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御前崎の一部市議 国に原発活用求める要請書 問題点は

 御前崎市議会の議長ら一部市議が、中部電力浜岡原発を含む既存原発の最大限の活用を求める議長名の要請書を、市議会に諮らず国に提出していました。地方議会の要望活動について具体的に規定する法律はありませんが、他の市議は要望活動をしたことも要請書の内容も知らされておらず、「不適切だ」との声が上がっています。経緯と問題点を整理しました。
 〈静岡新聞社編集局未来戦略チーム・寺田将人〉

民主主義揺るがす行為 立地市の閉鎖的な側面浮き彫りに

 御前崎市議会の議長ら一部市議が「既存原発の最大限活用」などを求める議長名の要請書を市議会に諮らず国に提出したことは、過半数の議員の意見を無視した点で民主主義を揺るがす行為だった。市議会には原発の立地市として、原子力政策を正面から議論する姿勢を求めたい。

市民団体が提出した抗議文と署名簿に目を通す御前崎市議会の増田雅伸議長(左)=7日、同市役所
市民団体が提出した抗議文と署名簿に目を通す御前崎市議会の増田雅伸議長(左)=7日、同市役所
 増田雅伸議長ら6人の市議と市幹部は4月14日、経済産業省資源エネルギー庁など3省庁に柳沢重夫市長と連名の要請書を届けた。要請書は脱炭素社会の実現に向けた現実的な取り組みとして既存原発の早期再稼働を挙げ、市政運営や市内経済を中部電力浜岡原発(同市佐倉)が稼働していた東日本大震災以前の状況に「一日も早く戻す」必要があると指摘した。
 要望活動や要請書の内容を他の9人の市議に伝えなかったのは、原子力エネルギーの活用や浜岡原発の再稼働に慎重な市議の反発を避ける意図があったとみられる。問題の発覚後、増田議長は「要望は市のため。秘密で行ったという思いは一切ない」と釈明し、柳沢市長は「要請書は再稼働を頼んだわけではない」と強調した。
 議会が国に要望する手段としては地方自治法に規定された「意見書」がある。両氏の言う通り要請書が再稼働の要望に偏った内容ではなく、市民を思っての文書だったなら、堂々と意見書として議場で議決すべきだったのではないか。結果として要請事項は内々にまとめられ、要望活動以降に開かれた全員協議会(4月19日)と臨時会(同25日)でも報告はなかった。
 同市の市民団体は6月上旬、民意が反映されていないとして要請書の撤回を求める抗議文を増田議長に提出した。撤回を求める署名には浜岡原発の再稼働を推進する市民を含め、数日間で142人が名を連ねたという。再稼働への賛否に関係なく、不透明な議会の動きに市民が不信感を抱いたといえる。
 市にとって最も重要な原子力政策について、議会は十分な議論を尽くすのが筋だ。にもかかわらず今回の問題が起きたことで、立地自治体の閉鎖的な側面が浮き彫りになった。浜岡原発は全炉停止から11年が経過し、原発と共存共栄の道を歩んできた市の将来像は年々描きにくくなっている。あるべき郷土の未来を市民に開かれた状態で論じ、市政を導いていく役割を議会は今こそ果たすべきではないだろうか。
 一部の思惑で一方的に総意が形成され、国に表明した事実を重く受け止めてほしい。
 〈2022.06.12 あなたの静岡新聞〉

一部市議「原発活用を」 議長名で国に要請書 議会内で共有せず

 御前崎市議会の議長ら一部市議が4月中旬、中部電力浜岡原発(同市佐倉)を含む既存原発の最大限の活用などを国に求める議長名の要請書を、事前に市議会内で共有せず関係省庁に届けていたことが11日(※5月11日)までに分かった。他の市議は要望活動をしたことも要請書の内容も知らされておらず、「不適切だ」との声が上がる。

御前崎市長と同市議会議長の連名で国に提出された要請書
御前崎市長と同市議会議長の連名で国に提出された要請書
 要請書は原発の再稼働を推進するとも読み取れる内容で、再稼働に慎重な市議の反発を避けるため共有しなかったとみられる。
 要望は市と合同で行い、増田雅伸議長ら6人の市議と鴨川朗副市長ら市幹部が経済産業省資源エネルギー庁と内閣府、原子力規制庁を訪問した。要請書は柳沢重夫市長と増田議長の連名。資源エネ庁と規制庁には浜岡原発の新規制基準適合性確認審査の迅速化、内閣府には広域避難の課題解決に向けた支援などを求めた。
 資源エネ庁への要請書では「既存の原発の最大限の活用について」との項目を設け、脱炭素社会の実現に向けた現実的な取り組みとして既存原発の早期再稼働を挙げた。規制庁には審査の迅速化を求める理由について、市政運営や市内経済を浜岡原発が稼働していた東日本大震災以前の状況に「一日も早く戻すため」と記述した。
 増田議長は取材に対し「今までの事例を基に『こういうものを出しますよ』という話はしなかった」と述べ、慣例に沿った対応だと主張した。
 要望活動を知らされていなかった市議は「全く聞いていない。議長名を出すからにはまっとうな手続きを踏むべきだ」と憤る。別の市議も「再稼働ありきで前のめりな内容。隠密にこんなことをするのは絶対に良くない」と眉をひそめる。
 総務省によると、地方議会の要望活動について具体的に規定する法律はない。地方自治に詳しい県立大経営情報学部の小西敦教授は「一般論として、議長が議会を代表して要望を行ったとすれば何らかの形で代表性を担保するものが必要」と指摘。その上で「『議会を代表して』という余地があるとすれば、議決を採るまでもなく意見が一致したり、全員協議会で了解を得たりした場合が想定される」との見解を示した。

