リニア工事 命の水 代えがたい資源 大井川流域住民 「議論続けて」【静岡県知事選】

 大井川水系の大平川から水を引き込み、年間15万匹のアマゴを育てる島田市笹間下の釣り堀「やまめ平」。釣った魚はその場で焼いて食べることができ、臭みは全くない。8人の集落に、年間3万人以上の観光客が清流を求めて訪れる。水脈は本流と異なるが、養殖では毎分4~6トンの水を利用する。代表の清水貢さん(72)は「リニア工事を止めることはできないだろうが、水資源は何ものにも代えがたいことを胸に留めて」と実感を持って語る。

大井川水系の大平川から水を引き込みアマゴを育てる清水貢さん。「水資源は何ものにも代えがたい」と語る=5月上旬、島田市笹間下
大井川水系の大平川から水を引き込みアマゴを育てる清水貢さん。「水資源は何ものにも代えがたい」と語る=5月上旬、島田市笹間下

 リニア中央新幹線トンネル工事に伴う大井川水資源や自然環境の保全策を巡り、JR東海はトンネル掘削時に山梨県に流出する湧水量と同じ水量の取水を抑えて流出量を相殺する「田代ダム取水抑制案」を示す。清水さんは「流出する地下水と抑制するダムの水では水質が全く異なる。地下水でなければ、成り立たないなりわいが流域にはある」と指摘する。
 同市神座では大井川護岸工事から1年以上経過した後も、地域の一部の井戸水が出にくくなっている。工事期間中に井戸の水位が低下する可能性はあったが、井戸水が出にくい状況が長期間続いている原因は分かっていない。茶栽培の凍霜害対策として井戸水をスプリンクラーで散水する農業斎藤勝雄さん(79)は「地下の水脈は複雑。護岸工事との因果関係がはっきりせず、補償を求めることはできない」と話す。リニア工事について、「もし水が減った場合、科学的に因果関係を明らかにできるかが重要だと実感した」と振り返り、モニタリングや情報開示の徹底、補償に対する国の関与を求める。
 「水を守ってほしいだけなのに、静岡県が悪者みたいになっている」。大井川の水を農業用水として利用する同市相賀の米農家小栗定夫さん(70)は率直な思いを口にする。リニア工事を巡り、着工を認めない川勝平太前知事の発言や態度にインターネット上では批判が相次いだ。一方、田代ダム案に関して流域の首長が理解を示すことに対し、島田市役所には水資源に懸念を示す否定的な意見が投書やメール、電話で数多く寄せられる。政治家の言動や流域市町と県の意見の食い違いに対し、小栗さんは「良くも悪くもわれわれが勉強する機会になったのも事実。徹底的に話し合えばいい。これまで積み重ねてきた議論を止めてはいけない」と語気を強める。
 (島田支局・寺田将人)
政党公認、推薦候補者に聞きました(届け出順)  リニア中央新幹線工事を巡る静岡県とJR東海の環境影響評価の議論は2014年に環境影響評価準備書に知事意見を出して以来、10年に及ぶが、いまだ解決していない。この議論をどう解決に導くか。解決する上で最も重視する考えは。

 森大介氏(共産公認)大井川の命の水を守ることと南アルプスの自然を守ることを大前提にJRとの話し合いを続ける。

 鈴木康友氏(立民、国民推薦)大きな開発には課題はつきもの。ポイントは、課題があるからやらないではなく、課題を克服して推進する姿勢で進めること。大井川の水資源確保は田代ダム活用案で、現実的な解決策が見えてきた。環境保全の課題も、国から提案のあった順応的管理手法を採用すれば、解決に向けて前進できる。

 大村慎一氏(自民推薦)「早期解決五つの約束」を示す。①議論の主役であるべき流域の皆さんの声をしっかり反映させた交渉を行う②大井川の水と環境はしっかり守る③静岡県のメリットをJRなどから引き出す④これらを担保するために国の関与を明確にする⑤それらについて1年以内に結果を出す。

 <メモ>東京・品川―大阪間を結ぶリニア中央新幹線の南アルプストンネル工事の県内区間は10・7キロ。県は大井川水資源や南アルプス生態系への影響の懸念から静岡工区の着工を認めず、JR東海は2027年の品川―名古屋間の開業を断念した。

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