開催されるなど復活ムードが顕著だが、笹井裕子所長は「縮小開催が多く、市場規模はコロナ前の半分に達するかどうか」とみる。都内のイベントプロデューサーは「コロナ禍での現実的な運営規則ができつつあり、安心感も出てきたのでは。チケットの売れ行きが非常にいいフェスもあると聞く」と話す。
(西條朋子、橋爪充、矢嶋宏行)
〈2022.06.03 あなたの静岡新聞〉