 ■解説 秘密の行動 信用失う
 御前崎市議会の議長を含む一部市議が、「既存原発の最大限の活用」などを求める国への要請書を事前に議会で共有せずに提出したことは、議論を無視する一方的な行為だ。要請書の存在すら知らなかった議員の方が多いにもかかわらず、議長名が記されたことで「原発推進」の意思が市議会の総意と受け取られてもおかしくない。
 一方、内閣府には広域避難の実効性確保に向けた支援を求めた。要望活動を知らなかった議員からは「広域避難は課題が多く、盛り込んでほしい項目は他にもあった」との声が聞かれた。事前に全議員で話し合う場があったら、立地市としてより中身の濃い要請書になったかもしれない。
 市政の最重要事項といえる原子力政策を巡って秘密の行動がまかり通るような議会を、市民が信用できるとは思えない。
 〈2022.05.12 あなたの静岡新聞〉

浜岡停止長期化で財政に影響 今なお原発依存の地元

 「国策である原子力政策を受け入れ、地域との共生も図ってきた本市の切なる思いをぜひとも受け止めていただきたい」

資源エネルギー庁幹部(左)を前に要請書を読み上げる御前崎市の鴨川朗副市長(右)と同市議=4月中旬、経済産業省
資源エネルギー庁幹部(左)を前に要請書を読み上げる御前崎市の鴨川朗副市長(右)と同市議=4月中旬、経済産業省
 4月中旬、東京・霞が関の経済産業省本館8階。資源エネルギー庁幹部を前に、御前崎市の鴨川朗副市長が声を強めた。傍らには増田雅伸市議会議長ら6人の市議の姿があった。
 手渡した要請書は柳沢重夫市長と増田議長の連名。原子力規制委員会による新規制基準適合性確認審査の迅速化への働きかけ、新増設など原子力発電の将来像の明示、既存原発の最大限活用の3項目を求めた。関係者によると、こうした内容は原発推進派の議員の意向が強く反映されていたという。
 他の市議には東京へ出向くことも、要請書の内容も伝えていなかった。「彼らには焦りがあると思う」。浜岡原発の再稼働に慎重な市議は、推進派による一方的な行動の思惑をこう推測する。
 同市では昨年から、再稼働の見通しが立たない中部電力浜岡原発の現状への不満が目立つようになってきた。
 「われわれにとって経済再生の特効薬は再稼働だ」。昨年11月、推進派の議員は特別委員会で強く主張した。柳沢市長は12月、全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)の副会長として原子力規制庁を訪問し、審査の体制強化や効率化を要望した。今年2月の市議会定例会初日には施政方針演説で「審査が遅々として進んでいない」と苦言を呈し、その後も「あまりにも長い」「いつまでたっても(審査合格に)たどり着かない」と公の場で批判的な言葉を並べた。
 こうした発言の背景にある一つが年々悪化する市の財政だ。市税と交付金を合わせた原発関連の歳入は停止前の2010年度に68億9900万円(決算)と一般会計の39%を占めたが、22年度は42億300万円(予算)と26%まで落ちた。稼働していないため固定資産税の課税対象外の原発設備も多く、減価償却が税収を減らしてきた。
 「市内経済に大きな変化はなかった」。昨年5月、浜岡原発の停止による影響を報道陣に問われた柳沢市長はこう答え、「10年間、原発に依存しないまちづくりを進めてきた」と胸を張った。それから約1年後、議長と連名で出した国への要請書では「審査の長期化は市政運営や市内経済に影響を及ぼしている」と、一日も早く稼働時の状況に戻す必要性を訴えた。停止して11年がたとうとする今もなお、原発に頼らざるを得ない立地市の実情が要請書の文言に表れていた。
     ◇
 浜岡原発は政府要請に伴う全面停止から14日(※5月14日)で11年を迎える。原子力規制委員会による審査は4号機が申請から約8年、3号機は約7年が経過したが、依然目立った進展はない。現状を変えるべく、地元の御前崎市や同市議会、中電はここ1年で新たな動きを見せる。背景と思惑を探った。
 〈2022.05.12 あなたの静岡新聞「浜岡原発停止11年 揺らぐ思惑㊤」より〉
地域再生大賞